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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第38話「魔族接触」

 それは、“音のない来訪”だった。


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 夜。


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 アルカディア外縁。


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 見張りが、ふと顔を上げる。


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 何かが、いる。


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 だが。


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 気配が薄い。


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 敵意がない。


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 殺気もない。


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 それなのに――


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 “違う”。


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「……来てるな」


 エルドが低く言う。


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「帰れ」


 主人公は反射で言った。


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「まだ何も言っていません」


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 声がした。


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 背後から。


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 誰も気づかなかった場所から。


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 振り向く。


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 そこに、立っている。


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 黒い外套。


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 角。


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 静かな目。


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「やめてくれ」


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「我々は使者です」


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「帰れ」


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「敵対の意思はありません」


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「帰れ」


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 会話が成立しない。


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 だが、使者は動じない。


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「接触の許可を求めます」


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 レイナが前に出る。


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「制限付きで許可します」


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「するな」


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 エルドは動かない。


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 だが、いつでも動ける。


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 空気が張り詰める。


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 使者は、ゆっくりと周囲を見る。


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 建物。


 人。


 光。


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「……興味深い」


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 その言葉に。


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 微かな違和感。


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「何が」


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「均質です」


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「は?」


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「人間にしては」


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 その一言で。


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 空気が変わる。


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 エルドの視線が鋭くなる。


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 だが、使者は続ける。


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「争いの痕跡が薄い」


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「やめてくれ」


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「欲が、分散している」


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「やめてくれって」


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「中心が、存在しない」


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「あるだろ」


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「いいえ」


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 使者は、静かに首を振る。


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「この場所は、“支配構造”が見えない」


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 レイナが即答する。


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「管理構造は存在します」


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「それは支配ではない」


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 静かな否定。


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「……奇妙です」


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 ガルドが笑う。


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「褒め言葉か?」


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「評価です」


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 使者は、主人公を見る。


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 まっすぐに。


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「あなたが中心ですか」


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「違う」


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 即答。


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「では、誰が」


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「いない」


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 一拍。


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 使者は、わずかに目を細める。


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「……なるほど」


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「何が」


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「だから、崩れない」


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「やめてくれ」


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 ルルナが近づく。


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 静かに。


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「あなた方は、何を求めて来たのですか」


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 使者は答える。


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「確認です」


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「何を」


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「敵か、そうでないか」


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 沈黙。


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 短い言葉。


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 だが、重い。


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 エルドがわずかに前に出る。


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「答えは」


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 使者は、少しだけ考えた。


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 そして。


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「現時点では、どちらでもない」


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 空気が、わずかに緩む。


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 だが、完全ではない。


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「関係を持つ価値はある」


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「やめてくれ」


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「ただし――」


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 一拍。


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「理解できない」


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「やめてくれって」


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 それが、本音だった。


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 敵でもない。


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 味方でもない。


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 だが。


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 放置もできない。


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 使者は、一歩下がる。


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「本日はこれで」


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「来るな」


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「また来ます」


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「来るなって!!」


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 そのまま。


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 音もなく、消える。


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 最初からいなかったかのように。


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 静寂。


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 だが。


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 何かが、残る。


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 主人公が呟く。


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「……何あれ」


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 レイナが答える。


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「新勢力です」


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「やめてくれ」


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 ガルドが笑う。


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「増えたな」


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「やめてくれ」


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 ミアが小さく言う。


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「人間だけじゃなくなった……」


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「やめてくれ」


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 ルルナは静かに目を閉じる。


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「導きが広がっています」


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「やめてくれ」


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 エルドは、短く言う。


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「守ります」


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「守るな」


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 主人公は、空を見上げた。


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「……帰れって言ったよな」


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 誰も帰らない。


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 その日。


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 アルカディアは――


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 三つ目の視点を得た。


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 人。


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 信仰。


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 そして。


---


 魔族。


---


 世界は、さらに広がる。


---


 関係もまた。


---


 複雑に、深く。


---


 もう。


---


 止まらない。


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