アオサギさんに乗って
…善哉さん、何か様子が変だったな。
電話を切ってから、ぼんやりとパソコンの画面を眺める。
「何かあったんじゃろうか?」
清彦も心配そうに眉を寄せ腕を組んでいる。
「う~ん…」
類さんの心配をしていたけど…
違う意味で心配になって来た。二人とも大丈夫なんだろうか?
何かは明確に分からないけど、さっきの電話は引っ掛かるものがあった。
「もっかい掛けてみようかな?」
事務所のスマホを手に持ち、電話を掛けようかと逡巡する。
ふと、手に白い鳥の羽が落ちた。
「ん…?羽?」
「ギェッ!!ギェッ!!!」
見上げると、事務所いっぱいに羽を広げ、くちばしをもたげた巨大アオサギが目の前に居た。
「でぇえええ!!?」
心臓が飛び出るかとおもた。
「これは…」
清彦がアオサギに鼻を近付けて嗅ぐ。
「…善哉殿の式神ですな」
意味深な顔で振り返る。
「しき…がみ?」
あの、安倍晴明の世界で登場する?
『絹代さん。札を準備して。結界を張れるように』
アオサギの羽の下から、銀髪の少年が現れた。
牛若丸みたいな服装。
「ひぇっ…!?」
神々しいオーラが、少年の身体を囲むようにキラキラと輝いている。
神様?
『早よう!!急いで!!』
「は、はいッ!」
とは言っても、私にはどの札が結界の札なのか、どこに仕舞ってあるのか分からない…
と思ったら、頭の中に札の在り処が浮かんで来た。
資料室の、本棚の木箱の中。
『ここや!!』
どうやら神々しい少年が見せてくれている様だ。
頭に浮かんで来た場所を探すと、札が何十枚と仕舞ってあった。
『この札と、この札と…』
脳内にお札のビジュアルが浮かぶ。
何この機能、すげぇ!
能力者になったみたいでテンション上がる。
浮かんだ通りのお札を3枚手に取り、麻紐に紙垂、木製の札立てをまとめて手提げ袋に入れた。
『よし!!これを持って、アオサギで拓海の所まで行くんや!!』
「はい!!って…」
え?このドデカなアオサギさんに乗って…?
『急いで!!拓海が危ない!!』
清彦と顔を見合わせる。
やっぱり、何かあったんだ。
除霊に何の役にも立たない私に、助けを求めるくらいに。
どうやって乗ったらいいか分からず、アオサギさんの大きな羽をそっと触った。
「ギィエッ!!ギィエ!!!」
クチバシでお尻を持ち上げてくれて、10m以上はあろう背中にヒョイと乗った。
清彦も私について、アオサギさんの背中に乗った。
羽毛がフカフカして、めちゃくちゃ暑い。
『飛ばすで!しっかり捕まっときや!!』
「は…い!!?」
アオサギさんの羽毛をぎゅっと掴む。
「い…痛くない!?」
アオサギさんは気にしない様子で飛び立った。
「あれ!?さっき事務所の中に居たのに、どうやって…!?」
屋根突き抜けた!?
一気に気温が下がり、急激に真冬のような寒さが襲う。
体勢を低くし、フカフカの羽毛に身体を埋めた。
眼下には街並みが遥か遠くに見える。
意識が吹っ飛びそう。
吾輩は高所恐怖症である。
「絹代殿、"触ってもいい"と言ってくだされ!!」
「触ってもいい」
清彦が肩を持って支えてくれた。
「…危なかった」
清彦がほっと溜息をつく。
どうやら私、風で吹っ飛びそうになっていたみたいだ。
とりあえず、おしっこちびりそう。
目は、到着するまでつぶっていよう。
10分程経っただろうか?
アオサギさんは地上に降り立った。
目の前には、"ホテル〇〇"というビジネスホテルのような外観のホテルが建っていた。
『ここのホテルの、入って右の"116"号室に拓海と類が居る。ノックして、呼びかけるんや』
銀髪の少年の声が頭の中で響く。
「わかりました」
うなづいて、清彦と一緒にズカズカとホテルに入っていった。
受付には誰も居ない。
ホテルの中はオレンジ色の光がぼんやりと浮かび、廊下の奥へ頼りなく続いていた。
「…人気がないね。」
しぃんと静かで、不気味だ。ばり怖い。
背筋がブルっと震える。
「絹代殿。我々は善哉殿の式神により異空間に来たのです」
「は?」
「善哉殿は、恐らく霊により異空間に飛ばされたのじゃ。」
「何それ…大丈夫なんかな?」
善哉さん、類さん。
「…我は姫が大事じゃ。今、引き返す事もできる。いや、引き返しましょう、姫」
「は?」
いや私じゃなくて、善哉さんと類さんの心配を…
「絹代殿、ここまで来ましたが…善哉殿でも危うい霊なら、我々が行った所でどうにかなる霊では…」
「…」
善哉さんは、私を緋刀麻呂で斬ってしまった事をずっと負い目に感じている。
斬った時、倒れた私を放っておく事もできただろう。
外傷はなかったんだから。
清彦と、じいやと、あの乙女ゲー男を除霊して、依頼された仕事を全うする事もできた。
でも、善哉さんと類さんは…
清彦たちの除霊を見送った。
倒れた私を自宅まで運び、すぐに谷崎さんを呼んで治療してくれた。
類さんは何もできない私を、事務所で一緒に寝て警護してくれた。
善哉さんは私が今後狙われないように、何か分らんけど強いライバルに勝負を挑みに行った。
他にも、たくさん…
温かい言葉や眼差しを、2人からもらった。
まだ出会って二か月しか経ってないけど、
二人は、徹底的に私を守ってくれる。
ここで逃げ帰って生き延びても
二度と、類さんと善哉さんに会えない。
あんなに助けてもらっといて
ここで逃げるなんて
私は…
「恩知らずクソ野郎には、ならない…」
「は?」
怖いけど、何となく、行けば大丈夫な気もする。
私が持って来た結界グッズさえあれば、善哉さんと類さんなら何とかなる…!!
それに、今更引き返せない。
ここまで来てしまった。
後戻りなんて…
怖い。
でも…
急がなきゃ。
廊下を進んで行く。
心臓はバクバクと振動する。
"116"
「姫!待って…」
深呼吸する。
扉を、ノックした。




