第30話「ミアの正体」
それは、“名前”から始まった。
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「……確認する」
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森の外縁。
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いつもより少ない。
だが、質が違う。
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整った装備。
統一された紋章。
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騎士団。
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そして、その中央に立つ男。
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「対象を引き渡せ」
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短い言葉。
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エルドが一歩前に出る。
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「誰のことだ」
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男は、迷いなく言った。
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「ミア・エル=ヴァルディア」
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沈黙。
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空気が、凍る。
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主人公が小さく呟く。
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「……誰?」
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ミアの肩が、震えた。
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ゆっくりと、顔を上げる。
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その目は――
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逃げ場を失っていた。
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「……それ、私です」
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「やめてくれ」
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主人公は即座に言った。
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「なんでだよ」
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男が続ける。
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「ヴァルディア公爵家の令嬢」
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一拍。
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「失踪中の第一継承者だ」
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完全に、空気が変わる。
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エルドの表情が固まる。
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レイナの目がわずかに細くなる。
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ガルドが、静かに笑った。
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「……大物じゃねえか」
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「やめてくれ」
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主人公は頭を抱える。
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「なんでだよ」
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ミアは、小さく俯く。
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「……言えませんでした」
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「言えよ」
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「言えませんでした……」
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その声は、小さい。
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だが、重い。
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男が一歩前に出る。
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「速やかに引き渡せ」
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「帰れ」
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主人公の答えは変わらない。
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「本件は国家案件だ」
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「関係ない」
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「関係ある」
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レイナが前に出る。
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「外交案件として扱います」
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「やめてくれ」
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「対象は当圏の保護下にあります」
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「保護するな」
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「よって、引き渡しは拒否します」
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「やめろって!!」
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男の目が鋭くなる。
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「それは、王国への敵対行為とみなす」
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空気が張り詰める。
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エルドが、静かに動く。
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わずかに前へ。
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完全に、守る位置。
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「……やる気か」
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騎士たちが反応する。
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手が武器にかかる。
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緊張。
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爆発寸前。
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「やめろ!!」
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主人公の声が響く。
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全員が、止まる。
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ほんの一瞬。
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その隙間に。
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「……価値があるな」
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ガルドが、ぽつりと呟いた。
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「やめてくれ」
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「公爵家の令嬢」
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「やめろ」
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「外交カードとしては最高だ」
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「やめろって!!」
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完全に最悪だった。
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レイナが補足する。
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「外部交渉における重要要素です」
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「やめてくれ」
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「影響範囲、国家レベル」
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「やめてくれって!!」
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主人公は頭を抱える。
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「なんでこうなる」
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ミアが、小さく言う。
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「……私のせいです」
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「違う」
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即答だった。
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「関係ない」
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その一言に。
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ミアの目が揺れる。
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「でも――」
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「関係ない」
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繰り返す。
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「ここにいるなら、それだけだ」
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単純な言葉。
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だが、それは――
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外の論理を、完全に無視していた。
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男が、冷たく言う。
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「それでは済まない」
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「済ませる」
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即答。
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空気が、再び張り詰める。
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だが――
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誰も動かない。
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動けば、壊れる。
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全員が分かっている。
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だから。
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「……一度、引く」
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男が言った。
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わずかに、後退する。
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「だが、終わりではない」
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「終われ」
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「正式な対応を取る」
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「やめろ」
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そのまま、去っていく。
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騎士たちも続く。
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森に、静寂が戻る。
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だが。
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何も終わっていない。
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むしろ。
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始まった。
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主人公は、その場に座り込む。
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「……何これ」
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誰も答えない。
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答えは、明白だからだ。
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ただの保護ではない。
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ただの居住者ではない。
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国家の中枢。
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権力の中心。
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その一部が、ここにある。
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レイナが静かに言う。
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「完全に政治問題化しました」
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「やめてくれ」
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ガルドは笑う。
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「面白くなってきた」
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「やめてくれ」
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エルドは静かに立つ。
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「守ります」
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「守るな」
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ミアは、小さく俯いたまま。
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何も言わない。
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主人公は、空を見上げる。
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「……ただ暮らしたいだけなんだが」
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その願いは、もう届かない。
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この場所は。
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ただの生活ではない。
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ただの村でもない。
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国家と繋がった。
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逃げられない場所になった。
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その日。
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アルカディアは――
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完全に、“政治”の中心へ踏み込んだ。




