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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第24話「境界線」

 線は、見えない。


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 だが確かに、そこにあった。


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 森の外縁。


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 いつもより、空気が重い。


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「……また来たな」


 主人公は、心底嫌そうに言った。


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 視線の先。


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 整列した騎士。


 その後ろに、文官。


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 前回よりも、数が多い。


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「圧力です」


 レイナが淡々と告げる。


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「やめてくれ」


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 エルドはすでに前に出ている。


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「警戒します」


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「しなくていいから帰ってくれ」


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 だが、誰も帰らない。


---


 隊列が止まる。


---


 一人の男が前に出る。


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 前回とは違う。


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 より“上”の存在。


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「王国よりの通達だ」


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「帰れ」


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 主人公の返答は変わらない。


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 だが、今回は違う。


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「貴様らの所属を明確にせよ」


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 一拍。


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「ならびに、税の義務を果たせ」


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 静かな言葉。


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 だが、その重みは違う。


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「……来たな」


 エルドが低く呟く。


---


 主人公は頭を抱える。


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「やめてくれ」


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 レイナが一歩前に出る。


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「対応します」


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「頼んだ」


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 完全に任せた。


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 再び、向き合う。


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 王国側と、レイナ。


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「所属の確認を行う」


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「拒否します」


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 即答。


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 空気が張り詰める。


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「理由を述べよ」


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「当圏は独立しています」


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 一拍。


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「は?」


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 理解が止まる。


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 だが、レイナは続ける。


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「外部勢力への所属はありません」


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「ここは王国領内だ」


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「地理的には」


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「ならば従属する義務がある」


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「ありません」


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 迷いがない。


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 文官の眉がひそまる。


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「根拠は」


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「内部規則です」


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「またそれか!」


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 声が荒くなる。


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「国家法が優先される」


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「当圏内では適用外です」


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「適用外にできる権限がどこにある!」


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「ありません」


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 一拍。


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「ですが、適用していません」


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「……」


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 完全に理屈がずれている。


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 だが――


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 通っている。


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 妙に。


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 文官は言葉を失う。


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 その時。


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「……ミア?」


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 小さな声。


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 隊列の中から。


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 一人の騎士が、驚いたように呟く。


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 ミアの体が、びくりと揺れた。


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「……っ」


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 顔色が変わる。


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 明らかな動揺。


---


 主人公が小さく呟く。


---


「知り合いか?」


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 ミアは答えない。


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 だが、視線が揺れている。


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 エルドが一歩前に出る。


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 さりげなく。


 だが、確実に。


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 庇う位置に。


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「……これ以上の接近は許可しません」


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 低い声。


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 空気が変わる。


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 騎士たちが反応する。


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 手が武器に触れる。


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 緊張。


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 張り詰める。


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 主人公が小さく呟く。


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「やめろって……」


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 だが、止まらない。


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 文官が、再び口を開く。


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「最終通告だ」


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 一歩、前に出る。


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「所属を明らかにし、王国の管理下に入れ」


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 沈黙。


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 風が止まる。


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 その中で。


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 レイナが答える。


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 静かに。


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「独立圏です」


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 それだけだった。


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 だが――


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 すべてを拒絶する言葉。


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 完全な線引き。


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 見えない境界が、そこに引かれる。


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 内と外。


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 混ざらない。


---


 交わらない。


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 明確に分かたれる。


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 文官は、しばらくレイナを見つめた。


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 理解できないものを見る目。


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 そして。


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「……報告する」


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 短く言う。


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 それだけで十分だった。


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 隊列が動く。


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 去っていく。


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 だが、その背中は。


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 完全に“敵”ではない。


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 だが――


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 “味方”でもない。


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 曖昧だった関係が、はっきりする。


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 消えない距離。


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 消えない違い。


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 やがて、気配が消える。


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 静寂が戻る。


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 主人公は、その場に座り込む。


---


「……なんでこうなる」


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 レイナは淡々としている。


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「必然です」


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「やめてくれ」


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 エルドは剣から手を離す。


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「もう、線は引かれました」


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「引くな」


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 ミアは、小さく俯いている。


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 何も言わない。


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 だが、その沈黙がすべてだった。


---


 主人公は、空を見上げる。


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「……ただ暮らしたいだけなんだが」


---


 その願いは、もう届かない。


---


 外は、要求した。


---


 内は、拒否した。


---


 それだけで十分だった。


---


 関係は変わる。


---


 曖昧さは消える。


---


 残るのは――


---


 “対立”だ。


---


 静かに。


 確実に。


---


 この場所は、もう――


---


 外とぶつかる存在になった。


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