38.ローアン国へ sideフォーリア
「フォーリア様、ご不便はございませんか?」
…此処は魔の森。ローアン国への、道中。
今現在、私に不便を強いている張本人−のうちの、一人−が私に問いかけます。
「…不便だらけです」
私はそう答え、ツン、とそっぽを向きました。
「…それは申し訳ありません。私共も努力はしているのですが…」
そんな私の答えに、相手は苦笑気味に言葉を返してきました。
あれから−アズライト国を抜けるための−準備をする間…宿の部屋以外ではローブで髪と瞳の色を隠すことを強要され、スヴェン殿下には事あるごとに絡まれ、レイブンには監視され…よくも“不便は無いか?”などと聞けたものですね。
そして今は私の望まない誘拐の途中。
私はレイブンに呪具を付けられ、逃げることが叶いません。
呪具には呪いがかけられており、私がレイブンから一定以上離れると、装着者に頭痛を齎します。
…実はスヴェン殿下にも呪具が付けられており、そちらは私に近付こうとすると強い痺れを引き起こすそうです。
レイブン曰く、スヴェン殿下が私に手を出さないように、とのことですが…私も逃げられないこの状況では感謝もし辛いですね。
とはいえ、そんな状態で旅をしております。
「…エミリー、お前、もう少し愛想良く出来ないのか?」
夕食時−今日は魔物肉の串焼き−、スヴェン殿下が、私に問いかけました。
「他人を拐い、婚約者でもない相手に馴れ馴れしくする人に対する愛想など、持ち合わせておりません」
「だから、以前の婚約破棄は間違いだったと言っただろう?お前は今も私の婚約者だ。婚約者に親しげに話しかけることの何が悪い?」
「一度でも婚約破棄を告げてきた相手を信用しろ、という方が難しいでしょう?そもそも、私は貴方を受け入れておりません」
スヴェン殿下にそう答え、やはり私はツン、とそっぽを向きました。
「…フン、可愛げの無い奴だな」
ええ。貴方に可愛いなどと思ってもらわなくても結構です。
私も貴方に好かれたいとは思っておりませんので。
「お二人共、そろそろ食事をお済ませください。夜も更けてきますよ」
そんな私とスヴェン殿下に、レイブンが声をかけました。
促された私はお肉を齧ります。
「…お前、警戒心は無いのか?」
「?」
私の様子を見てポツリと零されたスヴェン殿下の言葉を不思議に思っていると
「…食事に毒を盛られているかもしれないだろう?もっと疑ったらどうなんだ?」
「…態々王宮から拐うくらいなのだから、貴方がたは私を利用するつもりなのでしょう?でしたら、毒を盛る必要は無いかと」
「なっ、だっ…」
「私共はアズライト国に奪われた貴女を取り戻したかっただけで、貴女に危害を加える気など全くありませんよ」
狼狽える殿下を他所に、さらりと答えるレイブンのこの言い様には納得がいかないものの、私は
「…そう」
と、一言だけ答えました。
「さぁ、もうそろそろお休みください。しっかり休まないと、道中厳しゅうございますから」
…確かに、ここで弱ってしまうと、逃げ出すどころか 助けを待つことも出来ません。
「…わかったわ」
私はレイブンの言葉に従い、素直に休むことにしました。
…このようにして、誘拐は続いています。




