第29話「防衛の意味」
最初に来たのは、“確認”だった。
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森の外縁。
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気配がある。
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隠そうとしているが、隠れていない。
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「……いるな」
エルドが低く呟く。
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「帰ってくれ」
主人公は即答した。
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「無理です」
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すでに遅い。
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草を踏む音。
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姿が現れる。
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軽装の男たち。
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騎士ではない。
だが、素人でもない。
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「……偵察か」
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エルドの声が冷える。
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男たちは、距離を取ったまま止まる。
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「ここが例の場所か」
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「帰れ」
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「少し確認するだけだ」
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「帰れって」
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その一歩。
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踏み込んだ瞬間。
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空気が変わった。
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「それ以上は許可しません」
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エルドが前に出る。
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剣は抜いていない。
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だが――
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“止める意思”がある。
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「……一人か」
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男たちが笑う。
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「試してみるか」
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「やめろ」
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主人公の声は、届かない。
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一歩。
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さらに踏み込む。
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その瞬間。
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エルドが動いた。
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速い。
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見えない。
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次の瞬間には。
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男の喉元に、剣があった。
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抜かれている。
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いつの間にか。
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「……これ以上は」
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低い声。
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「踏み込むな」
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沈黙。
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誰も動けない。
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空気が凍る。
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「……引け」
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誰かが言う。
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男たちは、ゆっくりと後退する。
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一歩。
二歩。
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そして。
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森の外へ消える。
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静寂。
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主人公は、しばらく動けなかった。
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「……今の何」
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エルドは剣を収める。
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「警告です」
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「戦うなよ!!」
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「戦っていません」
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「戦ってるだろ!!」
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だが、それで終わらない。
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その日。
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もう一度、来た。
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今度は、別の者たち。
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同じように。
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そして、同じように。
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止められる。
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さらに、次の日。
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また来る。
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違う者たち。
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そして――
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全員が、同じ結論に至る。
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入れない。
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近づけない。
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突破できない。
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森の外で、言葉が交わされる。
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「……無理だ」
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「一人であれか」
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「戦えば?」
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「無駄だ」
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評価が固まる。
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アルカディアは。
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“落とせない”。
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その頃。
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中では。
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「やめてくれ」
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主人公が頭を抱えていた。
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レイナが報告する。
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「侵入試行、全て排除」
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「排除するな」
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「防衛成功率、100%」
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「やめてくれって!」
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エルドが静かに言う。
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「これで、来なくなります」
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「来るなよ」
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「抑止になります」
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「ならないでいい」
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だが、現実は違う。
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来なくなる。
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“攻める者”は。
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だが――
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代わりに。
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来るものが変わる。
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“話す者”。
“様子を見る者”。
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“関わろうとする者”。
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主人公は、ぼそりと呟く。
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「……何これ」
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誰も答えない。
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だが、分かる。
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これはもう。
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ただの防衛ではない。
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力の提示。
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証明。
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そして――
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“抑止”。
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戦わずして、勝つ。
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近づかせないことで、守る。
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エルドは、静かに立っている。
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その背中は。
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もう一人の騎士ではない。
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“壁”だった。
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主人公は、その背中を見ていた。
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「……ただ暮らしたいだけなんだが」
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その願いは、今日も変わらない。
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だが。
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この場所は、変わった。
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もう、侵されない。
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もう、崩されない。
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その代わりに。
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外は、理解した。
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ここは。
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“攻める場所ではない”。
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その日。
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アルカディアに――
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“軍事的抑止力”が完成した。




