絹代の過去生
かれこれ10分くらい、景山さんは私の前で印を結んだり何かを唱えたりしていた。
景山さんの方を見ながら、背筋を伸ばしてドキドキしていた。
「…若葉さんの過去生を見せてもらいました」
景山さんは、ふーっと息をついて目を開いた。
ゴクリ。
「ど、ど…どんなんでしたか…?」
「平安時代の若葉さんは、陰陽師から直々に術等を学んでいたようですね。」
ええええええ!!?
「普通に、浄霊していましたよ?平安京の淀んだ部分を浄化して回る仕事をされていたみたいですね」
「ええええええええ」
なにそれ…本当に私の前世なの?
「そうなのじゃ!姫は、光の矢で平安京を浄化し、みなを守っていたのじゃ!」
なぜか清彦が得意げに胸を張っている。
「光の…矢?」
すぐに目に浮かんだ。
類さんも、弓矢を道具に除霊しているから。
「…若葉さん、あなたは…」
景山さんが何かを言おうとしたその時、スマホの着信音が鳴った。
景山さんはズボンのポケットからスマホを取り出し、電話に出た。
「はい。景山です」
それから、立ち上がって事務所の端の方へ移動した。
しばらく話を続けていたのを、後ろからただ見ていた。
善哉さんかな…?
とりあえず私は仕事に戻るか。
清彦は景山さんのすぐ近くまで行き、会話を聞いていた。
「…はい。ご無事で良かった…!!」
景山さんが感極まって言葉を詰まらす。
無事だった…良かった。
清彦もほっとした顔をする。
「はい。…分かりました。すぐに確認します」
電話を切った景山さんは、またすぐにどこかへ電話を掛けた。
「ご苦労様です。善哉事務所の景山です。松田さんは居ますか?」
松田さん…たまに、善哉さんが電話している本部の人だ。
本部、本部と会話の中で聞くけど、実の所私はよく分かっていない。
多分、こういう業界の…除霊?関係の本部があるんだろう。
「ついさっき善哉さんから電話がありました。そうです、高島さん。え…?」
しばらく間があった。
「〇んだ…?ついさっき?」
え?
「…そういう事ですか。分かりました。では、善哉さんと類さんが帰ってきたら、確認します」
景山さんは電話を切ってデスクに座った。
「帰ったよ~」
類さんがいつもの無邪気な笑顔で事務所へ帰ってきた。
「此代さん!」「類さん!」
思わず両手を広げて迎え入れてしまう。
類さんは、迷わずハグしてくれた。
汗で湿ったシャツが、クーラーで冷えきらずに生暖かい空気を間につくる。
背中に当たる手の平からも、あったかい類さんの体温を感じる。
心の底から安堵した。
「ご無事で…良かったです」
すぐに身体を離すと、類さんは柔らかな笑みをたたえていた。
「うん。ありがと。」
そう言うとエヘヘと照れたように笑い、デスクについた。
「…此代さん、善哉さんは?」
なぜか面食らったような表情で私と類さんを交互に見やり、景山さんは問う。
「松田さんに電話してる。」
類さんが親指を後ろに指して答える。
そこで、やっと気付いた。
そういえば、類さんが女性だと知っているのは私と清彦だけだ。
いっけね☆
景山さんも類さんを男性だと思っているはず。
ハグするのって…まずかった?
いや!でも私が金髪男に遭遇した後は、善哉さんの前でも類さんとハグしたけど…
善哉さんは特に何の反応もなかった。
類さんの方をチラ見すると、類さんも私を横目で見ていた。
"しまった"
って顔してた。
…やっぱ、やばかった?
「おおい!!我の姫とハグするなんて、何たる狼藉をッ!!類殿!!こらあ~!!」
清彦を見ると、右手を拳にして振り上げ、明らかに怒っている振りをしていた。
え…?清彦、あんた気を使って…
「ごめ~ん!俺、きぬちゃんの事お姉ちゃんみたいに思ってるからさ!つい、海外から帰ってきた兄貴たちと同じようにハグしちゃったよ~!テヘっ!」
即乗っかる類さん。…さすが!!
「はは…私も、前に命拾いした時に類さんにハグしてもらったから…つい!そういう文化なのかと思って!!」
「「ワハハ!!」」
チラッと景山さんを見ると、特に訝しむような雰囲気は消えていた。
何とかなったみたいだ…。
そういう文化って何…?
自分で自分に突っ込みながら首を傾げる。
清彦、見直したぞ。
デリカシーなさ男だと思っていたけど、ナイス!
清彦の方を見ると、ほっとした顔をしていた。
そして、事務所の扉が開く音がした。
「戻った」
「善哉さん!」「お帰りなさい!」
「…ただいま」
善哉さんはいつものクールな表情でデスクに座り、ペットボトルの水をゴクゴク飲んだ。
「とりあえず、皆に話しとかないといけないかな」
善哉さんは、私たちを見渡した。
何だろう?
「俺は今この瞬間も、ずっと道間に監視され続けているみたいだ。」




