トゥンクトゥンク
帰りは新幹線の始発に乗って帰った。
自由席だったけど、所々席は空いていたから、三人並んで座れた。
窓際に善哉さん、真ん中に類さん、通路側に私が座っている。
てっきり善哉さんの式神に乗って帰るのだと思っていたけど、
緊急の時にしか召喚されないみたいだ。
「銀ちゃんが、善哉さんの式神を使う事もあるんすね」
類さんは座席に頭をもたれ、正面を向いたまま言った。
銀ちゃん…あの、私を呼びに来てくれた神様みたいな少年の事かな?
「…俺は、巻き込むつもりはなかったんだけど」
善哉さんは類さん越しに私を見た。
「でも、銀が絹代さんを呼んでくれなかったら、俺は今ここには居ない」
眠たそうな目。
「…お二人が生きててくれて、良かったです」
本当に、良かった…。
「…ありがとう、絹代さん」
善哉さんはそう言って、優しい顔で微笑んだ。
ふと疑問が浮かんだ。
「あの、私ではなくて、善哉さんの式神は結界の札を持って来れないんですか?」
「今回は、俺自体が異空間に飛ばされしまったから無理だったんだ」
そうなんだ。
「銀ちゃんが式神を使ってくれたから、絹代さんを連れて来る事が出来たんだよ」
類さんはそう言ってからアクビをした。
「…」
私を運べたなら、札も運べるのでは?という疑念は完全に消えなかった。
が、何となくそれ以上聞くのを止めた。
「現実の物質に干渉する事は、式神と使い手にとってものすごくリスクの高い事なんだ」
私の心を読んだかのように、類さんが話を続けた。
「そう…なんですね」
まだまだ知らない事が沢山ある。
「それに、絹代さんが来てくれたお陰で結界がすぐに張れたんだ。」
善哉さんが表情筋を動かさずに言う。
「わた…しが?来たからですか?」
なぁぜ?
「絹代さんは自分では分からなかったかも知れないが、邪気で充満した空間を絹代さんが浄化した。それですぐにきっちり結界が張れたんだ」
「え…私、何もしてませんが…」
「言ったじゃん、きぬちゃんは空気清浄機」
類さんがウインクして笑う。
「そっか…自分では、何も分かりませんが…」
半分寝ているような鈍った感覚の中。
胸の奥が暖かい光に包まれるのを、確かに感じた。
「あの、またこんな事があったら、私全然行くので!!」
類さんと善哉さんはトロンとした目で私を見やった。
「…気持ちは嬉しい。ありがとう」
善哉さんは棒読みだ。
その言い方…呼ばないつもりですな?
「きぬちゃんに何かあった方が、俺らにとってはダメージでかいからね」
苦笑いする類さん。
「私は…役に立てて嬉しかったです」
いつも助けてもらって、守ってもらってばかり。
二人の役に立てたならば…。それすなわち、日本の役に立てたという事!!
「それに、こんな事は滅多にないからな。来月には景山も帰ってくるし」
でた、まだ一回も会った事のない景山さん。
「そうですね。景山さんが帰ってきたら、今回みたいな事になっても景山さんにヘルプ頼めるから…」
そこまで言うと、類さんは大アクビをかました。
「おやすみ」
そう言って目を閉じた。
「…一番しっかり寝たはずの奴が寝たな」
善哉さんは呆れた顔をしてるけど、口角は上がっている。
「はは…類さん、おやすみ」
類さんは目を閉じたままうなづき、眠りにおちた。
「…絹代さん」
私も寝ようと目を閉じたら、善哉さんの声がした。
「ハイ、何でしょう?」
切れ長の目が、真っすぐにこちらを見ていた。
「前にも言ったけど、絹代さんが同じ空間に居てくれるだけで俺たちは助かってる。」
「…そ、そうですか…」
一家に一台、空気清浄機『絹代』。
「それに、絹代さんはヒーリングもできる」
前のはマグレでできたのではないか?
未だに半信半疑だ。
「…頑張ります」
できなかったら、クビかな?
だって、私が来る前は景山さんが事務をしていたと聞いている。
景山さんが帰って来たら、私はお役御免なのではないか?
ヒーリングも、自分ではよく分からないし…
よく分らんけど、業界内でかなりの強さを誇るお二人の元で働き続けられる気がしない。
すぐに、私のポンコツさに呆れられて…
「絹代さんは、そのままが良い」
善哉さんはそう言って微笑した。
…え?
思考が停止した。
善哉さんは背もたれに頭をつけた。
窓の方へ顔をやり、手で顎を支える体勢になった。
何今の…
かっこよすぎん?
胸がトゥンクトゥンクする。
呼吸も、荒くなって…
心臓が…
バクバクする。
これは…
徹夜のせいだな?
おやすみなさい。




