36.拐われて sideフォーリア
ギィ…パタン…
「う……ん」
いつもより幾分重い扉の音が私を起こします。
「ミリー?おはよ「おはようございます」…う?」
男性の声に私は一瞬で覚醒し
ガバッ
飛び起きました。
「お目覚めですね、フォーリア様。ご気分は如何ですか?」
私に声をかけたのは、黒髪黒目の見覚えのある男性。
「…貴方は官吏の…それに、此処は…?」
「少々強引ではありますが、貴女にローアン国へお帰りいただくために、此方までお連れしました。スヴェン王子もお待ちで…」
バタンっ!
「ああ、目覚めたか。エミリー!」
ぞわっ
断りもなく突然部屋に入って来たのは、パーティーで会ったスヴェン殿下。
その馴れ馴れしい呼びかけに、私は怖気立ちます。
親しくもない相手に何でしょうか、この方は?
「ようやく我が元に帰って来たな、エミリー」
ぞわぞわっ
なぜか甘ったるく話しかけてくるスヴェン殿下に、私は更なる怖気が。
「………どういうことでしょうか?」
問いかける私の声と態度が固くなるのは、仕方無いと思います。
「そう警戒するな、エミリー。以前告げた婚約破棄は間違いだったのだ。お前は今でも私の婚約者だ」
「…どなたかとお間違えでは?先日も申し上げた通り、私の婚約者はセイン様お一人です」
「それこそ間違いだ!お前と婚約を結んでいたのは私の方が先だ!お前は私と共にローアンへ戻り、我が妃となれば良いのだ!」
「……」
何でしょう、この一方的な物言いは?
パーティーでセイン様が仰った“拗らせ男”が何か、解った気がします。
「お断りします。私は貴方と共に在る気はございませんので」
「何だと!?」
「…お二人共、一度落ち着きましょう」
平行線のまま交わらない私たちの話の間に入ったのは、最初に私に声をかけたスヴェン殿下の従者?の男性。
落ち着きましょう、と言われても、私を落ち着かせてくれないのは貴方たちなのに…
「先ずは朝食をいただきましょう。愛し子様、貴女もおいでください」
「…わかりました。ですが、支度をさせていただけます?このような夜着では人前に出られませんから」
「…これは失礼を。こちらをお召しください。宿の女将にお願いしてご用意いただきました。…我々は部屋の外でお待ちしております」
「…ありがとうございます」
着替えの隙に逃げ出せたら…とも思いましたが、スヴェン殿下は兎も角、あの従者は私が逃げる隙を与えてはくれなさそうです。
私が逃げる素振りを見せたら、たちまち抑えられてしまうでしょう。
仕方なく私は彼らに従うことにします。
従者に渡された服は、町娘の服でした。
このような町中では、貴族の姿の方が目立ってしまいますものね。
朝食の席ではスヴェン殿下と従者が、どのようにしてローアン国へ戻るか話し合っています。
本当に私を連れて行くつもりなのですね。
…ローアン国に着く前に何とか出来れば良いのですが…
…セイン様、フォーリアは貴方の元へ戻りたいです。




