第35話「生活の終わり」
静かだった。
---
それが、逆に異常だった。
---
アルカディア中央。
---
人はいる。
多い。
---
だが――
---
騒ぎはない。
---
整っている。
---
回っている。
---
完成している。
---
主人公は、その光景を見ていた。
---
「……これ、何?」
---
誰もすぐには答えなかった。
---
必要がなかったからだ。
---
すでに、答えは出ている。
---
食料。
---
外へ流れる。
---
止めても、流れる。
---
世界のあちこちで。
---
アルカディア産が使われる。
---
飢えを止める。
体を癒す。
---
規模が違う。
---
経済。
---
市場が、それを中心に動く。
---
値段が変わる。
流通が変わる。
---
名前一つで、価値が決まる。
---
軍事。
---
誰も攻めない。
---
攻められない。
---
試した者は、戻らなかった。
---
宗教。
---
祈りがある。
---
形は違う。
だが、向かう先は同じ。
---
この場所。
---
政治。
---
人が来る。
---
決めるために。
---
争わないために。
---
ここで、選ぶために。
---
すべてが――
---
集まる。
---
主人公は、もう一度言った。
---
「……これ、何?」
---
レイナが答える。
---
「安定しています」
---
「やめてくれ」
---
ガルドが笑う。
---
「いや、まだ伸びる」
---
「やめてくれ」
---
ミアが、静かに言う。
---
「……もう戻れません」
---
「戻れ」
---
ルルナは、祈る。
---
「すでに導かれています」
---
「やめてくれ」
---
エルドは、ただ立つ。
---
「守ります」
---
「守るな」
---
誰も止まらない。
---
誰も戻らない。
---
すべてが、進んでいる。
---
完成しているのに。
---
止まらない。
---
主人公は、ゆっくりと座った。
---
その場に。
---
もう、立つ理由がないように。
---
「……ただ暮らしたいだけなんだが」
---
その言葉は。
---
いつも通りだった。
---
だが――
---
もう、意味はなかった。
---
ここには、もうない。
---
“ただの生活”は。
---
代わりにあるのは。
---
影響。
---
広がり。
---
連鎖。
---
一人の生活が。
---
村になり。
---
領地になり。
---
そして――
---
世界に触れる。
---
主人公は、目を閉じる。
---
何も変わっていないはずだった。
---
小屋を直しただけ。
水を引いただけ。
畑を作っただけ。
---
それだけだった。
---
だが。
---
その積み重ねが。
---
すべてを変えた。
---
静かに。
---
確実に。
---
戻れないところまで。
---
そして、その日。
---
アルカディアは――
---
“生活”ではなくなった。
---
個人の暮らしは。
---
国家を動かすものへと変わった。
---
望まなくても。
---
関係なく。
---
ただ、生きていただけで。
---
世界に影響する存在になった。
---
それが。
---
終わりだった。
---
そして――
---
始まりでもあった。




