第41話「経済の完成」
最初に壊れたのは、“値段”だった。
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「これ、いくらだ?」
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「決まっていません」
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「は?」
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アルカディア市場区。
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人が集まり。
物が並び。
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だが――
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値札がない。
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「やめてくれ」
主人公は、すでに嫌な予感しかしなかった。
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野菜がある。
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布がある。
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道具がある。
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どれも質がいい。
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だが。
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価格が、バラバラ。
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「昨日は三倍だったぞ!」
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「今日は半分だ!」
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「誰が決めてるんだ!」
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混乱。
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ガルドが、ため息をついた。
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「限界だな」
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「やめてくれ」
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「流通が整ってねえ」
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「整えるな」
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「値段が安定しねえ」
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「安定しなくていい」
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「する」
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即答だった。
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ガルドは、地面に線を引く。
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「まず、基準を作る」
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「やめてくれ」
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「共通単位だ」
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「やめてくれ」
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小さな金属片を取り出す。
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「これを基準にする」
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「やめてくれって」
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「価値を固定する」
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「固定するな」
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「しないと壊れる」
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静かな言葉。
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だが、正しい。
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レイナが補足する。
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「交換効率が低下しています」
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「やめてくれ」
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「資源配分が歪んでいます」
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「やめてくれって」
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ガルドは続ける。
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「次に流れだ」
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「やめてくれ」
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「どこから来て、どこに行くか」
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「やめてくれ」
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「管理する」
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「やめてくれって!!」
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だが、止まらない。
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倉庫ができる。
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記録が始まる。
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運ぶルートが決まる。
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人が配置される。
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完全に。
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“流れ”が作られる。
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ミアが呟く。
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「……商業国家みたい」
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「やめてくれ」
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ルルナは静かに言う。
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「施しの形が変わりますね」
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「やめてくれ」
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エルドは短く言う。
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「安定します」
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「安定するな」
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その時。
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「問題がある」
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レイナが言った。
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「やめてくれ」
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「外部依存が増加しています」
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「やめてくれって」
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ガルドが頷く。
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「外と繋がるほどな」
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「繋ぐな」
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「物が入る」
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「入れるな」
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「出る」
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「出すな」
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「止めるか?」
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「止めろ」
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一拍。
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「無理だ」
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「やめてくれ」
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すでに繋がっている。
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外と。
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完全に。
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切れば。
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崩れる。
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繋げば。
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依存する。
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どちらでもない道はない。
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レイナが結論を出す。
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「内部生産を維持しつつ」
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「やめてくれ」
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「外部流通を制御します」
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「やめてくれって」
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ガルドが笑う。
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「いい落としどころだ」
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「よくない」
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「全部取る」
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「やめろ」
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そのまま。
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決まる。
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通貨が生まれる。
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流通が整う。
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価値が固定される。
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そして。
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税に似たものが、自然に発生する。
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誰も言っていない。
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だが。
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維持のために必要だから。
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回るために必要だから。
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取られる。
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使われる。
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回る。
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主人公は、静かに座り込む。
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「……何これ」
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誰も答えない。
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答えは、もう目の前にある。
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これは。
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経済だ。
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完全な。
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独立した。
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外とも繋がる。
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閉じても回る。
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その日。
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アルカディアに――
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“経済圏”が完成した。
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もう、止められない形で。




