第22話「値段が壊れる」
最初は、軽い気持ちだった。
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「ちょっと試してみるだけだ」
ガルドはそう言った。
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「やめろ」
主人公は即答した。
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「余ってんだろ?」
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「余ってるけど」
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「なら流す」
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「流すな」
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だが、もう決まっていた。
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翌日。
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森の外。
小さな町の市場。
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そこに並んだのは――
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野菜だった。
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見た目は普通。
少し瑞々しい程度。
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「……これが例の?」
商人が眉をひそめる。
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「そうだ」
ガルドがうなずく。
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「アルカディア産だ」
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その言葉だけで、空気が変わる。
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ざわめき。
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「噂の……」
「本物か?」
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人が集まる。
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値札がつく。
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通常の――
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「……高くないか?」
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十倍。
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誰もが一瞬ためらう価格。
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だが。
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「……一つ、くれ」
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買う者が現れる。
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それを見て、次が続く。
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売れる。
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あっさりと。
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そして。
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食べる。
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「……は?」
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沈黙。
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そして――
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「なんだこれ」
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声が震える。
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「体が……軽い」
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「疲れが消えたぞ」
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「味も……おかしい」
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評価が、一瞬で変わる。
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ざわめきが、熱に変わる。
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「もっとあるか!?」
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「全部くれ!」
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奪い合い。
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価格が上がる。
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「倍出す!」
「いや三倍!」
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ガルドは、それを見て笑った。
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「……始まったな」
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――――――――――
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「やめてくれ」
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その頃。
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森の中。
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主人公は頭を抱えていた。
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「嫌な予感しかしない」
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レイナが淡々と言う。
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「市場反応、良好と推測されます」
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「やめてくれ」
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その時だった。
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走ってくる影。
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ガルドだった。
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「成功だ」
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「やめろ」
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「売れた」
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「やめろって」
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「全部な」
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「早い」
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ガルドは笑う。
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「しかも――」
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一拍。
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「値段が壊れた」
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「やめてくれ」
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説明は、すぐに来た。
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「最初は十倍」
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「高すぎるだろ」
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「すぐに上がった」
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「やめてくれ」
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「今は――」
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指を立てる。
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「それ以上だ」
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「やめてくれって!!」
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レイナが記録を開く。
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「価格上昇率、異常」
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「言うな」
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「市場バランスが崩壊しています」
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「言うなって」
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エルドが静かに呟く。
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「……これは、まずいな」
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「今さら?」
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ガルドは肩をすくめる。
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「いや、いい」
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「よくない!」
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「価値が証明された」
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「やめてくれ」
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「これで通る」
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「何が」
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「全部だ」
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嫌な予感しかしない。
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ガルドは続ける。
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「アルカディア産ってだけで売れる」
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「やめろ」
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「ブランドだ」
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「やめろって!!」
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レイナが静かに言う。
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「外部影響が発生しています」
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「やめてくれ」
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「価格連動、流通変化、需要集中」
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「やめてくれって!」
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主人公はしゃがみ込む。
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「……なんでこうなる」
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ガルドは笑う。
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「簡単だ」
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一拍。
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「強すぎる」
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「やめてくれ」
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その時だった。
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遠くから、別の声が届く。
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「アルカディア産を確保しろ!」
「高値でも構わん!」
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誰かが叫んでいる。
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森の外。
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もう動いている。
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商人。
貴族。
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全員が。
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レイナが静かに言う。
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「経済に影響が出始めています」
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主人公は顔を覆った。
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「……終わった」
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ガルドは笑う。
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「始まりだろ」
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「やめてくれ」
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だが、止まらない。
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価格は上がる。
需要は膨らむ。
流通は広がる。
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アルカディアという名前が。
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価値そのものになる。
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そして、その日。
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世界のどこかで。
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こう記録された。
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「市場異常発生」
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原因。
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「アルカディア産」
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その一行が。
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すべてを変え始めた。




