確かめるために
「今回の件でハッキリ分かった。」
道間って…この前、あの大鼠さんを怪我させた?
善哉さんと肩を並べるくらい強いひと?
「…バスの横転事故、ですか」
景山さんが眼鏡を上げながら言った。
「え!!?」
思わず声が出る。
「俺ら、帰りに乗ったバスが横転事故したんだよね」
類さんはあっけらかんと言う。
「え?え?大丈夫だったんですか!?」
そんな大事故から帰還した雰囲気が、お2人に一切ないんだけど!?
ケガしてるようにも見えない…。
でも、やっぱ景山さんの予感は当たってたってこと!?
「うん。乗客も全員無事。横転したバスの窓ガラスも一切割れず、切り傷一つない」
「…良かった…」
横転して、窓ガラスが1枚も割れないなんてあり得るのか。
「善哉さんは、確かめるために敢えて罠にはまったのですね」
「…まぁそういう事だ」
…どういう事?
「あの占い師は、本部の高島と通じてた。本人が、高島が来たと話していたからな」
「…お馬鹿ですか、その占い師は?」
景山さんは表情を変えずに言った。
「…絶対言ったらダメっすよね」
類さんが呆れた顔をしている。
「依頼を断ったから、高島を通じて俺と類に呪詛を掛けたんだろう。それで、俺らが乗ったバスの横転事故を引き起こした」
どういう事…?本部の人が、何で善哉さんと類さんを狙ったの?
その、通じてる占い師の女が、高島って人に頼んだの?
「高島の名前が出て、呪詛に関わった人間が確定してる時点で向こうの詰みなんだけどな。道間の監視が続いているか確かめたかったから、敢えて呪詛を受けた」
どういうこと?
「なるほど…。じゃあ、善哉さんと此代さんを守ったのは道間だったわけですね」
「え!?どういう事…ですか?」
さっぱり理解できない。道間は敵で、本部は善哉さんたちの味方では…?
「絹代さん。呪詛というのは、既に呪力の強いものが働いていたら、後から弱い呪詛が来ても無効化される事があるんだ。」
「え…」
「道間より強い呪詛なんてそうそうないから、大概の呪詛は無効化されるか、跳ね返っていきます。道間が守るつもりはなくても、結果的には他の呪詛から守った事になるのです。」
景山さんも説明してくれる。
「高島さん、気の毒に…。」
類さんが目をつぶり、苦い表情をする。
という事は、高島さんという人は、善哉さんに向けた呪詛が跳ね返って〇んでしまったという事?
…呪詛、怖ッ!!
「どこの誰に依頼したのか知らねえが、高島が依頼した呪詛師も〇んでるだろ」
善哉さんは無表情で話す。
「…まぁ、間接的に同業者の滝川さんって人と、善哉さんを呪詛っといて、あの女も只では済まないっすね」
善哉さんに呪詛をかけようとするとは、何て命知らずな…
「窓ガラスが割れてたら、俺らが大怪我するか〇んでたっすもんね。」
類さんが頭の後ろで手を組み、そう言った。
「すぐ外でトラックも横転してたからな。」
「ひっ…」
血の気が…。本当に、良かった…。
「本当に良かったです」
景山さんもひと安心という表情で落ち着いた。
「こっちも、特に何もなかったか?」
「はい。若葉さんには、長期出張の話をしました。」
「そうか」
「後、若葉さんの前世を少し覗きました」
「え!?景山さん、前世見れるようになったの!?」
類さんが驚いて聞く。
「はい。」
「…それで、どうだった?」
善哉さんは涼しげな目を景山さんと私に向ける。
「平安時代、陰陽師の元に通って術等学ばれてたみたいです。絹代さんの前世は、都の浄化作業を行っていました。」
「やっぱ、そういう事だったか」
善哉さんは何か合点がいったような表情をし、椅子の背もたれに背中をつけた。
「善哉さんには、見えていたのですか…?」
景山さんが聞くと、善哉さんはキョトンとした表情になった。
「別に見えたりはしないが、勘」
そう言うと私を見た。
クールな目線が急にこっちを向いたから、ぼんやりした顔を見られてしまったと思い赤面する。
「きぬちゃん、善哉さんにお給料上げてもらおうね☆」
類さんはそう言うとおどけた表情でウインクした。
「い、いえ!そんな…今でも十分いただいております!!」
「絹代さん。これからヒーリングで助けてもらう事になるから、もちろん技能に応じて報酬は上げるよ」
何ですか、この超絶ホワイト企業は。
「そうですね。ヒーリングに場の浄化作業に…その能力で独立できる位のレベルですからね」
景山さんもニコニコしながら賛同している。
「い、いえ…!!まだまだ、自分でも何やってるか分かんないし…皆さんの助けがないと、私なんて何も…」
「何もできない人を、俺が雇うと思ってる?」
うっ…。
こういう時に冷徹モードを出してくる善哉さん。
「悪いけど、自信がなくなったなんて理由でここ辞めないでね。」
切れ長で凄みのある目でガッチリと私の両目を捕らえる。
「絹代さんが必要なんだから」
え…
「善哉さん、そんな目で見たらきぬちゃん怯えちゃうっす!!」
善哉さんはハッとした。
「だ、大丈夫です。」
本当はちょっとビビったけど。笑
「…とにかく、絹代さんには自信持ってもらって。対価はきっちり払うから。」
善哉さんは少しだけ目を伏せた。
「そうですね、対価は払わなければ」
景山さんはにこやかに私を見る。
「…私は、必要とされていて嬉しい…です」
「も~!!きぬちゃんってば謙虚なんだからぁ~!!」
類さんは背中をバシバシと叩く。
ちょっと痛い。
「くうぅぅぅ~!!!どいつもこいつも、姫をたぶらかしおってぇぇ!!!」
清彦が般若の顔で机の下から登場した。
「い、嫌あぁ!!?」
足の間から顔が出てくるもんだから、めちゃくちゃびっくりした。
すぐにキャスター付きの椅子に座ったまま離れ、変態貴族から距離を取った。
すかさず類さんが空になったペットボトルで清彦をぶった。
「誰がいつたぶらかした?」
清彦は憤怒の表情のまま半透明になり、薄くなっていった。
「…清彦君、君はいつまでこの世に留まるおつもりで?」
景山さんは消えかける清彦に、とどめを刺すような言葉を投げかけた。
「我は姫と共に…!!」
バキバキの顔でそこまで言うと、その顔のまま完全に姿を消した。
…怖ぇって。
「…善哉さん、あの霊はいつまで生かしておくつもりですか?」
「…とりあえず、絹代さんが除霊してくれと言うまでは」
善哉さんは手を口にあて、咳払いをした。
「便利ですもんね、生かしておくと」
類さんが言葉と裏腹な天使の笑顔で言う。
「多分そういう意味で、善哉さんは言っているのではないかと…」
景山さんが丁寧につっこむ。
確かに、善哉さんは私の気持ちと意向を考慮してくれている気がする。
多分。知らんけど。
「…絹代さんへの執着心さえなければ、絹代さんの護衛としてあんな適任は居ない。道間の事もあるし…これからもっと役に立つように術を覚えてもらうからな」
善哉さんは少し目をギラつかせている。
「…体のいい奴隷ですね」
景山さんがボソッと呟く。
「オホン!!とにかく、絹代さんがすぐにでも除霊して欲しいと言うのならする。そうでなければ、しない」
善哉さんはなぜか頬を少し赤くした。
「まぁ、ワタクシ達が見張っている限り、悪霊になる事はないでしょうが。」
「そうだよ、きぬちゃん安心して!」
「ありがとうございます」
善哉事務所の安心感半端ねぇ。
「でも、もし…絹代さんに好きな人ができたら…」
「え」
「…その時は除霊一択だろ」
善哉さんは景山さんを見据える。
一択なの?
戸惑っていると、類さんが言葉を続けた。
「もしきぬちゃんに恋人ができたら、あの執着具合だから…いくら俺らが何とかしようとしても、悪霊化するのは免れないかもね。」
「え…?」
「嫉妬して、相手かきぬちゃんに危害を加える様になったら…もう手が付けられないよ。除霊するしかない。」
…そんな。でも…
悪霊化しない方が想像できない…
やっぱ除霊一択か…
すまん、清彦。




