絹代の休日~寝るだけ~
「ひ…め…?」
「あっ、清彦おはよう」
この前から、清彦は私の部屋で寝ている。
善哉さんから私の警護をするように言われているからだ。
部屋にソファーを買って置いといた。
清彦はいつもそこで寝ている。
道間というライバルは当分狙ってこないだろう、という事だったけど。
念のためらしい。
清彦が私に触れないよう、善哉さんが作ってくれた麻紐がつけてあるから安心だ。
着替えたりする時は、「部屋に入るな」と言って締め出している。
「姫…」
いつも、清彦は目が覚めてから私を見て涙を流す。
「…今日も警護ありがとうね。」
清彦はソファーから下りて、私が寝転んでいるベッドにカサカサと近付いた。
蜘蛛かゴ〇〇リなの?
「絹代殿…!!姫を警護できる事がどれだけの幸せか…!!」
まだあどけなさを残す垂れ目から、滔々と大粒の涙が流れ落ちる。
「大げさだなぁ」
いつも思う。
「これは、むしろ我の叶えたい夢だったのです…!!」
「清彦と紫乃姫は、どこで出会ったの?どっちが好きになったの?」
私の前世らしいけど。もちろん私は覚えていない。
「それは…」
下を向いて何か言っているが、聞こえない。
モゴモゴ、ごにょごにょ。
「恋人じゃなかったの?」
ハッと顔を上げた清彦は、眉毛をハの字にし、少し困ったような顔をしていた。
「…恋人…」
確かめるようにそう呟くと、目を輝かせた。
「そ、そう!!恋人じゃ!!」
「…婚礼の儀までいったんだもんね」
そう言った途端、しょんぼりした顔になって俯いた。
「…そうじゃ。何度も会って、婚礼する約束をしたのじゃ…」
前に聞いた。婚礼の儀の夜に、姫は…。
「…姫は、何で〇んじゃったの?」
清彦は青白い顔で驚き、絶句した。
しばらく沈黙が流れた。
「…ごめん。言いたくないよね。」
「…いや、謝るのは我の方なのじゃ…」
そう言うとぎこちなく右頬を上げ、もの悲しい目で私を見た。
休みの日は、大体お昼まで寝ている。
寝るのは好きだ。
お金もかからないし、独身の女が休みの日に昼まで寝ようが、夕方まで寝ようが、地球上誰にも迷惑をかけていない。
大体イライラしたり、体調不良になったりするのは睡眠不足が原因なんだ。
人類みな睡眠時間が確保できていたら、世界はもっと平和なのだ。
「姫!!見てみて!!我、姫のために邪気を払いのけているよ!!」
無視。
「姫ぇ!!見て!!さっきの邪気、結構強かったよ!!でも、我強いから祓ったよ!!」
「…ありがとう。」
眠い。
「姫ーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「うるせぇぇぇぇぇ!!!!!!」
目が覚めた。
「耳元で叫ぶな!!」
ふわさらのオフトゥンから起き上がると、清彦が目の前でひっくり返っていた。
「あれ…?」
てっきりじいやが耳元で叫んだのかと…
「我だよ☆」
起き上がり、ウインクしている。
「部屋から出て行って、入ってくるな。そしてしゃべるな」
そうして清彦は私の目の前から姿を消した。
さっきの悲しそうな清彦は幻だったんか…?
あんなに元気一杯デケェ声出して…
邪気なんて見えないし、私は判らない。
でも、善哉さんや類さんも言ってたから、あるのは本当なんだろうな。
『邪気は溜まると疲れの元となる。身体を怠くさせたりして、人の活動を阻害する。また人の感情を揺り動かし、憎悪、嫌悪、怒りを増幅させる。言わば、人間の闇の部分を膨れ上がらせるもの。そして、浴びた人間を蝕んでいく。』
結構怖い、邪気。
でも私は水晶オーラだから、あまり邪気の影響を受ける事はないらしい。
自分では全然わからんけど。
「…目が覚めちゃったし、起きるか」
と呟きながら、ベッドに平伏した。
さぁ、もうすぐお昼だし、今日はもう起きるぞ…!
と思いながらスマホをいじいじ。
しばらくすると、瞼が重くなってきてまたウトウトと眠くなってきた。
スマホを暗転させ、枕に突っ伏した。
あ…布団に溶けてしまいそうや…
オフトゥンと一体化する程の心地良さ。
ヨダレが垂れそうになり、慌ててすする。
結局、三度寝をした。
お布団から出ると、13時半前になっていた。
「ふぃ~、よく寝た」
前の仕事をしている時は、休日は夕方になるまで起き上がれなかった。
残業も多かったけど、精神的にきていた部分もあるのかな?
そして分からないけど、邪気というものが悪さをしていたのか?と今になって思う。
パジャマから着替えて、部屋を出た。
「あ、忘れてた」
扉の目の前で、清彦が涙目でこちらをガン見している。
目が真っ赤で恐ろしい。
「ごめん!しゃべっていいよ!私の部屋に入ってもいいよ!」
「プハアアアアア!!」
清彦は思いっきり息を吐くと、ぜぇぜぇ息をした。
いや、息をするなとは言ってないけど!?
というか息止めてたら私が三度寝している間に成仏してるだろうに!
「絹代殿…ゆっくり眠れましたかな?」
目くばせをして、こちらを見てくる。
こえぇよ。目赤いし。
「うん、清彦が邪気を祓ってくれたお陰かな?」
そう言うと、平安貴族の顔がパアアと明るくなった。
「それは良かった!!これからも、我は姫をお守り致すぞ」
腰の刀を抜いて無駄に振る。
危ないからやめろ。
それにしても、こんな酷い扱いをしても、不憫な程健気に警護してくれる。
なんか可哀そう。
自分で酷い扱いしといて、そう思うのもなんだけど…。
私の前世は、どんな方法でこの男をここまでさせるのに至ったのだろう?
考えようとしたけど、気味が悪くて止めた。




