第15話「祈る少女」
それは、静かな朝のはずだった。
――はずだった。
---
だが現実は違う。
---
カン、カン、カン。
金属音。
ザク、ザク。
畑の収穫。
ガラガラ。
資材の運搬。
---
「……うるさい」
主人公は心の底からそう思った。
---
森だったはずだ。
静かな森。
人もいない、穏やかな場所。
---
なのに今は――
---
「……工場じゃねえか」
---
完全に“動いている”。
---
バルドは朝から設備を回している。
エルドは周囲の警戒。
レイナは記録と指示。
---
誰も止まらない。
---
「何も起きない日は来ないのか……」
---
その時だった。
---
カサ、と。
---
森の奥から、小さな音。
---
「……またか」
---
もう慣れた。
嫌な意味で。
---
視線を向ける。
---
そこにいたのは――
一人の少女だった。
---
年は若い。
服は簡素。
だが、その目だけが異様だった。
---
真っ直ぐ。
迷いがない。
---
少女は、ゆっくりと歩いてくる。
---
止まらない。
---
まるで“導かれている”ように。
---
「……誰だ?」
主人公が声をかける。
---
少女は答えない。
---
ただ――
---
主人公を見ている。
---
じっと。
---
ずっと。
---
「……なんだよ」
少しだけ後ずさる。
---
その瞬間だった。
---
少女が、膝をついた。
---
「――神……」
---
静かに、そう言った。
---
沈黙。
---
「違う」
即答だった。
---
間髪入れず。
---
「違います」
レイナも補足する。
---
だが、少女は動かない。
---
頭を下げたまま。
---
「……やめてくれ」
主人公は本気で困っていた。
---
「違うって言ってるだろ」
---
少女はゆっくりと顔を上げる。
---
その目は――
確信していた。
---
「奇跡を見ました」
---
「見せてない」
---
「この空気、この水、この作物」
---
指を向ける。
---
「すべてが祝福されています」
---
「してない」
---
レイナが分析する。
---
「認識の誤作動です」
---
「やめろ」
---
少女は首を横に振る。
---
「違います」
---
一歩、前に出る。
---
「私は、知っています」
---
震える声。
だが、揺るがない。
---
「これは、人の手ではありません」
---
「俺だよ」
---
「神の御業です」
---
「俺だって言ってるだろ!」
---
完全に話が通じない。
---
エルドが小さく呟く。
---
「……信仰型か」
---
「分類するな」
---
少女はゆっくりと手を組む。
---
目を閉じる。
---
「……感謝を」
---
「やめろ」
---
「この奇跡に」
---
「やめろって」
---
「導きに」
---
「やめろ!」
---
祈り始めた。
---
完全に。
---
静かに。
真剣に。
---
誰にも止められない。
---
主人公は頭を抱える。
---
「なんでこうなるんだよ……」
---
レイナは淡々としている。
---
「自然な帰結です」
---
「どこがだよ」
---
「価値の極端な集中は、信仰を生みます」
---
「やめてくれ」
---
バルドが横から言う。
---
「まあ分かる」
---
「分かるな」
---
「これは人間の領域じゃねえ」
---
「お前もか」
---
少女――ルルナは、祈りを終える。
---
ゆっくりと立ち上がる。
---
「ルルナと申します」
---
静かな声。
---
「ここに仕えさせてください」
---
「断る」
---
即答だった。
---
「神の御許に」
---
「違う」
---
「この奇跡の中で」
---
「違うって!」
---
だが、ルルナは微動だにしない。
---
「ここにいます」
---
「やめてくれ」
---
完全に居座る宣言だった。
---
レイナが小さくうなずく。
---
「問題ありません」
---
「あるだろ!」
---
「精神的安定要因として機能します」
---
「どこがだよ!」
---
エルドは少しだけ考えてから言う。
---
「士気は上がるかもしれません」
---
「軍隊じゃねえよ!」
---
誰も止めない。
---
止まらない。
---
ルルナは再び膝をつく。
---
そして――
---
祈る。
---
静かに。
当然のように。
---
それを見て。
---
主人公は、空を見上げた。
---
「……もうダメだ」
---
確信した。
---
これはただの生活ではない。
---
もう戻れない。
---
そして、その日。
---
この場所に。
---
“信仰”が生まれた。
---
誰も望んでいないのに。
---
確実に。
---
静かに。
---
根を張り始めた。




