第21話「調査隊
それは、“整った足音”から始まった。
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森の外縁。
一定の間隔で響く、複数の足音。
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「……来たな」
エルドが低く呟く。
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視線の先。
木々の隙間から現れるのは――
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整列した騎士たち。
その後ろに、装飾の少ないローブ姿の男たち。
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無駄がない。
迷いがない。
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“正式”だった。
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「王国の調査隊です」
レイナが淡々と言う。
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「帰ってくれ」
主人公は即答した。
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「無理です」
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知っていた。
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止まらない流れだと。
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騎士たちは一定の距離で止まる。
隊列が崩れない。
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その中から、一人の男が前に出た。
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整った身なり。
無駄のない動き。
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「王国調査官、リドウェルだ」
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「知らん」
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主人公は即座に返した。
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「本件は王国の正式な調査対象となっている」
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「帰れ」
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完全に平行線。
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その時だった。
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騎士の中から、もう一人が前に出る。
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鎧。
剣。
そして、その目。
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「……エルド」
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低い声。
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エルドがわずかに目を細める。
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「……グランか」
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空気が一瞬で変わる。
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「生きていたか」
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「そちらも」
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短いやり取り。
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だが、それだけで分かる。
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旧知の仲。
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主人公が小さく呟く。
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「知り合いかよ」
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「ええ」
エルドは短く答える。
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「面倒なことになる」
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「もうなってる」
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調査官リドウェルが咳払いをする。
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「話を進めたい」
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「進めるな」
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だが、誰も止まらない。
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その時だった。
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一歩、前に出る影。
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レイナだった。
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「対応します」
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「頼んだ」
主人公は即答した。
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そして――
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静かに、後ろへ下がる。
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「逃げるな」
エルドが小さく言う。
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「任せた」
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完全に丸投げだった。
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レイナと調査官。
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向き合う。
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「当圏の責任者でよろしいか」
リドウェルが問う。
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「違います」
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一拍。
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「運用担当です」
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「……同義では?」
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「異なります」
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会話が、すでにおかしい。
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「本件は王国の調査対象である」
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「把握しています」
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「よって、所属・規模・統治形態の確認を行う」
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「拒否します」
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即答だった。
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空気が張り詰める。
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「……理由は」
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「外部干渉の制限が基本原則です」
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「国家に対してもか」
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「例外はありません」
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迷いがない。
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調査官の目が細くなる。
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「ここは国家ではない」
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「はい」
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「ならば、法的根拠は存在しない」
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「存在します」
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即答。
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「内部規則です」
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またそれだ。
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「……自己定義か」
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「はい」
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「それを国家が認めると?」
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「認めるか否かはそちらの判断です」
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淡々としている。
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「ですが」
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一拍。
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「当圏は既に機能しています」
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静かな言葉。
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だが――
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重い。
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調査官は、周囲を見る。
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整えられた区画。
動く人々。
回る生産。
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無秩序ではない。
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むしろ――
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「……統制されている」
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思わず漏れる。
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レイナがうなずく。
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「はい」
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否定しない。
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調査官はさらに問う。
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「意思決定は誰が行う」
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「分散しています」
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「代表は」
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「存在しません」
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「責任は」
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「機能に帰属します」
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「……意味が分からない」
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「問題ありません」
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全く問題がない顔で言う。
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後ろで見ていた主人公が呟く。
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「俺も分からん」
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エルドは小さく息を吐く。
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グランは静かに笑った。
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「変わったな、お前」
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「そうでもありません」
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「いや、変わってる」
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だが、その視線は周囲に向いている。
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理解している。
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ここが、普通ではないと。
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調査官が最後に言う。
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「……結論を出す」
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全員の視線が集まる。
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「本拠点は」
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一拍。
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「統治機構を有する」
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静かな宣言。
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「独立した運用体系を確認」
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さらに続く。
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「自治的管理が成立していると判断する」
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それはつまり。
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「……統治体、か」
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ぽつりと、誰かが呟いた。
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レイナは否定しない。
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主人公は頭を抱える。
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「やめてくれ……」
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調査官は一歩下がる。
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「本件は報告される」
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「やめろ」
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「判断は上層部に委ねる」
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「やめろって」
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だが、止まらない。
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隊列が動く。
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整然と、去っていく。
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森に、再び静けさが戻る。
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主人公はその場に座り込んだ。
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「……なんでこうなる」
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レイナが答える。
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「必然です」
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「やめてくれ」
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エルドが空を見る。
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「もう戻れませんね」
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「戻らせろ」
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だが、その願いは届かない。
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外は、見た。
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そして、理解した。
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ここはただの村ではない。
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ただの集まりでもない。
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“統治されている何か”だ。
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その認識が、広がっていく。
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静かに。
確実に。
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主人公は、最後に呟いた。
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「……ただ暮らしたいだけなんだが」
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その言葉は。
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もう、誰にも届かなかった。




