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姫探し  作者: 温泉ことね


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占い師の女


「善哉さん、景山さんの言っていた事…」


善哉さんの言う通りにしてきて、俺は何度も死線をくぐり抜け、今ここに生きている。

だから、善哉さんの言う事はいつだって正しいんだと思う。

でも…不安になって思わず聞いちゃった。


「大丈夫だ」


少しだけ振り返り一言言うと、善哉さんはまた前に向き直った。

K駅のホームから出て、出口へと向かう通路を急ぎ足で歩く。


只でさえ人が多くて歩きにくいK駅の通路。

外国人観光客の団体がドカドカやって来て、俺と善哉さんの間を遮った。


やべっ、はぐれる。

善哉さんの気配を辿って追うのも気力を使うから、なるべく避けたい。

背伸びしながら前方を確認。

善哉さんは身長が高いから、人混みの中で離れてもすぐに後を追えるから助かる。


すぐに追いつき、階段を上がりしばらく歩いて、出口から外に出た。

灼熱とはこの事か。日差しが目を突き刺して、眩しいというより、痛い。


「…類。ここからは歩いて行く。帰りはバスで帰るぞ」


「分っかりました!!」


えーっと、前に俺も1度だけ行った事があったけど…。

K駅から歩いて20分はかかったかな?


それからビルの陰を日傘に歩いた。

途中で水を飲みながら、細道に建つ雑居ビルの前に辿り着いた。


「行くぞ」


「はい!!」


善哉さんは、かなり口数が少ない方だ。

けど、今日はいつもより余計に少ないなぁ。


実は依頼内容も聞いていない。

依頼を受ける際、占い師の女性と直接電話でやり取りをしたのは善哉さんだ。

いつもなら事前に内容を確認するんだけど…何か不都合があるのかな?


4、5年前、同じ占い師の元へ善哉さんと一緒に行った。

当時は、入居を検討している部屋の除霊依頼だった。

どんな詳細だったか、不思議と思い出せない。


人1人がやっと通れる幅の階段を上り、4階に到着した。

紫色のベールが、部屋のドアの前に垂れている。


少し、ゾクッとした。



「こんにちは。善哉事務所です」


インターホンを押し、扉が開くのを待つ。

やはり景山さんの言っていた事は…


気を拡張し、センサーを全開にして女が出てくるのを待った。


「おい、やりすぎだ。」


善哉さんは振り返り、俺をたしなめた。


「大丈夫だから、安心してろ」


「…分かりました」


少しだけ、気を縮めてセンサーを緩める。


善哉さんに妙な事しようとしたら◯してやる。


「お待たせしました~」


色白で、濃いローズピンクのリップを塗った女性が出て来た。

にこやかに迎えているが、その背後には無数に黒い影が見える。


「…ご依頼くださり、ありがとうございます。」


「久しぶりですね~。暑い中、ご足労頂きありがとうございます。どうぞ、中へ」


部屋は1LDKで、玄関入ってすぐの部屋が仕事部屋になっていた。

カーテンは閉め切られ、部屋の照明は点いているのに全体的にどんよりと暗い。

涼しいけど、湿気がある。

汗を纏った肌が服の中で蒸され、心地が悪い。


女に勧められ、善哉さんと俺は白いカウンターテーブルに女と向い合せで座った。


「この前、本部の高島さんがうちに来てたんです。」


え、高島さんが?

てか依頼と関係のない他のお客さんの事いきなり話すって、どういう神経してんだ?


「…そうですか」


善哉さんは無表情。


「電話でもお話したように、私、誰かにサイキックアタックを受けているみたいなんです」


女はそう言うと自身の肩をさする。


「心当たりは、ありますか?」


「はい。先日、同業者の女性と仕事をする機会がありました。そこで、その女性から疎まれているような…」


後ろの影の様子から、すぐにこの話は嘘だと分かる。


「同業者だけど、相手は自己承認欲求が強くて…人を見下すような態度をしていました。」


「そうですか。その同業者の方との間には、どんな事があったのですか?」


善哉さんは冷静に質問する。


「えぇ。沢山あるんですけど、最近特に態度が冷たくなりました。出会って初めの頃は、こちらがご飯に誘っておごってあげたり、お客さんを紹介してあげたりしていたのですが…。去年から大物政治家の専属として声がかかったみたいなんです。お金を貸した事もありました。でも…未だに返ってきてません。」


「差し支えなければ、その同業者の方の事を教えてくださいますか?」


「はい、名刺があります。この方です」


「…ありがとうございます」


善哉さんが名刺を受け取り、俺も横から覗く。

滝川裕美さん…ね。


「早く、呪い返しをお願いします。」


呪い?さっき、サイキックアタックと言ってなかったか?

女は焦りから、身体を前のめりにして急かした。

善哉さんの眉が僅かに動く。


「それは、すぐにはできかねると何度もお話しして…」


「何でですか?私は、こんなに苦しんでいるのに…」


女は善哉さんを睨み付ける。


「毎日毎日、怖いんです。いつ滝川さんが、私を潰しにかかって来るのか…」


「お気持ちはお察し致します。しかし、すぐに対応できかねると何度もお伝えしています。それでも依頼したいと仰いましたよね?」


善哉さんは無感情で言葉を発した。


「目の前で、こんなに苦しんでいるお客さんを見て、冷たすぎるんじゃないですか?」


女はまたもや睨み付ける。

おぉ、こえぇ顔だなぁ。


「…分かりました。申し訳ございませんが、今回はお引き受けできかねます」


「ちょっとおかしいんじゃないの?」


女はこめかみに青筋を立てて怒っている。


「申し訳ございません。では、失礼致します。」


善哉さんは立ち上がり、礼をした。

俺も立ち上がり、女に向かって礼をした。


顔を上げると、女は俺の事も睨み付けていた。

が、口元は不自然に上がり何かを企んでいるみたいだった。






「善哉さん、やばいっすねあの女」


「…ん?あぁ…」


どこか上の空の返事。

何か考えている最中の善哉さんは、いつもこんな感じの返事をする。


「あの背後の影は、先に女が呪った証拠ですね。」


「そうだな」


「滝川さんの事を、明確に呪う意思があの女にあった…。自分が飛ばして返ってきた呪いを、呪い返ししろだなんて…知ってて言ってるんでしょうか?」


「うん。知ってると思う」


善哉さんは腰に引っ掛けていたタオルを手に取り、汗を拭く。


「あの呪い…女が飛ばしたものじゃねぇぞ」


「…はい」


あの黒い影からは、俺も知っている気が漂っていた。


「たむたむの…やつでしたよね」


「その呼び方やめろよ」


たむたむ。本名、田村健吾。

S県で活躍する同業者だ。


「バレないとでも思ったのか、俺らをナメすぎだな。」


善哉さんは涼しげな目で俺を見下げる。


「善哉さんか俺が呪い返ししたら、たむたむ即死ですね」


「あぁ。完全に巻き込み事故になるな」


呪詛はバレると倍返しになって呪詛した者へと返って往く。

"人を呪わば穴二つ"ということわざがあるが、あの"穴"はお墓の穴の事だ。

呪った相手を埋めるためにお墓を掘ったが、呪詛が返ってきて自分が入るお墓の穴も必要になる、という意味。


人を呪うという事は、恐ろしい事なんだ。

素人や呪詛をかじっている程度のレベルなら、決して手を出してはいけない。


「つまり、今回女はまず健吾に呪詛を依頼。それが滝川さんという人にバレて呪詛返しに遭った。」


「たむたむは対応できているだろうけど、あの女は…」


「切羽詰まっているだろうよ」


たむたむ…良かったな、俺たちが次の業者で。

女に依頼されるまま、見抜けずに呪詛返しをされたらたむたむは…。


「…類。帰りはバスに乗って帰るぞ」


「あ、ハイ!」


そう言えば善哉さん言ってたな。


2、3分程歩き、最寄りのバス停でバスを待つ。

通勤時間も過ぎ、観光客もあまり利用しない路線だから、並んでいるのは2、3人程度だった。


善哉さんは何故か気を張って警戒を強めた。


「…どうしたんすか?」


「…いや、何となくな」


じゃ、俺も。

気を張ってセンサーを全開にする。


「類は普通にしてろ」


ショボボン…。善哉さんの言う通りにしとこう。

気を縮めると、すぐにバスがやって来るのが見えた。


乗り込みながら、今回の流れを頭の中で反芻する。


通常なら依頼内容を確認するのに、今回はしなかった。

いつも以上に、多くを語らない善哉さん。

そして俺が気を張ろうとしたら頑なに止める善哉さん。

わざわざ本部の高島さんの名前を出す女占い師。

何かを企んでいる様な口元の笑み。


…何かが、今から起こる。


バス内も空いていて、善哉さんと一緒に右後方の座席に座った。

バスに乗るのは久しぶり。こんなに狭かったっけ?

揺れる度に、善哉さんの肩が俺の肩に当たる。


「…来る」


善哉さんはそう呟いた。

その時。


景色がグルリンと一周した。

同時に、バス内に悲鳴が響く。

前方の座席に座っていたおじいちゃんが座席から投げ出されるのが見えた。


善哉さんの式神が飛んで行き、おじいちゃんが床に叩き付けられる前に変化し、クッションになった。


一瞬の出来事だった。

俺は善哉さんの体の上に乗っかる格好になっていた。


俺より一回り大きな身体。密着して、出し抜けに心臓が高鳴る。

善哉さんの顔がすぐ目の前にあって、思わず赤面する。

呼吸の音が、すぐ耳元で聞こえて…あわわわ。

ドキドキどころじゃない…!!


やばい。俺、いや私…バレちゃう…!?



両腕を善哉さんに掴まれ、はっとした。


「類。立てるか?」


善哉さんの冷静な顔と声に、ようやく頭が状況を理解した。

と同時に、男モードに切り替わった。


「はい…!!」


バスは横転し、車体の右側が地面についていた。


立ち上がると、バス内の窓ガラスは1枚も割れていない。


他の乗客も座席の間から顔を出し、狐につままれたような顔をしている。

どうやら全員無事のようだ。


「善哉さん…!!」


きっと、善哉さんが式神を使役して乗客全員を守ったんだ。


「…俺じゃねぇ」


善哉さんは口の端を少しだけ上げた。




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