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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第43話「宗教の暴走」

 最初に壊れたのは、“同じ祈り”だった。


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「その形式は誤りです」


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「我々こそ正統だ」


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「解釈が違う」


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「教えは一つだ」


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 アルカディア中央、祈りの区画。


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 人が集まる。


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 だが。


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 向いている先が違う。


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 同じ場所を見ているはずなのに。


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 同じ意味を持たない。


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「やめてくれ」


 主人公は、すでに諦めた顔で言った。


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 かつては。


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 静かだった。


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 ただ、祈るだけだった。


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 だが今は違う。


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 形が増えた。


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 言葉が増えた。


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 意味が増えた。


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 そして。


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 争いが生まれた。


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「我々は地に伏す」


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「それは従属の象徴だ」


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「敬意だ」


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「違う」


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 ぶつかる。


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 正面から。


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 価値観ではない。


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 “正しさ”として。


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 それぞれが。


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 譲らない。


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 レイナが静かに言う。


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「信仰衝突、増加」


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「やめてくれ」


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「管理対象外です」


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「やめてくれって」


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 ガルドが肩をすくめる。


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「手出しできねえ領域だな」


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「出すな」


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 ミアが小さく言う。


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「……一番厄介かも」


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「やめてくれ」


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 エルドは周囲を警戒する。


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 戦闘にはならない。


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 だが。


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 空気が鋭い。


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 その時。


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 静かに、一人が前に出た。


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 ルルナだった。


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 いつもと同じ。


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 穏やかな表情。


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 だが。


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 違う。


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 迷いがない。


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「……やめてください」


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 小さな声。


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 だが。


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 全員が、止まる。


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 なぜか。


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 理由は、分からない。


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 ただ。


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 止まる。


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「祈りは、争うためのものではありません」


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 静かな言葉。


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 だが。


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 重い。


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「正しさを競うものでもありません」


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 視線が集まる。


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 全員が、見る。


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「満たすためのものです」


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 一拍。


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 誰も、反論しない。


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 できない。


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 だが。


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 納得も、していない。


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 それぞれの中に。


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 正しさがあるから。


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 ルルナは、ゆっくりと目を閉じる。


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「ですから――」


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 一呼吸。


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「ここでは、制限します」


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 沈黙。


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 初めてだった。


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 ルルナが。


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 “止める”と言ったのは。


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「形式の強制を禁止します」


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「やめてくれ」


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 主人公は反射で言った。


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「争いの原因となる教義の拡張を制限します」


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「やめてくれって」


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「祈りは、個人に帰属します」


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 レイナがすぐに反応する。


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「管理対象に移行」


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「やめてくれ」


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「規定化可能です」


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「やめてくれって!!」


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 だが、止まらない。


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 ルルナは、静かに頷く。


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「お願いします」


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 それで、決まる。


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 線が引かれる。


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 境界ができる。


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 信仰に。


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 枠がつく。


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 完全ではない。


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 だが。


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 崩壊は止まる。


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 争いが、減る。


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 静けさが、少し戻る。


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 主人公は、座り込む。


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「……なんでこうなる」


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 誰も答えない。


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 信じるものがある限り。


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 ぶつかる。


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 だから。


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 止めるしかない。


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 その日。


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 アルカディアの信仰は――


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 初めて、管理された。


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 それは。


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 守るための制限。


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 壊さないための枠。


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 そして。


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 信じることすら。


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 “仕組み”の中に入った瞬間だった。


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