第39話「文化衝突」
最初にぶつかったのは、“言葉”だった。
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「それは間違っている」
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「何を基準にだ」
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「信義に反する」
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「効率が悪い」
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アルカディア中央。
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声が重なる。
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増えている。
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人ではなく。
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“価値観”が。
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「やめてくれ」
主人公は、すでに疲れていた。
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食の区画。
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配給の列が、止まっている。
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「なぜ同量なのだ」
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「規則だからです」
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「我々は体格が違う」
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「基準は統一されています」
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押し問答。
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別の場所。
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「祈りの時間は固定されるべきだ」
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「自由に任せるべきです」
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「神への敬意が――」
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「強制は信仰ではありません」
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さらに別の場所。
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「労働配分が不公平だ」
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「適性に基づいています」
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「だが文化が違う」
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「関係ありません」
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完全に。
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噛み合っていない。
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エルドが低く言う。
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「小競り合いが増えています」
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「やめてくれ」
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ミアが顔を曇らせる。
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「……まとめきれてない」
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「まとめなくていい」
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ルルナの周囲でも。
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祈りの形式で揉めている。
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「手を合わせるべきだ」
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「我々は地に伏す」
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「それは違う」
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「違わない」
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分裂。
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拡散。
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衝突。
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ガルドが肩をすくめる。
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「そりゃそうだ」
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「何が」
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「全部違う連中が集まってんだ」
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「やめてくれ」
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「同じになるわけねえ」
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その通りだった。
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人。
宗教。
魔族。
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前提が違う。
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だから。
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ぶつかる。
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レイナが一歩前に出る。
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「調整を開始します」
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「やめてくれ」
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「食料配分、再定義」
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「やめてくれ」
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「労働区分、再編」
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「やめてくれ」
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「信仰行動、制限――」
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「やめてくれって!!」
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だが。
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止まらない。
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言葉では、追いつかない。
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理論では、収まらない。
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その時。
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「……もういい」
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主人公が立ち上がった。
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全員が、わずかに視線を向ける。
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「やめろ」
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だが、止まらない。
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主人公は、歩く。
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台所へ。
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いつもの場所。
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火をつける。
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水を使う。
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野菜を切る。
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肉を焼く。
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音がする。
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香りが広がる。
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会話が、少しずつ止まる。
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匂いが届く。
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「……何だ」
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「食べ物か」
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誰かが呟く。
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主人公は、何も言わない。
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ただ、作る。
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皿に盛る。
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置く。
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「食え」
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短い一言。
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一瞬の沈黙。
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そして。
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誰かが口にする。
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「……」
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止まる。
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思考が。
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次の瞬間。
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「……うまい」
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その一言で。
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何かが、崩れた。
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別の者も食べる。
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「……これは」
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さらに。
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「……違う」
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「何が」
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「争う理由が分からない」
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静かに。
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空気が変わる。
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言葉が、消える。
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代わりに。
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咀嚼音。
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満足。
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沈黙。
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レイナが、わずかに目を細める。
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「……影響確認」
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「言うな」
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「対立感情、低下」
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「言うなって」
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エルドが小さく呟く。
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「落ち着いています」
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「戦うな」
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ミアが、ほっと息を吐く。
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「……なんで?」
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ガルドが笑う。
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「簡単だ」
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「何が」
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「うまいからだ」
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「やめてくれ」
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ルルナは、静かに言う。
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「満たされています」
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「やめてくれ」
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完全な解決ではない。
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だが。
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止まった。
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一部が。
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確実に。
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主人公は、いつもの場所に戻る。
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何も言わない。
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何も考えない。
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ただ。
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作っただけ。
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それだけで。
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少しだけ、世界が静かになる。
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その日。
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アルカディアの衝突は――
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一部、沈静化した。
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理由は単純だった。
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うまいから。
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それだけだった。




