第四話 アーロンに聞く?
若さを見られ侮られることはあるだろう。
リーレイが居ても私と後輩に向けられる視線までは和らぐまい。
そう思っていたのだが。
「おお、あなた方があのカプルコン寺院から来られた!」
こちらの寺院関係者は、随分と私たちを持ち上げてくれる。
理由は幾つかあるようだ。
かのスライメン先輩が高く評価をしてくれていること、多人数の閉じ込められた迷宮を早期に解決したこと、何よりその祈りは辺境にあって長きに渡り途切れることなく、遠方まで及んでいること。
嬉しいじゃないか。
ゴブシム和尚はじめ、カプルコン寺院のみんなの活動が高く評価されているのだから。
下にも置かぬ扱いのまま、先方のお偉いさんの話もスムーズに進んだ。
要件を聞いた後、私はもっとみんなの高評価にまつわる話を聞きたかったのだが――
「よっし! じゃあアタシたちがササッと問題を解決しちゃお〜!」
誉められて張り切ったリーレイに引き摺られるように、私たちはこの地に現れた謎の門の所に向かわされたのだった。
門は町の端っこにあった。
異様に輝く黄金の枠の中に、見ているだけで押し潰されそうな真っ暗な空間が収まっている。
高さ二メートル、幅一メートルぐらいの小さな門なのに威圧感が凄い。
それよりも同伴したのがブランクではなくリーレイだったことに安堵である。
ブランクだったら幅が狭過ぎて入れなかったかもしれない。
体を門につかえさせるブランクを想像していると、門の近くに建っている小屋の扉が開いた。
中からは武装した雪男が現れ、続いてこの場にそぐわぬ雪ん子が……?
「君たちが、かの寺院から来てくれた助っ人だね?」
白髪のおかっぱ頭で顔も声も中性的だから、男か女か判断しづらい雪ん子。
しかしこの気配、かなりの強者だ。
「アトラサム寺院を預かるシラヌイだ。うむ、三人ともよく練り上げられた闘気を纏っている」
「はじめまして。カプルコン寺院から参りました」
喋り方と声が合ってないのがムズムズするが、違和感を飲み込み差し出された手を握り返し挨拶をした。
「この門の中は?」
そう尋ねるとシラヌイさんは、ぬうと門の中に頭を突っ込んだ。
やめてほしい。
頭部が暗黒空間にマミられたみたいでビビるじゃないか。
私たちに手招きをしているから生きているとは分かるが。
「キャミィ先いいよ」
「いえいえ大人のリレイっちが先に」
譲り合いが全く美しく見えない二人の手を引き、三人で暗黒に頭を突っ込む。
「ひぎゃあ! ……あれ?」
「ふぎゃあ! ……あれ?」
危ない、二人に釣られて悲鳴を上げるところだった。
暗黒空間かと思った門の中は薄明るい。
後輩とリーレイも不思議そうにキョロキョロしている。
全体的に茶色っぽく、タケノコとかツララみたいに尖った岩肌が目立つ。
外と異なり涼しく、しっとりする程度の湿度を感じる。
「鍾乳洞っすかね?」
確かにずっと昔に行った鍾乳洞は、温度も見た目もこんな感じだった気がする。
ところで気になるのは一つの気配。
「素晴らしい感知力だ。そう、この先にいるのは一体の魔物。そいつを倒してみてくれないか」
どうやら小手調べでもされるようだ。
シラヌイさんに続いて進むと先の方に再び門が現れ、その上に一体の魔物が。
虎とバッタを合成させたみたいな造形で、置き物のように座っている。
「気をつけて。しっかり連携を取った方がいい」
シラヌイさんからアドバイスをもらったが、不要だろう。
「きみ、それ以上近づくと……」
ガオン、とどこから立てたかエンジン音っぽい駆動音をさせて魔物が飛びかかって来た。
予想どおり、一定範囲内に近づくと襲ってくるタイプ。
喉元目掛けて食いついてくる魔物の牙を右腕で受け止め、衝撃を利用して体を右回転。
左のショートアッパーで魔物を浮かせた。
更に踏み込みながら右、左の連続ショートアッパーで空中コンボ継続。
前転踵落としで魔物を地面に叩きつけフィニッシュ。
どう? ねえ、どうよ。
最初のガードからの回転ショートアッパー、ガードキャンセルっぽくなかった?
いいねコメントを求めて後ろを振り返る。
「アタシならガードなしで蹴り返せるし」
ピキ
「ボクならそもそも接近される前に魔法で撃墜できるっすし」
ペキ
「――これは予想以上だ。カプルコン寺院恐るべしだな。一人でアレを瞬殺とは」
命拾いしたな、後輩とリーレイよ。
シラヌイさんの素直な感嘆が無かったら二人はミンチになってたぞ。
魔物ドロップは鍵だ。
……鍵?
「この門はそこの鍵が無いと入れんらしくてな。しかも門の中もまだ今のような空間が続いている。門の外を守らねばならない立場としては、あまり深入りできなかったのだよ」
よろしくたのむ、とシラヌイさんが頭を下げた。
分かりました、任せてください。
私たちが承ると、無理をしないように、と念を押しシラヌイさんは戻って行った。
さて、門を守る虎っぽい魔物に、ドロップが鍵ときた。
町の端に門があったことと言い、何となく次のステージの想像ができるんだが。
とりあえず鍵を持たずに門の中に踏み入れよう。
――黒い空間に弾かれた。
「何やってんすか。『はい』選ばないと進まないのに、一度は『いいえ』選ばなきゃ気が済まない人みたいなことして」
図星を突かれたことを悟られぬように表情を無にする。
そして鍵を持ち再突撃。
お、さっきよりも少し暖かく感じるな。
で、視界が開け――
はい来ました〜。
高所足場ステージ。
底の見えない下方から伸びたピストン型の足場が点在し、ゴツゴツした天井には蝙蝠っぽい魔物がぶら下がっている。
しゃがんだ状態でのジャンプ――即ちハイジャンプ――の操作方法を覚えないと絶対クリアできないステージだ。
これはアレだね〜。
髭もじゃの神に異世界転移させられた半ズボンの少年が、三体のゴルゴーンと魔王を倒すあのゲームだね〜。
粋なことに三体のゴルゴーンってトコが三魔像に被ってるじゃないか。
ちなみに半ズボンの少年が、ジャキンジャキンと剣や鎧を装着していくオープニングは、はっきり言ってとてもダサい。
そしてワゴンセール常連のこのゲームは評価も良くない……
が、私は好きだ!
剣一本で魔物と渡り合う主人公は、どことなく格ゲー魂を感じるじゃないか。
「レベッカ、ゴーっす」
「クワ!」
感慨に耽っていたら、後輩がレベッカを蝙蝠どもにけしかけていた。
初期ソードで倒せ、戦士の服を着ればダメージすら食らわない蝙蝠などレベッカの敵ではない。
蝙蝠は次々と撃墜され、金塊風のドロップ品に変わり地の底に落ちて行く。
「ああ、もったいない」
そう。
ちゃんと足場にドロップが乗るように倒すのがツウなんだよ。
レベッカが気の利かない倒し方をするので、リーレイは自ら魔物を倒しに行くことにしたようだ。
足場を移動しながら飛び蹴りで魔物を倒し、そのままドロップ品を回収する。
……ゲームのアクション性が台無しなんですけどぉ。
不満を抱えつつ進み、そしてまた次の門が現れた。
確か次は魔境へと続く三つの扉があるのだ。
草の生えた♀、6、4、のような記号が付された扉が。
うむ、この門は鍵が無くても入れるな。
しかしまた温度が上がったような?
門をくぐるとやはり三つの扉があった。
真ん中が最もイージーで、奥はステージもボスもハードなのだ。
せっかくだから奥の扉を選ぶぜ!
ってあれ? 入れない。
「この二つも入れないっすよ」
「二人とも、上!」
上から来るぞー! 気をつけろぉ!
空気が揺らぎ、温度が上がった。
「暑いねぇ……まったく熱いったらありゃしない」
宙に浮き、脚を組み頬杖を突いているのは女の……人?
けれどもこの気配って。
「わたしゃ、こいつらの熱さが嫌いなんだよ。ああ嫌だ」
体を燃え上がらせながら愚痴を零しているのは、スタイリッシュな魔女の姿をした、目の覚めるような美人だった。




