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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第28話「奇跡の正体」

 それは、“確かめるための訪問”だった。


---


 森の外縁。


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 いつもの騎士ではない。


---


 白い衣。


 簡素だが、統一された装い。


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 祈りの気配。


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「……来たか」


 エルドが低く呟く。


---


「誰だよ」


 主人公は嫌そうに聞く。


---


「宗教勢力です」


 レイナが即答する。


---


「やめてくれ」


---


 白衣の一団は、静かに歩いてくる。


---


 武器はない。


 だが――


---


 別の圧がある。


---


 先頭の男が、ゆっくりと頭を下げた。


---


「我々は、真理を求める者です」


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「帰れ」


---


 主人公は即答した。


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「この地に“奇跡”があると聞きました」


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「ない」


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「確認させていただきたい」


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「やめてくれ」


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 だが、止まらない。


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 レイナが一歩前に出る。


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「制限付きで許可します」


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「なんでだよ!」


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「観察範囲を限定します」


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「やめてくれって!」


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 調査が始まる。


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 水をすくう。


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「……純度が異常だ」


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 土に触れる。


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「栄養密度が高すぎる」


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 作物を口にする。


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「……これは」


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 沈黙。


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 そして――


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「再現性は?」


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 レイナが答える。


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「環境依存です」


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「つまり、この地にのみ発生する?」


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「はい」


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 ざわめきが広がる。


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「……奇跡だ」


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「違う」


 主人公が即座に否定する。


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「奇跡ではない」


---


「違うって言ってるだろ!」


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 だが、誰も聞かない。


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 視線が集まる。


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 “場所”に。


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 そして――


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 ルルナに。


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 彼女は、いつものように祈っていた。


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 静かに。


 ただ静かに。


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「……あの方は」


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 誰かが呟く。


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 ルルナが目を開ける。


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「私は、ただの祈り手です」


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 だが、その言葉は――


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 逆効果だった。


---


「導き手か」


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「違います」


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「奇跡の媒介者」


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「違います」


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「……神意の体現者」


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「違います!」


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 否定すればするほど、意味が膨らむ。


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 レイナが静かに記録する。


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「解釈の固定化、進行中」


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「言うな」


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 主人公は頭を抱える。


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「やめてくれ……」


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 調査団の代表が、ゆっくりと頷く。


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「理解した」


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「してない」


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「これは、人為ではない」


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「してないって」


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「この地そのものが、特異である」


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「違うって言ってるだろ!!」


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 だが、結論は出た。


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 静かに。


 確実に。


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「ここは“選ばれた地”だ」


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「違う」


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「祝福されている」


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「違うって!!」


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 その瞬間。


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 何かが、確定した。


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 人の中で。


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 認識として。


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 意味として。


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 ルルナは、ただ立っている。


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 否定も、肯定もしない。


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 だが――


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 その存在自体が、答えになってしまう。


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 主人公は、その光景を見ていた。


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「……何これ」


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 誰も答えない。


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 答えは、もう決まっている。


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 調査団は、ゆっくりと頭を下げる。


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「この地の記録を持ち帰る」


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「やめろ」


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「真理として」


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「やめろって」


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 そして、去っていく。


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 静寂が戻る。


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 だが、それはもう。


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 前と同じではない。


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 レイナが言う。


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「宗教的評価、確定」


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「やめてくれ」


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「神格化の兆候あり」


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「やめてくれって!!」


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 主人公は座り込む。


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「……ただ暮らしたいだけなんだが」


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 その願いは、今日も届かない。


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 外では。


---


 すでに言葉が変わっている。


---


「奇跡の地」


「祝福の領域」


---


 そして――


---


「神の宿る場所」


---


 アルカディアは。


---


 もう、“場所”ではなかった。


---


 意味を持ち。


 信じられ。


---


 そして――


---


 “神話”になり始めていた。


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