第五話 こんな所でも祈れる世の中になったようじゃ
宙に浮く美人魔女に拍手拝礼し、掌を向ける。
「メイドボール!」
「ダサっ!」
ズシン、と音がしてエネルギー弾が魔女に直撃した。
「抜け駆けっす!」
「ミサずるいじゃない!」
後輩とリーレイもすぐさま魔女に魔法を撃つ。
「ク、クワ……?」
何よレベッカ、さては分かってないな?
高威力の魔法による衝撃波と煙が徐々に消えていく。
「なかなか分かっているじゃないのさ」
無傷の魔女が笑顔でこちらを見ている。
いや、見ていらっしゃる。
「クソあっついコイツら引き連れて避暑に来たら、思いがけずに祈りまで貰えちまったねえ。いい祈りだったよ」
「大地闘神、ですよね? 何でそんな人間みたいなんですか? 普通にお話もできちゃうし」
初対面の人、って言うか神様なのにリーレイのこのフランクさよ。
彼女にとっては精一杯畏まってるんだろうけど。
魔女神様がこの無礼さを気にされない方のようで良かった。
「大地闘神ってのはアンタらが言うわたしたちの呼び名だろ? 名前なんざ無いから何だっていいけどさ」
時々体からボッと火を噴くので、その度に熱い熱いと言って魔女神様は手で扇ぐ。
そうすると瘴気が三つの扉に押し込まれていき、魔女神様の火は少し小さくなった。
「わたしたちは一つの親から分かたれた、元は種さ。育ちの環境のせいか、今じゃ姿形も性格もバラバラでそれぞれ自由にやってるけどね」
そう、種だ。
確か前時代で勇者っぽい子たちが種を蒔くような使命を授かっていた。
ピー助の卵みたいな種で、現代に戻ってきて闘神像を見た時、よく育ったなぁ、と不敬にも思ったものだ。
ところで自由にされている? のだろうか、あの状態で。
「アンタたちの目に見えないだけでね。この世は楽しいことでいっぱいさ。わたしがコイツらと遊んでるのも、まあ今となっちゃ楽しみの一つさね」
――魔女神様曰く、自身は三魔像の中心に当たる位置に安置された種であった。
その中心地は瘴気が最も薄く、そのため元々多くの人が住み、祈りも十分に捧げられた。
三魔像全ての瘴気が重なり合い、余裕を持ってそれを打ち消していたからか、ある日理解したことがある。
三魔像が出す瘴気とは何なのか。
何故生物を滅ぼす魔物を生み出すのか――
「うわ! すごく気になる!」
「なになに、何でなんっすか!?」
好奇心の塊リーレイと後輩は、せわしなく足踏みして先を促している。
魔女神様はニヤリと笑った。
「一つ言えるのは、この世に無駄なモノはそうそう無いってこったね。気になるなら行っといで。答えがきっと分かるからさ。……あ、でもこの地に留まるのに、地元の子にちょいと挨拶しときたいねえ。何だか懐かしい気配も感じることだし」
私たちは魔女神様からお使いを仰せつかった。
この土地を避暑地として暫し留まる間、滞在許可を得るのに相応しい人物を連れて来るのだ。
▶︎王国に戻る
そんな便利なコマンドは無いので来た道を戻る。
足場ステージを抜けた先の門をくぐった。
門の上で待機している虎バッタ魔物が即襲いかかって来るのはお約束だ。
びびる後輩とリーレイをよそに、一瞬で返り討ちに処し、すんなりと町へ出た。
こんにちは雪ん子シラヌイさん。
ただ今帰りました。
あの先ではこんなことがありまして――
「だ、大地闘神とお話が……!」
シラヌイさんは興味津々だ。
しかし領地の滞在権はお持ちでないようなので、私が元々考えていた人物を連れて行こうと思う。
「じゃあ相応しい人物を連れて来たら自分に声をかけてほしい。いいね、是非にだぞ!」
どうやらシラヌイさんもついて来るつもりらしい。
スルーしたらバトルイベント勃発だろうか。
いやまあそんな信心を踏み躙るようなことしないけど。
「で、私というわけですか」
仕方ないですね、と言いながらもミコルルは笑顔で出発準備をしてくれている。
「私も」
「もちろん私も」
マムマムとウルウルも、後輩ときゃっきゃしながら支度している。
おいおい、遠足じゃないんだぞ。
「いいじゃんいいじゃん。賑やかで」
「さっすがリレイっち」
「さすが」
「さすが」
何がさすがだよ。
適当なノリで言うんじゃないよ。
――ほらリーレイがすぐノセられるんだから。
「さて、神様へのお供え物は……暑がっていらっしゃるならアレにしましょう」
鼻歌を歌って用意をしていたミコルルが向かったのは地下。
「なるほどね。でもいいの?」
氷のショーケースに納められた羽衣を取り出し、丁寧に畳みミコルルは頷いた。
「先祖代々の乙女の目を楽しませてきた衣装ですが、神様のお役に立てるならこれ以上の使い道は無いでしょう」
「ミコルっちに着てほしかったっす〜」
後輩のおねだりに靡くことなし。
ミコルルは真面目なのだ。
そして彼女は隣町の代表にも許可を取り、私たちについて門まで来た。
「おお、来たな。では行こう。――すまんが暫く頼むぞ! すぐ戻るゆえな!」
門の前に到着するなりシラヌイさんは小屋から飛び出し、小屋の中の人に一声かけて私たちと合流した。
門をくぐると変わる世界に、ミコルルたちは中々良い反応を見せてくれる。
「迷宮?」
それはどうだろう?
取り込まれてる感じじゃないし、出る時も普通に出られたから違うような?
「どうなのだろうな。迷宮と言うのは、入ると世界から切り離されたような不安を覚えるものだがここは違う。全く異なる場所に思えるが、元の場所との繋がりを濃く感じられるのだ。どういう仕組みか全く分からないが」
シラヌイさんも分からないと。
じゃあどうでもいいや。
それより、アレよアレ。
「何あれ。気持ちわる」
「門を守ってる?」
「結構強そうですね」
虎とバッタの合成魔物と初対面な子たちの感想。
そう言っても大してプレッシャーを感じていないっぽい。
やる気満々なようなので、お手並み拝見といこう。
久々に見るミコルル、マムマム、ウルウルの連携。
エディケイン学院入学直後以来じゃないか。
マムマムが空中から魔物に接近。
魔物は迎え撃たんと前方へと飛び上がった。
バカめ、それは罠だ。
元から誘い出すための接近だから回避も早い。
急旋回で避けるマムマム。
そして空振りの迎撃により曝け出した魔物の腹を、素早く下に移動したウルウルが爪で裂く。
魔物の意識が下に向いた。
その隙を逃さずマムマムが上からスタンプキック。
仰け反って落下する魔物を、地面で待ち受けていたミコルルの氷の尖柱が貫いた。
ヒュウ、やるぅ。
難なくドロップ鍵ゲット。
「おお、やるな。若いのを代表して学院とやらに行っただけはある」
「へえ、ミサとキャミィの友達、結構強いじゃん」
うんうん、きちんと修行を続けてたのかな。
「学生時代ほど時間は確保できませんが、コツコツとは。こうして訓練の成果をミサに見せられて嬉しいです。……ジャンネとアラシュに言ったら悔しがりそうですね」
クスクスと笑うミコルルとコツンと拳をぶつけ合う。
後輩はマムマム、ウルウルとハイタッチだ。
次の足場ステージに進んだ。
マムマムは勿論楽勝だろう。
しかしウルウルとミコルルは脚が震えていた。
高所恐怖症だったっけ?
「いえ、底の見えないここまでの高さはちょっと……」
「踏み外すと奈落に真っ逆さまだと思うと脚がすくむ」
渡るための身体能力に不足は無いはずなのに。
しょうがないから背負ってあげようかと提案したら、それは恥ずかしいと。
もう、わがまま。
手を繋いで、せえの、で一つずつ丁寧にジャンプ。
「あ」
とか言って踏み外すフリしちゃったり。
「バカバカ! 怒りますよホントに!」
ポカポカ叩かれてしまった。
リーレイがプププってやってる。
さ、ふざけてないで進もっと。
お待たせ致しました魔女神様。
戻ってまいりました。




