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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第37話「他国の視線」

 最初に増えたのは、“視線”だった。


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 アルカディア外縁。


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 見られている。


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 遠くから。


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 近くから。


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 隠れて。


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 堂々と。


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「……増えてる」


 主人公は、うんざりと呟いた。


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 人ではない。


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 “意図”が増えている。


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 エルドが周囲を見渡す。


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「数だけではありません」


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「何が」


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「質が変わっています」


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 確かに。


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 これまでの商人や巡礼者とは違う。


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 装備。


 動き。


 距離の取り方。


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 明らかに。


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 “観察している”。


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「やめてくれ」


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 レイナが報告する。


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「複数国家の使節団を確認」


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「やめてくれ」


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「同時に非公式侵入者も増加」


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「言い方やめろ」


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「スパイです」


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「言うな」


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 その時。


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「失礼する」


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 正面から来る一団。


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 堂々としている。


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 隠さない。


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 使節団。


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 紋章が違う。


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 王国ではない。


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「我々は西方連合より――」


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「帰れ」


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 即答。


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「話を聞いていただきたい」


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「帰れ」


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 だが、止まらない。


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 別方向からも声。


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「東部諸国代表として――」


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「帰れ」


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 さらに。


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「中立同盟の立場から――」


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「帰れ!!」


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 完全に増えていた。


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 そして。


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 同時に。


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 影も動く。


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 屋根の上。


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 影が走る。


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 物陰。


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 気配が消える。


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 エルドが、わずかに目を細める。


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「……見ています」


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「見せるな」


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「見せていません」


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 だが、見られている。


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 徹底的に。


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 レイナが淡々と言う。


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「情報収集活動、活発化」


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「やめてくれ」


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「各勢力、主導権確保を狙っています」


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「やめてくれって」


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 その時。


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 別の声が割り込む。


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「その交渉は王国を通せ」


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 王国の文官。


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 すぐに反発。


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「貴国にその権利はない」


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 別の使節。


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「ここは我々の管轄に――」


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「ふざけるな」


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 空気が、変わる。


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 剣は抜かれない。


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 だが。


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 言葉が鋭くなる。


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「この地は王国の――」


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「違う」


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「独占は認めない」


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「当然だ」


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「中立を標榜するなら――」


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「干渉するな」


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 ぶつかる。


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 正面から。


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 それぞれの論理。


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 それぞれの思惑。


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 そして。


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 共通していること。


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 “欲しい”。


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 主人公は、その中心で言った。


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「増やすな」


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 誰も聞かない。


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 むしろ、増える。


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 声が。


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 人が。


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 圧が。


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 ガルドが小さく笑う。


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「いい流れだな」


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「よくない」


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「取り合いになってる」


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「やめてくれ」


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 ミアが顔を曇らせる。


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「……完全に、外の争いが来てる」


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「来るな」


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 ルルナは、静かに言う。


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「導かれているのです」


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「やめてくれ」


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 エルドは、低く呟く。


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「ここで止めるしかない」


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「止めろ」


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 だが、止まらない。


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 理由は簡単だ。


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 ここが。


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 価値そのものだから。


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 その時。


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 レイナが静かに言った。


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「外部認識、更新」


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「やめてくれ」


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「本圏は――」


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 一拍。


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「国際的争点として認識されました」


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 沈黙。


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 意味は、明確だった。


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 もう。


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 一つの場所ではない。


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 世界の問題。


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 世界の中心。


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 争いの焦点。


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 主人公は、ゆっくりと座り込む。


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「……なんでこうなる」


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 誰も答えない。


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 答えは、単純すぎるからだ。


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 価値がある。


---


 だから、奪い合う。


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 その日。


---


 アルカディアは――


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 完全に、“国際問題”になった。


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