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異世界歌姫は今日も自由!  作者: ザナトス


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第10話 懐かしい歌

森の奥から差し込む光。カナタは少し迷った。

依頼はもう達成できる。薬草も十分集まった。普通ならそのまま帰るべきだろう。

受付嬢にも無理はするなと言われている。

だが。気になった。とても気になった。

「少しだけ」

誰に言うでもなく呟く。少し見るだけ。危なそうなら戻る。

そう決めて歩き出した。木々の間を進む。森は静かだった。

不思議なくらい静かだった。さっきまで聞こえていた鳥の声も少ない。

代わりに風の音だけが聞こえる。葉が揺れる。枝が揺れる。木漏れ日が踊る。カナタはゆっくり歩いた。

焦る必要はない。この森はどこか優しかった。

そんな気がする。

やがて。視界が開けた。

「わぁ……」

思わず足を止める。そこには小さな空間があった。森の中にぽっかり空いた場所。中央には透き通った泉。

周囲には白や青の花が咲いている。風が吹くたび花びらが揺れた。綺麗だった。

本当に綺麗だった。まるで物語の中の景色だった。カナタはゆっくり泉へ近付く。

水面を覗き込む。驚くほど澄んでいた。底まで見える。

小さな魚も泳いでいる。

「すごいなぁ」

自然と笑顔になる。

こんな場所があるなんて。異世界は本当に綺麗だ。泉の近くに腰を下ろす。風が心地良い。

疲れも少し和らぐ。空を見上げる。青空が見えた。木々の隙間から。ほんの少しだけ。

その景色を見ていると。ふと昔のことを思い出した。

前世。神社の石段。夕暮れ。赤く染まる空。学校帰り。

誰もいない境内。

そこで歌ったこと。

何度も。何度も。ただ楽しかったから。歌っていた。

「懐かしいな」

思わず呟く。異世界へ来てから。前世を思い出すことはあった。

家族。友達。学校。けれど。

一番思い出すのは歌だった。神社で歌った時間だった。不思議だった。

その時。自然と口が開く。昔よく歌っていた曲だった。

誰かのためではない。自分のための歌。気付けば歌っていた。静かな歌だった。優しい歌だった。泉の水面が揺れる。

風が吹く。花びらが舞う。森が静かに耳を傾けているようだった。

カナタは歌う。ゆっくり。穏やかに。

前世と今を繋ぐように。歌う。

その時だった。

ピィ。

小鳥の声が聞こえた。振り返る。いつの間にか小鳥達が集まっている。一羽ではない。

十羽。二十羽。もっとだ。枝の上。花の近く。泉の縁。あちこちにいる。

さらに。兎。鹿。リス。

森の動物達まで集まっていた。誰も騒がない。誰も動かない。

ただ歌を聞いている。まるで。大きな演奏会だった。

「え?」

カナタは少し驚く。だが歌は止まらない。むしろ自然と続いていく。

歌いたい。そう思った。今までで一番。

そして。視界の端が光り始めた。

名前:カナタ

呼び名:

・歌好きの少女

祝福:

・歌姫の祝福

光。

今までよりずっと強い。淡く。暖かく。優しい光だった。

祝福が喜んでいる。そんな気がした。カナタは歌う。

歌は続く。泉が輝く。花びらが舞う。風が踊る。その光景はまるで奇跡だった。

そして。歌が終わる。静寂。誰も動かない。動物達も。風さえも。ほんの数秒。

世界が歌の余韻に浸っていた。

やがて。ふわり。光が舞った。一粒。二粒。三粒。金色の光だった。それは祝福から溢れるように現れた。

「なにこれ……?」

カナタが呟く。光は消えない。むしろ増えていく。

ゆっくりと。何かを形作るように。

まるで。誰かが準備していたものを。

今まさに届けようとしているように。

カナタは知らない。その光の意味を。

そして。神様が最後に残した贈り物が。もうすぐ目の前に現れることを。

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