第40話「法律」
最初に増えたのは、“例外”だった。
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「それは規則違反です」
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「その規則は、我々には適用されない」
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「適用されます」
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「文化が違う」
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言い合いが、止まらない。
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アルカディア中央。
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人が増えた。
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価値観が増えた。
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そして。
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例外が増えた。
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「やめてくれ」
主人公は、完全に嫌そうな顔で言った。
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食料配分で揉める。
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労働時間で揉める。
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祈りの場所で揉める。
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どれも小さい。
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だが。
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全部、違う。
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レイナが静かに言う。
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「現行規則では対応不能です」
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「やめてくれ」
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「例外が増えすぎています」
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「やめてくれって」
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紙が置かれる。
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分厚い。
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「……何それ」
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「法案です」
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「やめてくれ」
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レイナは、淡々と続ける。
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「規則を明文化します」
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「やめてくれ」
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「解釈の余地を減らします」
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「やめてくれ」
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「違反時の処理も明確化します」
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「やめてくれって!!」
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ガルドが笑う。
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「ついに来たな」
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「何が」
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「法律だ」
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「やめてくれ」
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ミアが、小さく言う。
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「……国みたい」
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「やめてくれ」
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ルルナは紙を見て、目を閉じる。
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「祈りまで書かれているのですね」
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「やめてくれ」
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エルドは、静かに頷く。
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「守りやすくなります」
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「守るな」
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レイナがページをめくる。
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条文。
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定義。
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例外規定。
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責任範囲。
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完全に。
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“制度”。
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主人公は、しばらく黙って見ていた。
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そして。
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ぽつりと呟く。
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「自由でいいだろ」
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静かな言葉。
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だが。
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レイナは首を振る。
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「自由を維持するために必要です」
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「やめてくれ」
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「自由は、放置では維持できません」
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「言い方やめろ」
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ガルドが肩をすくめる。
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「自由ほど面倒なもんはねえ」
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「やめてくれ」
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ミアが小さく言う。
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「守るための制限……」
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「やめてくれ」
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ルルナは、静かに頷く。
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「秩序がなければ、祈りも壊れます」
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「やめてくれ」
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エルドは短く言う。
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「必要です」
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「必要じゃない」
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だが。
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現実は変わらない。
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人が増えた。
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問題が増えた。
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例外が増えた。
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だから。
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書かれる。
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決められる。
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縛られる。
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主人公は、椅子に座り込む。
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「……なんでこうなる」
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誰も答えない。
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答えは簡単すぎるからだ。
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守るため。
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維持するため。
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壊さないため。
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レイナが、最後のページを閉じる。
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「暫定法体系、完成」
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その言葉は。
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静かだった。
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だが、重い。
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もう。
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ただのルールではない。
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国が持つもの。
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国家の仕組み。
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それが、ここにある。
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主人公は、天井を見る。
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「……自由でいいだろ」
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誰も否定しない。
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だが。
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誰も賛成もしない。
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その日。
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アルカディアは――
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国家機能完成まで、あと一歩の場所に立った。
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戻れないところまで。




