第25話「見えない戦争」
戦いは、音を立てない。
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剣も。
血も。
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ここには、ない。
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だが――
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確実に始まっていた。
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森の外で。
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「……アルカディア産はどこだ」
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市場で、声が飛ぶ。
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「入荷は?」
「次はいつだ!」
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商人たちが集まる。
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だが、そこにあるのは。
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“物”だけではない。
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情報だ。
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「効能があるらしい」
「疲労が消える」
「傷が治る」
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噂が広がる。
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誇張される。
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増幅する。
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そして――
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「王家も注目している」
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価値が跳ね上がる。
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「始まってるな」
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ガルドは笑っていた。
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アルカディアの一角。
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簡易な机。
その上には、紙が並ぶ。
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「何がだよ」
主人公は嫌そうに聞く。
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「見えない戦争だ」
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「やめてくれ」
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ガルドは紙を叩く。
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「これはな、もう“物”じゃねえ」
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「野菜だろ」
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「違う」
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一拍。
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「“価値”だ」
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「やめてくれ」
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ガルドは指を立てる。
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「名前を売る」
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「やめろ」
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「アルカディアってだけで売れるようにする」
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「やめろって!!」
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だが、止まらない。
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「偽物が出る」
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「出るな」
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「だから、本物を定義する」
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「やめてくれ」
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「印をつける」
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「やめろ」
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「流通を絞る」
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「やめろって!!」
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完全に戦略だった。
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その時。
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「補足します」
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レイナが現れる。
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「やめてくれ」
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「外部情報の統制を開始しました」
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「やめてくれって!」
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レイナは淡々と続ける。
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「流通経路の把握」
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「やめろ」
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「情報源の限定」
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「やめろって」
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「誤情報の修正」
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「やめてくれ!!」
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主人公は頭を抱える。
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「なんでこうなる」
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ガルドは笑う。
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「奪い合いだからだ」
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「やめてくれ」
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「情報を制したやつが勝つ」
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「やめてくれって!」
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レイナが静かに言う。
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「制御しなければ、崩壊します」
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「もうしてる」
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外では。
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すでに動いていた。
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商人は価値を作る。
貴族は権威を乗せる。
宗教は意味を与える。
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それぞれが。
それぞれの言葉で。
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アルカディアを語る。
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「奇跡の地」
「黄金の供給源」
「独立勢力」
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定義が増える。
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勝手に。
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自由に。
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止まらずに。
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主人公は、ぼそりと呟く。
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「……俺、何もしてないよな?」
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誰も否定しない。
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だが、誰も止めない。
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ガルドが紙をめくる。
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「いい感じだ」
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「何がだよ」
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「評価が固まってきた」
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「やめてくれ」
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レイナがうなずく。
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「外部認識、収束中」
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「やめてくれって」
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それはつまり。
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決まりつつある。
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“何か”として。
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アルカディアが。
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主人公は空を見上げる。
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「……ただ暮らしたいだけなんだが」
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その言葉は、いつも通りだった。
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だが。
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外では、もう別の言葉が使われている。
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「アルカディア」
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その名前に。
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意味が乗る。
価値が乗る。
評価が乗る。
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そして、それは――
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誰のものでもなくなる。
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勝手に広がり。
勝手に決まり。
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勝手に強くなる。
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その日。
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アルカディアは。
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“評価”された。
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本人の意思とは関係なく。
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世界によって。




