部屋の中
『うぬ等、どうやってここに来た!?』
飛び込んだ部屋の中は、邪悪なニオイに満ちていた。
鼻を着物の裾で覆って、何とか耐える。
落ち武者の霊が目の前で脇差しを構えている。
おそろし!!!いとおそろし!!!!!
「姫…!!」
絹代殿の方を振り返ると、姫の持つ袋が山吹色に光って浮いていた。
善哉殿が印を結び、ブツブツ何かを唱えている。
瞬時に、善哉殿と絹代殿の周りを閃光が囲った。
結界じゃ!!この男、一瞬で結界を作ったのか!
『〇ねぇぇええ!!!』
「ひッ…!!?」
落ち武者の霊が我に脇差しを振りかざした。
「早くこっちに来て!!」
姫の叫び声が聞こえるや否や、我の身体はあっという間に結界の中へと吸い込まれた。
「姫…ありがたし!!」
結界の中は、花のニオイがした。
我はまた、姫に命を救われた…
絹代殿、身も心もいとうつくし!!
普賢菩薩の如く懐深き姫に、存分に抱き着いた。
接吻をしようとしたらげんこつを食らった。
『あと少しだったのに…!!!』
落ち武者の霊は恨めしそうに結界の中を向く。
目玉のない、目で…蛆のわいた口を大きく開けて…
「ひぃぃ!!こっちを見るでない!!」
いとおそろし~!!
絹代殿の顔も青ざめている。
「…なるほど」
善哉殿は何か心得た様子。
「お前、刀を自分の霊力に変えるタイプか」
善哉殿は口の端を上げ、少し笑った。
『返せ、返せ、返せーーーーー!!!』
霊は必死で結界にすがりつき、ガリガリと指でほじくり回す。
「「ひぇぇぁぇぇぇぇ!!!!!??」」
絹代殿と声が揃った。
こやつ、結界を破るつもりじゃ!!
「結界は破れないから安心して。刀さえ触らせなかったら、大丈夫だから」
「は、ひ…」
善哉殿の言葉に、姫は安心したみたいじゃ。
我だって…!!
「絹代殿、我がついております!!何かあっても我が命に代えてお守りいたす!!」
どや…?姫!!
「…ありがと」
姫の顔は虚ろで、我の声が聞こえていないみたいじゃ…
ぴえぴえピエリ~ノ。
『グオオオオオオオ!!!!』
落ち武者の指はこそげ落ちてボロボロになっていく。
結界の力で、蕪おろしのように指が削られているのじゃろう。
…痛そうじゃな。
「そろそろだな」
善哉殿は刀を置き、札も持たずに結界の外に出た。
「え!?ちょちょ、善哉さん!!?」
絹代殿が焦って善哉殿を追おうとする。
「すぐ終わるから、そこで待ってて」
そう振り返る善哉殿に、落ち武者の霊が脇差しで斬り掛かる。
「善哉さ…!!」
その露の間、落ち武者の霊は跡形もなく消え去った。
「…何が起こったのじゃ」
「え…?消えた…嘘…?」
手妻(平安時代のマジック)を見ていた様な心地じゃ。
善哉殿は結界を解き、姫と我を交互に見た。
部屋の中からは、もう邪悪なニオイはしない。
「…もう大丈夫。ありがとう」
そう言うと、絹代殿を見た。
「…あー、今解った。俺の式神に乗ってきたのか」
足早に部屋の奥へ向かった。
我も姫と一緒に善哉殿を追う。
ベッドの上で、類殿が寝ていた。
「類も無事だ」
善哉殿は安心したようじゃ。
息を吐いて、ベッドに腰かけた。




