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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第26話「契約」

 それは、“丁寧な言葉”で始まった。


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 森の外縁。


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 以前よりも、少ない人数。


 だが――


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 重い。


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 並ぶのは、選ばれた者たち。


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 騎士。


 文官。


 そして――


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 明らかに“交渉役”の男。


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「本日は、敵対の意思はない」


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 最初の一言が、それだった。


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「帰れ」


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 主人公の返答も、いつも通りだった。


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 だが、今回は違う。


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「提案がある」


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 一歩、前に出る。


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「貴圏を、王国の保護下に置く」


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 沈黙。


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「いらない」


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 即答だった。


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 間髪入れない。


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 空気が止まる。


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 交渉役の男は、わずかに目を細めた。


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「……最後まで聞かれよ」


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「聞かない」


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「聞いてください」


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 レイナだった。


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 主人公は即座に振り向く。


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「聞くのかよ」


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「情報収集です」


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「やめてくれ」


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 交渉は、始まった。


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「王国は貴圏の価値を認めている」


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「やめてくれ」


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「よって、保護を提供する」


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「いらない」


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「軍事的支援」


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「いらない」


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「流通の保証」


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「いらない」


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「法的地位の確立」


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「いらないって!!」


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 すべて即答。


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 だが、レイナは違う。


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「条件を確認します」


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「やめろ」


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「対価は」


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 交渉役が答える。


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「王国への帰属」


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「却下です」


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 即答。


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 今度はレイナが。


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「税の納付」


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「却下です」


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「人員の登録」


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「却下です」


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「領主権の委譲」


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「却下です」


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 流れるような拒否。


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 だが、交渉は止まらない。


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「では、代替案を提示せよ」


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 静かな圧。


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 レイナは一瞬、考える。


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 そして。


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「制限付き交流を提案します」


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「やめてくれ」


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「何だそれは」


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「物資・情報の交換のみ許可」


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「やめろ」


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「統治への介入は不可」


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「やめろって」


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「課税は拒否」


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「やめろ」


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「所属も拒否」


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「やめろって!!」


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 交渉役は沈黙する。


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 そして、小さく笑った。


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「……強欲だな」


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「合理的です」


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 即答。


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「それで成り立つと?」


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「既に成り立っています」


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 静かな言葉。


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 だが、重い。


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 交渉役は周囲を見る。


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 整った区画。


 動く人。


 回る生産。


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 確かに。


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 “成り立っている”。


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「……なるほど」


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 一歩、下がる。


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「交渉は継続とする」


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「帰れ」


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「結論は急がぬ」


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「帰れって」


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「双方に利益がある形を探る」


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「いらないって!!」


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 だが、もう止まらない。


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 これは、一度きりではない。


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 続く。


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 何度も。


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 形を変えて。


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 交渉役は振り返る。


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「次は条件を持ってくる」


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「来るな」


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 そのまま去っていく。


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 静寂が戻る。


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 主人公は、その場に座り込んだ。


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「……なんで続くんだよ」


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 レイナが答える。


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「価値があるためです」


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「やめてくれ」


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 エルドが静かに言う。


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「簡単には終わりません」


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「終われ」


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 ミアは小さく呟く。


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「……避けられません」


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「避けろ」


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 ガルドは笑う。


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「いいじゃねえか」


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「よくない」


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「交渉ってのはな」


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 一拍。


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「儲けの種だ」


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「やめてくれ」


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 すべてが、続いていく。


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 止まらない。


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 終わらない。


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 その日。


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 アルカディアと王国の間に――


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 “契約”は結ばれなかった。


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 だが。


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 それ以上に厄介なものが残った。


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 未解決の関係。


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 続く交渉。


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 終わらない接触。


---


 主人公は、最後に呟く。


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「……ただ暮らしたいだけなんだが」


---


 その願いは。


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 交渉の中に、埋もれていった。


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