第六話 ステージ選択
燃え盛る魔女神様は入って来た私たちを一瞥し、静かに目を閉じた。
炎がみるみる鎮まっていく。
「……熱くさせちまってすまないね。さ、どの子に挨拶すればいいんだい?」
寺院流の礼を取るシラヌイさん、ポカンと見上げるマムマムとウルウル、そして私に寄り「あの方が?」とヒソヒソ問いかけるミコルル。
そう、この方だから。
はい挨拶して。
ミコルルはゴクリと喉を鳴らして前に出た。
「この地を代表して参上いたしました。拝謁の栄を賜り恐悦至極に存じます」
学院では全校生徒の前で挨拶する時さえ涼しい顔してたのに、今は早口で体も強張っている。
「まあまあ、そう畏まることなどないさ。本当はこちらから出向きたかったんだけど、こんな熱い奴らを連れてったら迷惑だと思ってね」
「この暑さはそちらから……?」
ミコルルは三つの扉の方を見た。
実際には扉から熱が出ていると言うよりは、扉から出た瘴気を魔女神様が熱に変換しているように思えるが、彼女も同じことを感じたのか。
「ん〜、そうだねえ。でもま、同じようなもんだから。気にしなさんな」
魔女神様は特に肯定もせず、曖昧に答えた。
これは……なんとなくシンパシーを感じるぞ。
答えが長いとか難しくて、面倒そうな時によく私が取る態度に似ているじゃないか。
そこで会話の区切りを見たか、シラヌイさんが礼を取ったままスッと前に出た。
「お初にお目にかかります。この地の寺院で修行をしているシラヌイと申す僧でございます。不躾ではありますが、一介の僧として是非大地闘神様に祈りを捧げたく罷り越しました」
やはりシラヌイさんも寺院の僧として、大地闘神に祈りを受けていただきたいと思っていたのだ。
その気持ちはよく分かる。
「遠慮なんていらないさ。そこの子らはほぼ出会い頭に祈ってきたしね」
「ミサ……あなたときたら」
ミコルルの視線が冷ややかだ。
いやあのね、それが無礼でもなんでもないんだからね。
ほら、ミコルルもバシッとやらせてもらいなよ。
「私も!」
「じゃあ私も!」
ほらお供ズは参加するって。
「な、なら私も」
「そうかいそうかい、ならやり易いように来とくれ」
魔女神様は地に下りてばっちこい体勢を取る。
シラヌイさんはソロ、ミコルルとお供ズは連携で向かった。
「うんうん、澄んだ祈りだ。あたしゃ嬉しいよ」
ミコルルたちは先程の魔物を相手するよりも鋭い攻撃を繰り出していた。
そしてシラヌイさんはやはり寺院の僧の名に恥じぬ、見事な祈りを見せてくれた。
魔女神様、シラヌイさん、どちらも満足そうだ。
魔女神様の体から火はもう出ていないが、ブスブスと煙は上がっている。
祈りを捧げて一息つき、魔女神様の様子を見て思い出したのかミコルルが荷物を取り出した。
「あの、暑さにお悩みだと伺ったので持って参りました。先祖伝来ゆえ新しくはありませんが、よろしければお召しください」
例の羽衣だ。
魔女神様は羽衣を宙に浮かべ広げると、微笑んで羽衣を撫でた。
「懐かしい。蒔かれたあの頃のまま……これを貰っていいのかい?」
「? はい、どうぞお納めください」
羽衣は宙に浮いたまま魔女神様のお体と重なった。
そしてスゥと溶けたように消えたかと思うと、次の瞬間には魔女神様の装いは魔女服から天女の羽衣へと変わっていた。
ーーやめてほしいな。
魔女神様ってのがしっくり来てたのに、天女神様って違和感ばっかじゃん。
「美しい……」
「神々しいっす」
うん、みんなの言うとおりキレイなんだけどさ。
まあいいや、心の中では引き続き魔女神様って呼ばせていただこう。
「ほう、こりゃいいね。随分涼しくなったよ。けどね」
そう言って魔女神様は指を鳴らすと、再び魔女服へと戻ってしまわれた。
「あの、お気に召しませんでしたか……」
「いいや、とても気に入ったさ。ただあのまま着てたら力に耐えられずに消滅しそうだったからね。馴染むまでは気持ちだけ貰っとくよ」
なるほど、神様は衣服も特別製なのか。
一応機能の一部は有効で、熱が少し下がっているらしい。
「どれだけ昔の物なんすかねえ。ついこの前のような気がするのに」
?
物って大地闘神の種のことか?
そりゃちょっと無礼だぞ。
後輩を小突いたら「違うっす!」と抗議された。
何が何やら。
そうこうしている内にシラヌイさんが帰った。
お役目があるからね。
ミコルルとシスターズも一緒に帰るのかと思ったが、まだこの場にいる。
「私たちもこの先に行って良いでしょうか」
それはちょっと……この先魔境ですから。
一番簡単なのは火のゴルゴーンだけど、ミコルル相性悪そうだし。
いや、そこまで辿り着けるのかも怪しい。
何と言っても三魔像のお膝元だ。
どれだけ強化された魔物が出るやら分かったものじゃない。
一ステージクリアしたらルーレットで体力アップさせてもらえるかもしれないが、もっと安全に修行すればいいじゃない。
セーブ&ロードの無い時代での、ルーレットで最小値出した時の怒り悲しみと来たら……
いかんいかん、非現実世界への思いが入り混じってしまっていた。
とにかく危ないのだ。
と思っていたらーー
「いいんじゃないかい。アイツらも遊び相手が来てくれるのは嬉しかろうさ。なに、心配するこたあない。ちゃんと言い聞かせとくから。普通の魔物退治だと思って、ちょっと気合い入れて行ってくりゃ大丈夫さ」
相手は元気の有り余る犬か何かだろうか。
可愛いペットと触れ合うつもりで扉を開けたら、獰猛な肉食獣の檻の中でしたーー
なんてシャレにならんが。魔女神様の言葉は続く。
「そこの三人は別々でもいいと思うが、そっちの三人はどうするね?」
別々でもいい、と指されたのは私、リーレイ、後輩だ。
どうするかと問われたのはミコルルたちだが……
それなら私たち三人それぞれに、ミコルルとお供ズを一人ずつ付けるのがいいのかな?
「私はマムマム、ウルウルと共に三人で行きたいと思います」
「異議なし」
「キャミィごめん」
しかしミコルルは私たちとは行動を別にしたいと言い、お供ズも同意見だという態度を示した。
何で?
まさか私、実は嫌われてたとか……
「キャミィと一緒だと、きっと知らず庇ってもらっちゃう」
「甘えちゃう」
「そういうことです、ミサ。あなたと共に冒険するのも心躍ることですが、そうすると私はきっと、いざと言う時にあなたを頼ってしまうでしょう」
もう保護されるべき子ども時代は過ぎた。
自立した大人として、困難を乗り越える力と精神を維持し、育て続けなければならないーー
真面目だ。
ミコルルは変わらない。
分かった、その意思を尊重しよう。
「いいさね。じゃあ間借りする立場として、そこの三人には賃料でも払っとこうかね……いや、払わせとこうかね」
三つの扉から何かが出てきて、ミコルルたちの体に吸い込まれた。
「きゃ!」
「ひゃ!」
「みゃ!」
彼女たちは鳥肌を立てて自分の体をまさぐる。
「な、何か寒気がしたのですが」
「大丈夫。思い切り良くやれるようおまじないをしただけさ。臆せず進めばきっとアンタたちは成長できる」
その言葉はまさに神のお告げか。
ミコルルたちが目に力強い光を宿していく。
何だろう。
防御系の魔法だろうか。
と、考えている間にミコルルたちが扉の一つに吸い込まれた。
えっ!?
ちょっと、私が一番強そうなボスの扉を選ぼうと思ってたのに……
「ああ、せっかちだねえ。もう待てないってさ。じゃあアンタらも行っといで」
う、うわああぁ!
わ、私の体も引っ張られていく〜!




