表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/51

第21話「調査隊

 それは、“整った足音”から始まった。


---


 森の外縁。


 一定の間隔で響く、複数の足音。


---


「……来たな」


 エルドが低く呟く。


---


 視線の先。


 木々の隙間から現れるのは――


---


 整列した騎士たち。


 その後ろに、装飾の少ないローブ姿の男たち。


---


 無駄がない。


 迷いがない。


---


 “正式”だった。


---


「王国の調査隊です」


 レイナが淡々と言う。


---


「帰ってくれ」


 主人公は即答した。


---


「無理です」


---


 知っていた。


---


 止まらない流れだと。


---


 騎士たちは一定の距離で止まる。


 隊列が崩れない。


---


 その中から、一人の男が前に出た。


---


 整った身なり。


 無駄のない動き。


---


「王国調査官、リドウェルだ」


---


「知らん」


---


 主人公は即座に返した。


---


「本件は王国の正式な調査対象となっている」


---


「帰れ」


---


 完全に平行線。


---


 その時だった。


---


 騎士の中から、もう一人が前に出る。


---


 鎧。


 剣。


 そして、その目。


---


「……エルド」


---


 低い声。


---


 エルドがわずかに目を細める。


---


「……グランか」


---


 空気が一瞬で変わる。


---


「生きていたか」


---


「そちらも」


---


 短いやり取り。


---


 だが、それだけで分かる。


---


 旧知の仲。


---


 主人公が小さく呟く。


---


「知り合いかよ」


---


「ええ」


 エルドは短く答える。


---


「面倒なことになる」


---


「もうなってる」


---


 調査官リドウェルが咳払いをする。


---


「話を進めたい」


---


「進めるな」


---


 だが、誰も止まらない。


---


 その時だった。


---


 一歩、前に出る影。


---


 レイナだった。


---


「対応します」


---


「頼んだ」


 主人公は即答した。


---


 そして――


---


 静かに、後ろへ下がる。


---


「逃げるな」


 エルドが小さく言う。


---


「任せた」


---


 完全に丸投げだった。


---


 レイナと調査官。


---


 向き合う。


---


「当圏の責任者でよろしいか」


 リドウェルが問う。


---


「違います」


---


 一拍。


---


「運用担当です」


---


「……同義では?」


---


「異なります」


---


 会話が、すでにおかしい。


---


「本件は王国の調査対象である」


---


「把握しています」


---


「よって、所属・規模・統治形態の確認を行う」


---


「拒否します」


---


 即答だった。


---


 空気が張り詰める。


---


「……理由は」


---


「外部干渉の制限が基本原則です」


---


「国家に対してもか」


---


「例外はありません」


---


 迷いがない。


---


 調査官の目が細くなる。


---


「ここは国家ではない」


---


「はい」


---


「ならば、法的根拠は存在しない」


---


「存在します」


---


 即答。


---


「内部規則です」


---


 またそれだ。


---


「……自己定義か」


---


「はい」


---


「それを国家が認めると?」


---


「認めるか否かはそちらの判断です」


---


 淡々としている。


---


「ですが」


---


 一拍。


---


「当圏は既に機能しています」


---


 静かな言葉。


---


 だが――


---


 重い。


---


 調査官は、周囲を見る。


---


 整えられた区画。


 動く人々。


 回る生産。


---


 無秩序ではない。


---


 むしろ――


---


「……統制されている」


---


 思わず漏れる。


---


 レイナがうなずく。


---


「はい」


---


 否定しない。


---


 調査官はさらに問う。


---


「意思決定は誰が行う」


---


「分散しています」


---


「代表は」


---


「存在しません」


---


「責任は」


---


「機能に帰属します」


---


「……意味が分からない」


---


「問題ありません」


---


 全く問題がない顔で言う。


---


 後ろで見ていた主人公が呟く。


---


「俺も分からん」


---


 エルドは小さく息を吐く。


---


 グランは静かに笑った。


---


「変わったな、お前」


---


「そうでもありません」


---


「いや、変わってる」


---


 だが、その視線は周囲に向いている。


---


 理解している。


---


 ここが、普通ではないと。


---


 調査官が最後に言う。


---


「……結論を出す」


---


 全員の視線が集まる。


---


「本拠点は」


---


 一拍。


---


「統治機構を有する」


---


 静かな宣言。


---


「独立した運用体系を確認」


---


 さらに続く。


---


「自治的管理が成立していると判断する」


---


 それはつまり。


---


「……統治体、か」


---


 ぽつりと、誰かが呟いた。


---


 レイナは否定しない。


---


 主人公は頭を抱える。


---


「やめてくれ……」


---


 調査官は一歩下がる。


---


「本件は報告される」


---


「やめろ」


---


「判断は上層部に委ねる」


---


「やめろって」


---


 だが、止まらない。


---


 隊列が動く。


---


 整然と、去っていく。


---


 森に、再び静けさが戻る。


---


 主人公はその場に座り込んだ。


---


「……なんでこうなる」


---


 レイナが答える。


---


「必然です」


---


「やめてくれ」


---


 エルドが空を見る。


---


「もう戻れませんね」


---


「戻らせろ」


---


 だが、その願いは届かない。


---


 外は、見た。


---


 そして、理解した。


---


 ここはただの村ではない。


---


 ただの集まりでもない。


---


 “統治されている何か”だ。


---


 その認識が、広がっていく。


---


 静かに。


 確実に。


---


 主人公は、最後に呟いた。


---


「……ただ暮らしたいだけなんだが」


---


 その言葉は。


---


 もう、誰にも届かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ