35.伸ばされた魔の手 sideレイブン
アズライト国王宮、居住区三階の一室、窓の…外。
私は今、其処に潜んでいます。
先日王宮でフォーリア様を見つけてから、私は夜な夜な居住区を探り、フォーリア様の居所を掴みました。
…スヴェン王子は何もしないくせに、早く連れてこい!と急かせるばかり。
下級官吏と従者、そして夜な夜なの偵察、三重生活は中々に骨が折れましたね。
ですがこれも愛し子…フォーリア様にお仕えするための辛抱です。
フォーリア様にはそろそろ、此方へ戻って来ていただきましょう。
…キリ…キリキリ…
…カチャリ
バルコニーに侵入した私は、窓の一部を切り取り鍵を開け、するりと室内へ滑り込みます。
フォーリア様は…
ベッドでぐっすりと眠っておられますね。
「…眠り(スリープ)」
フォーリア様が途中で起きることのないよう、私は眠りの魔術をかけ、更に深い眠りへと誘います。
「さぁ、フォーリア様。ローアン国へ帰りましょう」
そう言ってフォーリア様を抱き上げ、バルコニーから元来た道を引き返そうとした、その時
チャキッ
「その手を離せ、曲者」
背後から首筋に突き付けられた剣。
そちらを見遣ると、月明かりに浮かび上がるは、紅の髪の騎士。
「主を返してもらおう」
ヒュヒュン
高速で翻る剣をなんとか躱す。…速い。
フォーリア様を守りながら戦うのは無理だ。
…ならば、取る手段は一つ。
「黒霧」
ぶわっ
濃い霧が辺りを覆い、私たちの姿を隠す。
私は迷わずバルコニーから体を踊らせた。
「浮遊」
ばしゅん
魔術で落下の勢いを抑え、着地する。
「待てっ!!」
騎士の声を無視して、私たちは夜闇の中へと姿を消した。
*
追手を撒き、私はフォーリア様−目立たぬ様、黒いマントで覆っている−を抱いたまま、夜の城下町を駆け抜けます。
そして辿り着いたのは私たちの滞在先の宿。
女将に夜道で拐われそうになった女性を助けたと嘯き、介抱−スヴェン王子に既成事実を作らせないように−を頼みました。
「スヴェン王子。先ほど、愛し子様をお連れしました」
「よくやった!!で、エミリアは…私の婚約者は何処にいる!?」
「お待ちください。愛し子様は深く眠っておいでです。ましてや今は夜中…愛し子様には夜が明けてからお会いしましょう」
「そ、そうだな。逸ることはない。エミリーは、我が手中にあるのだから」
「それにスヴェン王子、愛し子様を此方にお迎えした今、早急にローアン国に戻らないと…愛し子様が姿を消したことは、相手に知られています」
「ああ。これで私も…堂々と国に帰ることが出来る。そして、ケヴィンから王太子の座を返してもらおう。フフッ、ハハハハッ!」
そう話すスヴェン王子の笑顔は歪んでいる。
この様子だと、以前ほど虐げることはなくとも…フォーリア様を慈しむこともないだろう。
スヴェン王子にとって、愛し子は王位を得るための駒でしかないのだから。
私がフォーリア様をお守りしなければ。
愛し子は、何人にも害されてはならない。




