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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第31話「選択の場」

 その日は、“静かではなかった”。


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 森の外縁。


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 人がいる。


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 多い。


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「……増えてる」


 主人公は、げんなりと呟いた。


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 いつもの規模ではない。


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 騎士。


 商人。


 白衣の者たち。


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 それぞれが、距離を取りながら――


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 同じ場所を見ている。


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 アルカディア。


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「やめてくれ」


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 エルドが一歩前に出る。


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「警戒します」


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「しなくていいから帰らせろ」


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「無理です」


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 レイナが静かに言う。


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「全勢力、出揃いました」


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「やめてくれ」


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 ガルドが、面白そうに笑う。


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「壮観だな」


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「やめてくれ」


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 ルルナは、いつものように祈っている。


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 その背後で。


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 視線が、交錯していた。


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 王国。


 商会。


 宗教。


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 それぞれが、互いを警戒している。


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 だが――


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 誰も動かない。


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 動けない。


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 理由は一つ。


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 ここが、“中立”だからだ。


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 レイナが一歩前に出る。


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「発言を許可します」


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「許可するな」


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 だが、始まる。


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 王国側の文官が口を開く。


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「当該人物の引き渡しを求める」


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 すぐに、別の声が被さる。


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「それよりも流通の安定が先だ」


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 商人。


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「この地は聖域であるべきです」


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 宗教。


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 三つの声。


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 三つの論理。


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 ぶつかる。


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 だが――


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 剣は抜かれない。


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 ここでは。


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 抜けない。


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 エルドがいるからだ。


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 全員が分かっている。


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 ここで戦えば。


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 終わる。


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 だから。


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 言葉だけが、飛び交う。


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「王国の管理下に置くべきだ」


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「独占は許さない」


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「信仰の場として整備を――」


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「やめてくれ!!」


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 主人公の声が響く。


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 一瞬だけ、静まる。


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 全員の視線が集まる。


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「帰れ」


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 短い一言。


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 だが――


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 誰も動かない。


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 王国は言う。


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「帰れない」


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 商人は言う。


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「帰らねえ」


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 宗教は言う。


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「ここに意味がある」


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「やめてくれ」


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 完全に詰んでいた。


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 レイナが静かに整理する。


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「本圏は交渉場として機能しています」


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「させるな」


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「外部勢力間の衝突回避に寄与」


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「やめてくれ」


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 ガルドが笑う。


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「いいじゃねえか」


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「よくない」


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「ここに来りゃ、全員会える」


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「やめろ」


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「効率いい」


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「やめろって!!」


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 だが、現実はそれだった。


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 ここに来れば。


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 話せる。


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 ぶつかれる。


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 だが、戦えない。


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 だから――


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 集まる。


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 自然に。


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 必然的に。


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 アルカディアが。


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 “場”になる。


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 主人公は、その中心に立っていた。


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「……なんでこうなる」


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 誰も答えない。


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 答えは、目の前にある。


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 価値がある。


 意味がある。


 安全がある。


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 だから。


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 集まる。


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 ただそれだけ。


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 だが、それは――


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 止まらない。


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 レイナが静かに言う。


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「今後、定期的な交渉の場となる可能性があります」


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「やめてくれ」


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 エルドは周囲を見渡す。


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「守りは維持できます」


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「守るな」


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 ミアは、小さく息を吐く。


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「……もう、逃げられませんね」


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「逃げろ」


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 ガルドは笑う。


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「むしろ中心だな」


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「やめてくれ」


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 ルルナは、ただ祈る。


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 その祈りの中で。


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 人は、語り合う。


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 争わずに。


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 だが、激しく。


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 主人公は、最後にもう一度言った。


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「帰れ」


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 誰も帰らなかった。


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 その日。


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 アルカディアは。


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 完全に――


---


 “選択の場”になった。


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 世界が、ここで決めようとする場所に。


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