第46話「侵攻」
最初に動いたのは、“地面”だった。
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遠く。
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低い振動。
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規則的な音。
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近づいてくる。
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アルカディア外縁。
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見張りが、息を呑む。
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「……来た」
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見える。
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列。
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数。
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揃った足並み。
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旗。
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風に揺れる紋章。
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止まらない。
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進む。
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一直線に。
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「やめてくれ」
主人公は、心底嫌そうに言った。
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だが、止まらない。
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軍は、進む。
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境界線まで。
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そして――
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止まらない。
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一歩。
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踏み込む。
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空気が、変わる。
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その瞬間。
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エルドが動いた。
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「全体、配置完了」
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声は低い。
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だが。
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広がる。
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人が動く。
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無駄がない。
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配置。
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視線。
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距離。
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すべてが、揃う。
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剣は、まだ抜かない。
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だが。
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“いつでも”の形。
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「やめてくれ」
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主人公は、もう一度言った。
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「戦うなよ」
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誰も、答えない。
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答えられない。
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その時。
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軍の先頭が止まる。
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一人、前に出る。
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指揮官。
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視線がぶつかる。
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エルドと。
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静かに。
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だが、鋭く。
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「ここから先は――」
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言葉が、途切れる。
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理由は簡単だ。
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理解したからだ。
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見て。
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感じて。
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判断した。
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この先。
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進めば。
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何が起きるか。
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勝てるかどうかではない。
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“損かどうか”。
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その判断。
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背後では。
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別の軍も止まる。
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さらに別の旗。
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別の国。
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同じように。
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止まる。
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進まない。
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だが、引かない。
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緊張が張り詰める。
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誰も動かない。
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一歩で、始まる。
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一歩で、終わる。
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その距離。
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エルドが、わずかに前に出る。
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剣は抜かない。
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ただ、立つ。
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それだけで。
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境界が、できる。
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見えない線。
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越えれば終わる。
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誰もが、分かる。
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主人公は、もう一度言った。
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「戦うなよ」
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静かな声。
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だが。
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不思議と、届く。
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誰にもではない。
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空気に。
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その場に。
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全体に。
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一瞬。
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何かが緩む。
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ほんのわずか。
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だが、確実に。
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指揮官が、息を吐く。
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「……撤退はしない」
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一拍。
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「だが、進まない」
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決断。
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中途。
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だが。
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それが限界だった。
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他の軍も動かない。
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押さない。
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引かない。
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ただ。
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止まる。
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戦争は、起きない。
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だが。
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終わってもいない。
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張り詰めたまま。
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続く。
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主人公は、座り込む。
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「……なんでこうなる」
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誰も答えない。
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理由は、単純だ。
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価値がある。
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だから、来る。
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だが。
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損だから、踏み込まない。
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その均衡。
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危ういまま。
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成立している。
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その日。
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アルカディアは――
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戦争の“直前”で止まった。
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あと一歩で。
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すべてが壊れる場所で。




