第20話「自治領」
それは、“決定”だった。
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「……自治領、だと?」
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重い声が、室内に響く。
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王都。
石造りの会議室。
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並ぶのは、貴族と騎士、そして商人。
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「報告はすでに複数ある」
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「森の中に存在する拠点」
「高効率生産」
「独自の統制」
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「さらに――」
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紙がめくられる。
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「外部干渉の拒否」
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沈黙。
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「……村ではないな」
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「明らかに違う」
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「では何だ」
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その問いに、誰も即答できない。
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だが――
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「自治領として扱うべきだ」
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一人の貴族が言った。
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空気が変わる。
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「国家に属さず、独自の統治を行う存在」
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「干渉は困難」
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「だが、無視はできない」
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一拍。
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そして。
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「……認定する」
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その一言で、すべてが決まった。
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――《静穏自治領アルカディア》。
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それは正式に、“自治領”となった。
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「……は?」
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その頃、当の本人は。
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「自治領?」
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畑の前で固まっていた。
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「村だろ?」
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本気でそう思っている。
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レイナが即答する。
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「統治体です」
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「やめてくれ」
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ガルドが笑う。
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「国だな」
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「やめろ」
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完全に認識がズレている。
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だが――
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現実は、動いている。
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食料。
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畑には、変わらず異常な作物。
収穫は尽きない。
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「食料供給、安定しています」
レイナが言う。
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「最強だな」
ガルドが笑う。
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「やめてくれ」
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軍事。
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エルドが立つ。
静かに、だが確実に。
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「侵入は防げます」
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「防ぐな」
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生産。
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バルドが設備を叩く。
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「回ってるな」
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「止めろ」
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外交。
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ミアが小さく頭を下げる。
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「……外の対応は、任せてください」
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「なんでそんなことになってるんだよ」
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信仰。
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ルルナが祈る。
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「祝福は広がっています」
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「やめてくれ」
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制度。
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レイナが記録を閉じる。
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「全体、安定しています」
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「やめてくれって」
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すべてが揃っている。
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食料。
軍事。
生産。
外交。
信仰。
制度。
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欠けているものが、ない。
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完全だ。
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あまりにも。
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主人公は、その場にしゃがみ込む。
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「……なんでこうなった」
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誰も答えない。
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答えは、明白だからだ。
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全部。
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最初から、ここにあった。
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ただ――
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形になっただけだ。
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そして。
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外が、それを認めた。
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名前を与えた。
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意味を与えた。
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――自治領。
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それはもう。
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ただの生活ではない。
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ただの村でもない。
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“存在”だ。
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主人公は、空を見上げる。
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「……ただ暮らしたいだけなんだが」
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その言葉は、いつも通りだった。
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だが、返ってくる言葉は変わらない。
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「安定しています」
レイナ。
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「拡大するぞ」
ガルド。
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「やめてくれ」
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もう止まらない。
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止められない。
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静かに暮らすはずだった。
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何も起きないはずだった。
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それなのに。
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気づけば――
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すべてが揃っていた。
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すべてが回っていた。
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すべてが完成していた。
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そして。
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その日。
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主人公の“スローライフ”は――
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完全に、終わった。




