第13話「職人の目」
金属の音がした。
――カン、カン、と。
森には似つかわしくない、乾いた音。
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「……なんだ?」
主人公は顔を上げた。
畑の手入れをしていた手を止める。
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この森で“音”がする時点で、ろくなことではない。
最近は特に。
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「外部要因です」
レイナが即答する。
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「やめてくれその言い方」
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音の方向へ歩いていく。
エルドも自然と後ろにつく。
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少し進んだ先。
開けた場所。
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そこにいたのは、一人の男だった。
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大きな荷を背負っている。
工具が覗いている。
髭面。
腕は太く、手は傷だらけ。
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そして――
地面に落ちている鉄の欠片を、じっと見つめていた。
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「……おい」
主人公が声をかける。
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男は反応しない。
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「おいって」
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ようやく顔を上げた。
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「……なんだ?」
低い声。
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「なんだじゃねえよ。ここ人の土地なんだけど」
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男は周囲を見回す。
森。
小屋の方向。
畑の気配。
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そして、もう一度、足元の鉄を見る。
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「……ありえねえ」
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呟いた。
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「何が」
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男は鉄片を拾い上げる。
光にかざす。
叩く。
耳を澄ます。
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「純度が高すぎる」
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「は?」
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「こんな状態で落ちてるわけがねえ」
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男は今度は地面を掘る。
土を触る。
匂いを嗅ぐ。
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「……土もおかしい」
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「やめてくれ」
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レイナが横から観察する。
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「反応から推測するに、技術者です」
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「見りゃ分かる」
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男は今度は周囲の木に触れる。
枝を折る。
断面を見る。
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「……素材として完成してる」
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「意味分からん」
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エルドが小さく呟く。
「警戒しますか」
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「いや、いい」
主人公は即答した。
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男は完全に周囲に意識を奪われている。
敵意はない。
ただ――
おかしい。
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観察の仕方が異常だ。
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「……おい」
主人公がもう一度声をかける。
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「なんだ」
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「何してる」
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男は即答した。
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「確認だ」
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「何の」
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「ここが現実かどうかの」
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「やめてくれ」
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しばらく沈黙。
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やがて男は、ゆっくりと立ち上がる。
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「……あんたらが住んでるのか、ここ」
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「まあな」
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「どうやって維持してる」
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「普通に」
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「普通じゃねえ」
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即断だった。
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「この環境、この素材、この状態――」
一呼吸。
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「ここ、神域か?」
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真顔だった。
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主人公は即答する。
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「違う」
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間髪入れず。
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「ただの森だ」
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男は数秒、黙った。
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そして。
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「……嘘だな」
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「なんでだよ」
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レイナが口を開く。
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「環境最適化が行われています」
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「やめろ」
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「資源効率も極めて高い」
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「やめろって」
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男はその言葉を聞いて、確信した。
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「……やっぱりか」
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ゆっくりとうなずく。
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「理屈は分からんが、結果は分かる」
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周囲を見る。
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「ここは“作られてる”」
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「作ってない」
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「いや、作ってる」
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視線が、主人公に向く。
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「お前だな」
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「違う」
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即否定。
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だが、誰も信じない。
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沈黙が流れる。
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やがて男は言った。
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「バルドだ」
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「名前か」
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「職人だ」
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「見れば分かる」
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バルドは荷物を降ろす。
工具が音を立てる。
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「……いい場所だ」
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ぽつりと呟く。
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そして。
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「使わせてもらう」
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「何を」
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「全部だ」
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「帰れ」
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「帰らねえ」
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ガルドと同じことを言った。
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嫌な予感しかしない。
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その予感は、すぐに現実になる。
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バルドは勝手に動き始めた。
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木を切る。
石を集める。
鉄を加工する。
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動きに無駄がない。
判断が早い。
そして――
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環境が、それを“補助”する。
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火が安定する。
素材が扱いやすい。
加工が滑らかに進む。
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数時間後。
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「……は?」
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主人公は呆然とした。
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そこにあったのは――
設備だった。
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簡易ではない。
即席でもない。
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“完成された”設備。
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作業台。
炉。
工具一式。
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全部、揃っている。
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「何してんの」
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「見りゃ分かるだろ」
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「分からん」
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バルドは当然のように言う。
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「環境がいいからな」
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「理由になってない」
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「普通はこうならねえ」
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「だよな!?」
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レイナが分析する。
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「生産効率が大幅に向上しています」
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「やめろ」
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「供給能力の増加が予測されます」
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「やめろって」
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バルドは満足そうにうなずいた。
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「いい」
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一言。
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「ここ、使える」
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「やめてくれ」
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誰も止めない。
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止まらない。
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こうして――
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“生産”が始まった。
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主人公は空を仰いだ。
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「……ただ暮らしたいだけなんだが」
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その願いは、今日も静かに無視された。




