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姫探し  作者: 温泉ことね


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類の休日


「じいちゃん、おはよう」


「おはよう」


朝起きて台所へ行くと、ラップがかかった目玉焼きが目に入る。

じいちゃんは週に1、2度くらい目玉焼きを作り置きしてくれる。


炊飯器からご飯をよそって、昨日の夜にじいちゃんが焼いてくれた鮭と一緒に食べる。


じいちゃんはお店の方へ仕事をしに行った。


昨日、おかんから連絡があった。

今年は秋に一度帰ってくるみたいだ。

今はトルコに居るらしい。


俺、海外に行った事ないんだよね…。

トルコって、確か世界一古い遺跡があるんだっけな?


想像しながら、ご飯を食べる。

一緒に行くなら…


フフフ。

新婚旅行で、善哉さんと…。


って、どうやって行くんだよ!

男って嘘ついてるのに!


「はぁ…」


食器を洗いながら、バスでの事故を思い出していた。

善哉さんに乗っかってしまった…。

あぁ、あれはラッキーだったな。

ラッキースケベ。


「類!!」


「うわぁ!!」


じいちゃんが背後から呼びかけた。


「何じゃ、そんな驚かんでも」


じいちゃんは丸くて大きな目をきょとんとさせていた。


「考え事してたの!」


「顔が赤いぞ?」


「暑いからだよ!」


もうっ!


「ちょっと後で手伝ってくれ。佐美蔵から商品が届いた」


おとんから。

おとんはこの前、1人イタリアで買い付けしてると言ってたな。




「何じゃあいつ。こんなくだらん物送ってきよって」


大きな段ボール3個分。

おとんのメモと品物を取り出して、台帳に記載していく。

じいちゃんはマゼンタ色した首の長い壺を手に持っている。


「何その壺?」


「惚れ薬じゃ。こんなもん、誰が買うんじゃい」


じいちゃんは乱雑にその壺を畳の上に置いた。


「…俺買う」


「はぁ!?」


しまった、心の声がそのまま出ちゃった。


「…と、友達が…ほしいかもって」


「いらんいらん!!こんなもんに頼った恋なんぞ、ロクな事にならんぞ!」


くっ…


「こんなもんに頼りたくなる程、どうしようもなく好きなんじゃないか!!」


じいちゃんは出目金みたいな目をしてポカンと私を見る。


「類…、好きな人がおるんじゃな?」


おい、私。バレバレじゃん。


「拓海の事が好きなんじゃろ?」


なんでバレてるの!!?


「ばッ…そんなわけ!!!」


「そうか、そうか。フォッフォッフォ!」


「違う!!私は、善哉さんの事は上司として尊敬して…!!」


「アイツは男前だし頼りになるからのう。軽口もたたかんし。類は仕事を辞めるか、拓海の彼女になるか…か?」


じいちゃんは顎を親指と人差し指でなでながら言った。


「だ、だから!私は、そんな気持ちは…」


「小さい頃から拓海に遊んでもらっとるから、兄のように慕っているのかと思っていたのじゃが…まさか男として好きとはな」


じいちゃんはギョロリと目を向ける。


…だって、タイプすぎる。

私とは正反対の切れ長の目。

身長も180㎝くらいはあってマッチョ過ぎない筋肉質な体型。

滅多に笑わなくて基本無表情。

でもたまに見せる微笑が、たまらない…!!

一見冷たそうに見えるけど、善哉さんの深い優しさに何度も射抜かれた。

自分が一番忙しくて体力的にもしんどい筈なのに、いつも俺らを休ませようとしてくる。

言葉はぞんざいだけど、俺らの命をいつだって最優先に行動してくれる。


「お前が拓海の事務所を辞める事はないと思うが…仕事を辞めて告白しても、拓海に付き合ってもらえる保証はないじゃろ」


「わっかってるって!!」


そんな事!!じいちゃんに言われなくても!


「じゃがな、類…」


「もう、うるさい!絶対誰にも言わないでよ!?」


じいちゃんの馬鹿。

そんなの、私が一番分かってる。

だから辛いんじゃないか。


ふと、善哉さんとの1年前の会話を思い出した。

あれは、K市内の除霊に善哉さんと行った帰り。

駅に向かって歩いている時だった。





-----------------------------------------------------------------------------------------



信号が赤になって、善哉さんと並んで立ち止まった。

目の前でカップルがイチャイチャタイムに突入し出した。


おい…!

といつもなら思うけど、ふと善哉さんの反応が気になった。


…無ッ。


善哉さんの顔は、まるで目の前にイチャイチャカップルが居ないかのように澄んでいた。


…善哉さん、何考えてるんだろ?"あ〜俺も早く帰って彼女とイチャイチャしてぇな〜!"とかかな?


前々から気になっていた事を、俺は遂に聞く事にした。

心臓がバクバクと興奮し出す。

信号が青になり、善哉さんは少し先を歩いている。


よし。思い切って。


「善哉さんって、彼女居るんですか?」


後ろから問いかけた。


善哉さんは歩みを止めて振り返った。


「…何だよ、急に?」


少し怪訝な顔をして、俺を見た。


「いや〜…何か、恋バナしたいなぁって」


確かめたい。

俺…いや。

私に、まだチャンスがあるのか


お互いに歩みを再開させ、横断歩道を渡る。


「…類は彼女居るの?」


いつもの無表情で逆質問。


「いい、居ないっす!!」


「…そっか。」


そう言うと善哉さんは少し下を向いてから、顔を上げて俺に言った。


「俺、彼女とかつくる気ないから」


えっ?


「な、何でですか!?」


「分かるだろ?こんな仕事してんだ。」


「まぁ…」


かなり特殊な仕事だもんな。

毎日県をまたいで走り回って、忙しい。

それに、常に命懸け。

善哉さんはどこか、違う世界を見ているような目をしていた。


「だから、恋バナとか俺にはできない。」


「そう、ですか…」


「悪ぃな」


そう言うと、善哉さんは再び歩き出した。


…私、善哉さんの彼女になるチャンス、ないのか?


「…まぁ」


思い出したようにぽつりとつけ加える。

次の言葉を少しだけ待った。


「俺の中のルールがどうでも良くなる程」


善哉さんの中のルール。

厳しそうだな…


「好きになっちまったら仕方ねぇけどな」


振り向きながら少しだけ笑った、善哉さんの顔。

その表情と声と仕草と、瞬時に私の目に焼き付いた。


善哉さんは何事もなかったかのように、少し先を歩き出した。

思わずボンヤリと背中を見ていたけど、すぐに慌てて背中を追う。



待ってください、今のは…

反則です!!


さっきの映像が頭から離れない。

きっと、何度も何度も思い出してしまうんだろうな。




俺、善哉さんの中のルール、破壊したい!!


-----------------------------------------------------------------------------------------





そうだ。

あの時に、はっきり自覚した。

俺は善哉さんの彼女になりたいんだって。






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