ホテルからの依頼
『件名:除霊依頼 お願いします。
初めまして。私、ホテル〇〇の岡本と申します。
ある部屋だけ怪奇現象が起き、何年も前から稼働できない状況となっております。
地元で高名な和尚様や神主様へ依頼しても一向に祓えず、従業員共々困り果てております。
確実に除霊して頂ける御方を探していた所、貴社のホームページを拝見しました。
是非依頼したく、メールを差し上げた次第です。
ご返信、お待ちしております。
ホテル〇〇 支配人 岡本 登
〒〇〇〇ー〇〇〇〇
O県O市・・・・・・
』
善哉事務所で勤務し始め、二か月が経った。
夏の暑さが本格化している時期に入っていて、毎日通勤で汗だくだく。
盆地特有の蒸し暑さで、セミ達はテンションアゲアゲで大合唱。
「善哉さん、7時頃にメールが来てましたが、確認されましたか?」
依頼メールは共有で、どのパソコンでも見れるようになっている。
まだ返信していないみたいだったから、一応声を掛けた。
「あぁ。O市内のホテルの件だろ?さっき電話した。」
類さんは朝から清彦と除霊依頼に行っており不在。
清彦は修行の一環で除霊依頼に付いて行く事が増えた。
「ちょっと重め案件だから、俺が直接やり取りするわ。絹代さんは他の仕事頼んだ」
「わかりました。」
パソコンに向き直り、仕事を進める。
まだ一度も会った事のない、長期出張に行っているかげ…なんとかさんの持っているカード履歴を確認する。
家賃に光熱費、水道代、その他ガソリン代や交通費。
これらは事務所の経費で計上する。
会社のクレカを持たせて使わせてあげるなんて、善哉さんさすがっす!!
会計ソフトで処理をしていると、善哉さんのスマホが鳴った。
「はい。善哉です。ご依頼ありがとうございます。いえ。…はい、では来週水曜に伺います。2名で、その部屋に宿泊で。」
2名…?
善哉さんが電話を切った。
「じゃあ、来週水曜に午前中の除霊依頼が終わったら、俺と類で行ってくる。絹代さんは次の日休みで」
「え”!!!?類さんとですか!?」
類さんと同じ部屋に泊まるって事ォ!!?
「…うん。今回は、念のため2人で行くよ」
神妙なお顔をする善哉さん。
「っと…。今まで、こういう依頼ってあったんですか?」
「あぁ。旅館や、ホテルの宿泊施設の依頼は多いよ。あとキャンプ場も」
「そっ、その度に、類さんと…?」
「?いや、今回が初めてだけど?」
善哉さんが怪訝な顔でこちらを見る。
「そうなんですね…」
善哉さんは、類さんが女性だって事を知らない。
もしバレたら…類さんはクビにされるらしい。
…大丈夫なのかな?
「…絹代さん、何かある?」
善哉さんが疑わしそうに目を細める。
「…!!いえ!!何も!!」
パソコンに向き直り、会計作業の続きに取り掛かった。
まだ善哉さんがこちらを見ているのが視界に入っていたが、
知らないふりをして"経費精算、経費精算、経費精算!!"
と呪文を唱えながらキーボードを叩いた。
「え?俺と、善哉さんで?」
外回りから帰って来た類さんは、大きな目を更に見開いて驚いていた。
「なんも予定ないよな?あったら、今すぐ電話して変更してもらうけど」
「いや、何もないっすけど…」
類さんは戸惑って下を向いた。
清彦も珍しく空気を読み、気まづそうに口を一文字にしている。
善哉さんは目ざとくその空気を読み取り、尚訝しげに私達を見渡した。
「何か引っかかる事があるなら、俺一人で行く。悪かったな」
そう言って息をついた。
「え!?嫌、なんもないっすって!!」
焦って否定する類さんを、善哉さんは鋭く見やった。
「いや、いい。無理すんな」
「嫌ですって!!重めなんですよね?善哉さんが来るなって言っても、俺絶対勝手について行きますから!!」
顔を赤くして類さんが言う。
「…まぁ、じゃあ頼むわ」
善哉さんは微笑してパソコンに向き直った。
「はい!もちろんす!!」
「どどど、どうしよう~!!!?」
善哉さんが外出した後、類さんが泣きついてきた。
「…ま、まぁ今までバレなかったんだし…」
「同じ部屋だよ!?」
類さんが頬に両手を当て、ここでないどこかを見ている。
「俺…終わったかも」
机に突っ伏して弱弱しい声を出した。
類さんは真夏でもカッターシャツの上からノースリーブの薄手セーターを着用している。
女子だとバレないように。
「男装用のインナーは着てるんだけどさぁ…」
突っ伏した腕の隙間から、類さんのクリクリした目が覗く。
かっわ。
「うん…。夏だし、寝巻を厚着ってなんか不自然ですよね…」
「だよね。風呂も、部屋についてるやつならいいけどさぁ。大浴場だったら…」
「ま、まぁ何か理由つけて、タイミングをずらせば…」
「…そうなんだけどさぁ~」
はぁっ、とため息をつき、類さんはまた腕の中に顔を埋め直した。
「清彦ぉ、お前何とかできない?」
清彦の顔を見ると、右目の上に青あざができていた。
さっきは気づかなかったけど、思わず二度見した。
朝の除霊で何があったんや?
「う~ん…」
ゴクリ。
「ないな…」
ずっこける。
「逆に、今まであの目ざとい善哉殿によくバレなかったのぅ?」
確かに。
「善哉さんは俺を小さい頃から知ってるから、その時の先入観で、今までずっと…」
そこで、類さんがハッとした顔をした。
「何か、いい方法を思いついたんですか?」
「いや、何か大丈夫な気がしてきた」
ずっこける。
類さんは、頭を掻いてニコニコと笑った。




