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静かに暮らしたいのに国家ができた件  作者: 南蛇井


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第17話「働かない者」

 問題は、必ず発生する。


 人が増えれば、なおさらだ。


---


「……働いてないな」


 主人公は、ぽつりと呟いた。


---


 視線の先。


 木陰で寝ている男。


 配給の時間だけ来て、また戻る。


---


 別の場所では。


 何もせず、ただ座っている者。


 談笑している者。


---


「まあ……いいんじゃないか?」


 主人公は自分に言い聞かせるように言った。


---


「よくありません」


---


 即座に否定された。


---


「なんでだよ」


---


 レイナは記録板を見ている。


---


「労働参加率が低下しています」


---


「いいだろ別に」


---


「供給維持に影響が出ます」


---


「出てないだろ」


---


「将来的に出ます」


---


「未来で怒るな」


---


 レイナは顔を上げる。


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「すでに兆候があります」


---


「どこに」


---


「不公平感です」


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「……あー」


---


 それは、分かる。


---


 働いている者。


 働いていない者。


---


 同じ配給。


---


「……まあ、気持ちはな」


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 エルドが静かに言う。


---


「規律が崩れます」


---


「軍隊じゃねえんだよ」


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 バルドも続く。


---


「作る側からすりゃ、やってられねえ」


---


「やめてくれ」


---


 ルルナが小さく呟く。


---


「役割は、与えられるものです」


---


「宗教も混ざるな」


---


 完全に包囲されている。


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 レイナが一歩前に出た。


---


「結論です」


---


「聞きたくない」


---


「労働管理を導入します」


---


「やめろ」


---


 即答だった。


---


 だが、止まらない。


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「役割の明確化」


---


「やめろ」


---


「全居住者への作業割当」


---


「やめろって!」


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「最低労働ラインの設定」


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「やめろ!!」


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 止まらない。


---


 レイナは地面に図を描く。


---


 区分。


 名前。


 役割。


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「農業担当」


「生産担当」


「防衛担当」


「管理補助」


---


「やめてくれ……」


---


「適性に応じて配置します」


---


「勝手に決めるな」


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「最低限の労働時間を設定」


---


「ブラック企業じゃん!!」


---


 主人公の叫びが響く。


---


 だが、返ってくるのは――


---


「違います」


---


 静かな否定。


---


「持続可能な生活のための最適化です」


---


「言い方の問題じゃねえよ!」


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 エルドがうなずく。


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「合理的です」


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「お前もか」


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 バルドも腕を組む。


---


「働かねえ奴に飯やるのは、長く続かねえ」


---


「正論やめろ!」


---


 ルルナが静かに手を合わせる。


---


「働くことも、また祈りです」


---


「全部まとめるな!」


---


 その日の午後。


---


 “割当表”が完成した。


---


「なんでこんな早いんだよ……」


---


「環境がいいからな」


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「もういい!」


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 名前が並ぶ。


 役割が書かれる。


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「お前は畑」


「お前は運搬」


「お前は見張り」


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 人が動く。


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 嫌々ながらも。


 だが、確実に。


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 そして。


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 あの“働かない者”たちも――


---


「……やるしかねえか」


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 立ち上がる。


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 動き出す。


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 流れが変わる。


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 全員が、何かをする。


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 全員が、関わる。


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 配給が回る。


 生産が回る。


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 循環が、完成する。


---


 主人公は、その光景を見ていた。


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「……何これ」


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 誰も答えない。


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 だが、分かる。


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 これはもう――


---


 “社会”だ。


---


 役割があり、


 義務があり、


 秩序がある。


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 完全に構築されたシステム。


---


 主人公は、ゆっくりとしゃがみ込む。


---


「……ただ暮らしたいだけなんだが」


---


 その願いは。


---


 効率によって、否定された。


---


 そして、この日。


---


 この場所は――


---


 完全に“社会”になった。


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