第49話「帰る理由」
最初に止まったのは、“足”だった。
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アルカディア外縁。
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撤退命令は、出ている。
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確かに。
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はっきりと。
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「各部隊、順次撤退――」
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声が響く。
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だが。
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動かない。
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誰も。
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一歩も。
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「……なんで動かない」
指揮官が低く言う。
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兵は、立っている。
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武器も持っている。
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命令も聞いている。
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だが。
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足が、出ない。
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「聞こえなかったか?」
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「聞こえてます」
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「なら動け」
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一拍。
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「……動きたくない」
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静かな返答。
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だが。
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重い。
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別の場所でも。
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「撤退だ、戻るぞ」
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「……ここ、いいんですよ」
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「何がだ」
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「全部」
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さらに別の場所。
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「補給線を整えて――」
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「ここでいいんじゃないか?」
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崩れている。
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軍の論理が。
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完全に。
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アルカディア内側。
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主人公は、その様子を見ていた。
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「……帰れ」
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誰も動かない。
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「帰れって」
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聞いている。
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だが。
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聞かない。
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ガルドが笑う。
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「無理だな」
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「帰らせろ」
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「帰る理由がねえ」
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「あるだろ」
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「どこに」
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一拍。
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「ここよりいい場所か?」
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言葉が、止まる。
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ミアが小さく言う。
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「……戻ったら、また争い」
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「戻れ」
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「戻りたくない」
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ルルナは静かに言う。
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「満たされています」
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「やめてくれ」
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エルドは周囲を見る。
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「……士気が違います」
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「上げるな」
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「戦う方向ではありません」
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「やめてくれ」
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レイナが記録する。
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「外部勢力、滞在傾向」
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「やめてくれ」
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「定住化の兆候あり」
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「やめてくれって!!」
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その時。
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外の指揮官が、頭を抱える。
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「……なんでだ」
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答えは、単純だった。
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ここは。
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苦しくない。
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足りている。
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争わなくていい。
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壊さなくていい。
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奪わなくていい。
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それだけで。
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帰る理由が、消える。
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主人公は、もう一度言った。
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「帰れ」
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静かに。
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強く。
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だが。
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誰も動かない。
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むしろ。
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一人が座る。
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さらに一人。
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武器を置く。
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空を見る。
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風を感じる。
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完全に。
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“居る”選択をしている。
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「……なんでこうなる」
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誰も答えない。
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答えは、分かりきっている。
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ここが。
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“いい場所”だから。
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それだけだ。
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ガルドが、肩をすくめる。
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「終わったな」
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「終わってない」
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「いや、終わりだ」
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ミアが苦笑する。
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「……勝ちすぎ」
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「勝ってない」
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ルルナは静かに言う。
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「導かれています」
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「やめてくれ」
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エルドは短く言う。
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「守ります」
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「守るな」
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レイナがまとめる。
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「外部勢力、撤退失敗」
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「言うな」
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一拍。
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「定住開始」
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「言うなって!!」
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主人公は、ゆっくりと座り込む。
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「……帰れよ」
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その言葉は。
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もう。
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誰にも届かない。
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その日。
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アルカディアから――
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“帰る理由”が消えた。
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残ったのは。
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ここに居たいという、単純な欲求だけだった。




