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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第36話「都市化」

 最初に消えたのは、“余白”だった。


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 アルカディア。


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 かつて、森だった場所。


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 今は――


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 建物が並んでいる。


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 隙間なく。


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「……狭くない?」


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 主人公は、ぼそりと呟いた。


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 道がある。


---


 人が行き交う。


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 荷が運ばれる。


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 声がある。


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 整っている。


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 だが。


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 明らかに。


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 詰まっている。


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「やめてくれ」


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 エルドが横で言う。


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「人口が限界に達しています」


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「減らせ」


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「無理です」


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 即答。


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 レイナが紙を広げる。


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 そこには、線が引かれている。


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 区画。


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 道。


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 建物配置。


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「再設計します」


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「やめてくれ」


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「現状の構造では維持不可」


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「やめてくれって」


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 その時。


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 重い音が響く。


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 ゴン。


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 振り向けば。


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 石。


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 巨大な石材が運ばれている。


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「……何それ」


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 バルドが答える。


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「基礎だ」


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「何の」


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「建物の」


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「やめてくれ」


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 さらに音が響く。


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 ゴン。


 ゴン。


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 積まれていく。


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 木ではない。


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 石。


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 完全に。


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 “変わっている”。


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 主人公は、ゆっくり周囲を見る。


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 小屋。


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 もうない。


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 代わりにあるのは。


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 整った建物。


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 並ぶ壁。


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 伸びる道。


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 区切られた空間。


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「……これ何」


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 誰もすぐには答えない。


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 必要がないからだ。


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 レイナが淡々と言う。


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「都市化が進行しています」


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「やめてくれ」


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「人口密度に対応するための最適化です」


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「やめてくれって」


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 ガルドが笑う。


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「いいじゃねえか」


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「よくない」


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「商売しやすい」


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「やめてくれ」


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 ミアが周囲を見る。


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「……整いすぎてる」


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 ルルナは、建物の間で祈る。


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 人が集まる。


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 場所が、できている。


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 エルドは言う。


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「防衛しやすい構造です」


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「防衛するな」


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 その時。


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 外から声が届く。


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「報告!」


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 走ってくる者。


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「周辺諸国より通達!」


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 レイナが受け取る。


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 目を通す。


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 一拍。


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「外部認識、更新」


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「やめてくれ」


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 静かに言う。


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「本圏は――」


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 一瞬の間。


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「都市国家と認定されました」


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 沈黙。


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「やめてくれ」


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 主人公は即答した。


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「村だろ?」


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 誰も否定しない。


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 だが。


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 誰も肯定もしない。


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 現実が、目の前にあるからだ。


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 人がいる。


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 機能がある。


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 流れがある。


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 管理がある。


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 そして――


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 規模がある。


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 それはもう。


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 村ではない。


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 レイナが、再び図面を広げる。


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「都市設計を開始します」


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「やめてくれ」


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「区画の再編」


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「やめてくれ」


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「動線の最適化」


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「やめてくれって!!」


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 だが、止まらない。


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 線が引かれる。


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 空間が決まる。


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 形が変わる。


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 アルカディアが。


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 “設計される”。


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 主人公は、その中心で立っていた。


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 何もしていない。


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 何も変えていない。


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 はずなのに。


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 すべてが変わっていく。


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 静かに。


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 確実に。


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 そして。


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 気づけば。


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 もう戻れない。


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 主人公は、ぽつりと呟いた。


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「……村だろ」


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 その言葉は。


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 もう、どこにも届かない。


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 その日。


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 アルカディアから――


---


 “村”という概念が消えた。


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 残ったのは。


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 機能する都市。


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 そして。


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 止まらない、拡張だけだった。


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