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姫探し  作者: 温泉ことね
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支配人の案内


午前中の除霊依頼が終わり、類と一緒に新幹線で依頼主の元へ向かった。


「座れてよかったっすね!」


「あぁ」


K市内で駅から近い場所での依頼だったから、除霊が終わり次第すぐに新幹線に乗る事ができた。

幸い、座席も空いていて類と隣同士で座れた。


「今から行くホテルは、どんな依頼なんすか?」


類は前髪を上げ、ハンカチで額の汗を拭っている。

K市内は殺人的な暑さで、外を数歩でも歩くと汗がどっと出てくる。

俺もタオルを出して顔の汗を拭く。


「うん。それが、客室に落武者の霊が出るらしい」


「ひぇっ…」


「毎晩、夜中の1時になると現れて、客の首を絞めて来るらしい。その他の被害はないらしいが、その部屋だけずっと空けなくてはいけないし、従業員は掃除管理するのも怖いとの事で困っているそうだ。」


「…重めな案件なんすか?」


「…何となくな」


依頼主の話だけ聞くと、俺一人でも対応できそうだった。

でも、何となく、胸騒ぎがする。

この直感は無視できない。


「…善哉さんがそう言うなら、覚悟しときます」


類はハンカチをポケットに仕舞いながら顔を引き締めた。





1時間程して、O駅に到着した。

改札口に来ると、「ホテル〇〇」とプラカードを持ったスーツ姿の男が立っていた。

見ていると、礼をしてきた。


類が会釈をする。


「あの人が、支配人っすかね?」


改札を通ると、そのスーツの男が近付いてきた。


「ようこそ、遠い所から来て頂きありがとうございます!」


男は瘦せこけた頬を上げ、落ち窪んだ目を細めた。


「私、支配人の岡本と申します。メールと電話では、どうも」


ほっそりと背の高い、頼りなげな支配人。

名刺を出してお辞儀をした。


「ご依頼いただき、ありがとうございます。私、善哉事務所の善哉拓海と申します」


俺も名刺を出し、支配人と交換した。


「私は善哉事務所の助手で、此代類と申します」


「よろしくお願いいたします」


類とも名刺を交換した支配人は、大事そうに名刺を胸ポケットに仕舞った。


「お昼ご飯は、召し上がられましたか?」


類と顔を合わせて首を振る。


「いや、実は午前中の依頼が終わってすぐ来たので、まだで」


白縁の細フレームメガネがキラッと光った。


「それはそれは!もしご迷惑でなければ、私がO名物のお店へご案内いたします」


「えっ!?本当ですか!!?」


類がテンション高めの声を出す。


「俺、カキオコ食べたいです!!調べてたんですけど、おすすめのお店教えてください!」


「カキオコですね。では、表にマイクロバスがご用意してありますので乗ってください」


「…支配人、お忙しいでしょうに」


俺らに付き合う必要はないだろう。

除霊は夜に行う。


「何をおっしゃいます。今日は、私が一日ご案内させていただく所存でございますよ。」


「えっ」


お昼だけじゃないのか。


「…もし、ご迷惑でなければですが」


支配人は眉根を下げて微笑んだ。

この支配人に一日預けるのは、何だかな…。

今日初めて会った除霊屋を、どこに連れて行こうとしているんだ?


「まぁ、別に夜までは暇っすよね?」


類が顔を見上げて言う。


「まぁ、な。」


部屋で寝ようと思ったけど。

まぁ、大丈夫そうなら良いか。


いざとなったら式神を召喚して、ホテルまで帰れば良い。


それから、支配人の運転するマイクロバスで昼飯の店まで移動した。


「いやぁ、想像していたよりお若い方でびっくり致しました」


「…よく言われます」


「それに、男前ですね!」


「…」


「よく言われます!!」


類がニヤニヤしながら答え、俺を見る。

何だてめぇ。





類所望のカキオコを食べ、ホテルへ向かう。


「うちの宿は、ここから車で10分程度の場所にあります。続けてご案内したい場所があるので…荷物を置いて頂いたら、またバスに乗ってください」


「…行先は…」


「カキオコ美味しかったです!」


どこに案内されるのか、尋ねようと思ったら類が遮った。

ご機嫌だな。


「良かったな」


しばらくして、ホテルに着いた。

繁華街の通りにある、こじんまりとしたビジネスホテル。

昼間だけど、日差しが当たらず真夏なのに少しひんやりする。


ホテル前のロータリーには植栽があるが、雑草が伸びて少し荒れた印象を誘っている。


玄関目の前にバスを停めると、入り口に立っていた従業員が支配人と入れ替わりでバスを移動させた。


「ささ、こちらです」


自動ドアが開くと、従業員が3、4人出迎えてくれた。

中も薄暗い。

受付左側の背後はガラス張りになっており、茶色いレンガの花壇が、ガラス越しに見える。

花壇からは背の高い草が生えていた。


「ようこそいらっしゃいました。」


1人が俺と類のカバンを持ち、支配人が先頭に立ち部屋へ案内する。


「例の部屋へ、早速ご案内いたします」


入って右側に向かって歩き、一番奥の部屋に通された。


「…この部屋です。」


部屋番号は、116。


今の所、特に禍々しいものは感じない。

支配人が部屋の鍵を開け、中に入る。


広さは、6畳程度の部屋。

入って左手にベッドが2つ並んでいる。

右手には小上がりの畳が2畳程あり、上には棚とテレビが載っている。

クーラーの風がやけに涼しくて、汗が冷えて少し寒い。


湿気のある空気感に、背筋のセンサーが反応する。

何かが居座っているのは感じるが、昼だからまだそこまで邪悪な感じはしない。


何となく嫌な感じはするが…。

俺1人でもいけそうに思えるけど、直感は"そうじゃない"と言っている。


「トイレが、こちらです」


入ってすぐ左の扉を開けると、そこには和式の二段式水洗トイレがあった。


「改装しようと思ったのですが、稼働できずこのままで…。除霊していただいた後に、改装しようと考えております。」


「このトイレ…懐かしすぎっすね」


「そうだな」


床の石つぶてみたいなタイルが、俺の育てのじいちゃん家のトイレを思い出させる。


「準備ができましたら、またバスでご案内いたします。受付へお越しください。」


そう言うと、支配人は扉を開けて礼をした。


「では…。」



支配人は扉をゆっくりと閉め、俺と類だけが部屋の中に残された。


電気をつけても暗い部屋だが、そこまでの悪霊が居るような気はまだ感じない。


「…あの人、大丈夫っすかね」


類が扉の向こうを見ながら言った。


「まぁ、この部屋の霊を俺らが祓っとけば、後は勝手に回復するだろ」


「めっちゃ低級霊ついてたっすね!」


類は畳の上にリュックを下ろした。


「善哉さん、どっちで寝ます?」


類はベッドの方を見る。

手前の出入り口側と奥の窓側。


「どっちでもいい。」


「じゃ、俺窓際行くっすね」


俺も類も、最低限の荷物を小さめのリュックに入れた。

着替えや仕事用の荷物は背負ってきたでかいリュックに入れ、ここに置いていく。

置いた荷物の周りに簡易的に結界を張ってから部屋を出た。



「どこに案内するつもりなんでしょうね?」


廊下を歩きながら類が言う。


「さぁな?聞いてみるか」


部屋で寝てる方がいいと思ったら、断るか。


受付に行くと、従業員が外へ案内した。

マイクロバスの運転席で、支配人が待っていた。


「では、行きましょうか!」


「今から、どこに行くんですか?」


バスには乗らずに聞いてみる。


「うちのホテルには温泉がないので…よろしければ、温泉にご案内しようと思いまして」


支配人は朗らかな顔でそう答える。


「…温泉って、ここからどれくらいの時間がかかるんですか?」


類が聞く。


「ここから30分くらいです」


温泉なんていつから入っていないだろう?


「い、今から入ってもどうせ汗かいて、また入らないといけないし…やめときますか?善哉さん?」


「…ま、行ってみるか」


温泉は好きだ。

身体に深く溜まった邪気を一掃できる。


類は目を見開いて驚いた顔をした。


「類、温泉苦手だったっけ?」


好きじゃなかったっけ?

たまに銭湯に行っているって言ってたし。


「…いや、夏は暑いし…今日は、温泉の気分じゃないんです」


「そっか。じゃあ、俺だけ行ってくるわ」


そうしてバスに乗ろうとしたら、類も付いて乗った。


「入らないけど、俺も一緒に行きます!」


そうして、俺と類は温泉まで支配人に連れて行ってもらった。




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