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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第三章 勇者死すべし! 編
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第十話 行ってきます

 疲れた疲れた


 そう言いながらも四人の表情は一様に達成感を醸し出している。

 魔遊帯に入り天涙の糸を取ってくるミッションは、カッツォたちの懸念よりずっと容易にクリアできた。

 疲れたと口々に言ってはいるが、村に来る時の命がけの突破での疲労とは比べものにならないぐらいだった。

 運動後の爽やかな疲労レベルだ。


 僅かにでも上がっている戦闘力と魔遊帯二回目であることにより得た要領。

 ルケアの新たな装備の性能。

 それにちょうど捌き易い程度に、襲ってくる魔物の強さがばらけていたことが戦闘を楽にしていた。



「でも、これが糸になるなんてねえ」


 ローラは手にした水筒を振ってみる。

 タプンタプン、と液体が揺れ踊る感触しか手に返ってこない。

 魔遊帯で手に入れたのは、天涙の糸の原料であった。

 魔遊帯にポツンと生えた孤独な木の(うろ)に溜まった水。

 魔力を含んだ樹液交じりの水が天涙の糸の原料らしい。


「糸属性って、何でも糸にできちゃうの?」

「……さすがにそんなわけないだすよ。確か専用器具にかけて煮たり混ぜたりしながら少しずつ糸に変えるんだす」

「そりゃそうだろカッツォ。お前、触れただけで糸にできるんだったら無敵じゃん? 月にぶっ飛ばされたウサギの人もびっくりだろ」

「直接タッチされなきゃ平気なら無敵まではいかないから、有りっちゃ有りかなって思ったんだけど」

「はいはい、そんな妄想は、僕が考えた最強の能力者、の中だけでやってちょうだい」


 優しそうなお爺さんが実は超強い達人だったなんて燃える展開じゃん――

 ローラから冷やかされ少しばかり鼻白んだカッツォだが、すぐさまゲーム脳を再起動させ新たな妄想に勤しんだ。



 一方ローラは弾む気持ちそのままに足取り軽い。


 合わないと予想していたルケアの古代ローマ下級兵装備に、意外にもテパ=ドンの衣はそこそこ合った。

 戦記物に出てくるような女戦士の勇ましさと、アニメの魔法少女とか少女戦士の可憐さを上手いこと掛け合わせたような出立ちになったのだ。

 これはやはり自分も是非、同じ衣を手に入れたい。


 そしてその願いも達成目前である。

 ローラの心は、偶々立ち寄った店で一目惚れした洋服を、首尾良く入手できた時みたいな高揚で占められていた。








 村の手前でルケアは革装備や聖帯を外した。

 テパ=ドンが作った衣は砂埃にまみれたと思えない程きれいだ。

 ルケアの両親に心配されることもないだろう。




 思ったとおり、帰ったルケアを見て彼女の両親は安心したように表情を緩ませた。


「うふふ。これでお嬢ちゃんの衣姿を拝めるだすね」

「お嬢ちゃんめんこいでよう似合おうて」

「やーん。お父様もお母様も冷やかしてぇ。照れますぅ」


 ローラと会話を弾ませて、ルケアの両親は快くカッツォたちを再度テパ=ドンの家に連れて行った。


 カッツォたちはローラの猫撫で声を気味悪がり、三人で離れた位置からついて行った。


「じゃまするで、テパ爺」

「天涙の糸、これで作れますか?」

「おお、ほんとに取って来ただか」


 天涙の糸(原料)の入手法を説明してから幾日もたっていないのに。

 テパ=ドンは品物を検めると、長い眉を摘み整えながら感嘆した。


「ふぉふぉ、確かに受け取ったで。後は採寸すて、ちょっこす直せばすぐ渡せるでの」

「やったぁ! ありがと、お爺様!」


 小躍りするローラに笑みを向け、テパ=ドンはあれこれと道具を用意し始めた。


 彼はくすんだ鉛のような鈍色の球体を台座に嵌め、上の開口部から天涙の糸の原料を流しこむ。

 次に球体を両手で挟んでじっと動かず。

 と思えば轆轤のように球体を回し、開口部から菜箸のような二本の棒を差し込み掻き混ぜる動作をした。



 ぼわんと仄かな光を発して作業するテパ=ドンにローラたちは見入っていたが、十分もたたぬ内にその儀式めいた作業は終了した。

 テパ=ドンが二本の棒を球体から抜き取ると、棒は綿飴のような柔らかく軽そうな糸に包まれていた。


「ひやぁ」


 ローラは変な声を上げ、うっとりと糸に顔を近づけた。


「もう既に綺麗だわぁ……これが衣になるのね」

「まだ糸が取れるでの、帰って待っとるとええ」


 完成は三日後、そこからローラは夢心地でテパ=ドンの衣作成を待った。

 魔遊帯に行くなどと言う話にもならず、ルケアの生家で農作業と牧畜の手伝いをする穏やかな時間を過ごした。




 約束の日、ローラは誰よりも早く起き、起きたばかりの鳥の世話を始めていた。


「わっはは! お嬢ちゃん、楽すみが過ぎて早起きすただか!」

「えへへ」


 鳥小屋で顔を合わせたルケアの父親に思い切り笑われても、ローラの機嫌は最高だった。


 一方のルケアの父親は、娘の友人が感情を素直に表現できる人物であることを好ましく思うようだ。


「んじゃま、早えとこ飯食ってテパ爺んとこ行かにゃならんのん」

「やったやった!」


 彼はまだ手伝うつもりのローラの背を押し、彼女に朝食をとりに行かせた。



 何かと口うるさい女友達が上機嫌で悪いことは無い。

 カッツォとサジは衣騒動が平穏に解決しそうで静かに喜んでいる。




 朝食を和やかに終えると、四人はテパ=ドンの家へ向かった。

 今回は四人だけだ。

 ルケアの両親に何度も仕事の手を止めさせるのは気が引けたし、テパ=ドンからも気軽に来れば良いと言われたからだ。


「おじゃましまーす」

「ようこそ。もうできとるでな」


 玄関から作業場に案内するテパ=ドンの後ろを、追い抜きたい気持ちを抑えローラがついて行く。




「さあ、どうじゃな?」

「わあ……!」


 作業場に入ったローラは感激のあまり言葉を失った。

 ずっと幼い頃のクリスマスの朝、ツリーの下にプレゼントがあるのを見つけた時以来の感動だ。

 片付けられていない織り機の周辺や、雑然とした針山やらの道具は気にならない。

 目に映るのは木の人型に着せ掛けられた衣だけである。


 テパ=ドンはローラの目の輝きを見て満足そうに顎髭を撫でた。


「ほれほれ、着て見せとくれ」

「はい!」


 作製者の要望に応えローラは衣を身に纏う。

 身を捻り、回転させ、嬉しさ八割、恥ずかしさ二割で衣をヒラヒラとはためかせた。


「ローラさん、素敵ですよ〜」

「ふぉふぉ、やはり衣は着飾るのを楽すんでくれる子に作るのが一番じゃのう」


 褒め、或いは喜んでくれる二人にローラは照れ笑いを返す。


「それはあなたの防御力を五十上昇させる」

「これは炎と吹雪のダメージを軽減させるようですな。……これを売るなんてとんでもない!」


 衣の美しさには目もくれず、ゲーム的な頭しか無い二人には冷たい視線を返した。



「そう言えばこの衣の名前は? テパお爺様」

「ん? 考えとらんのう。好きに付けとくれ」

「わーい!」


 ローラはルケアを誘って衣の名前を考え始めた。



「虹の衣ってのは?」

「う〜ん、色んな色には見えますけど、七色一辺には……それよりも水の羽ごろ……」

「ストーップ! それはもうあるからダメよ! 何かほら、法律に違反しちゃうかも」

「え、そうなんですか」

「でも羽衣ってのはいいわね。……じゃあ」

「あ、そうですね」


 ルケアは水筒を見るローラの視線から意図を汲んで頷いた。


「天涙の羽衣!」


 二人は声を合わせて高らかに言い、笑顔でハイタッチした。








 目的を達したらまた旅に出なくてはならない。

 ローラたちはルケアと彼女の家族のことを気にかけた。


 だが村の入口まで一緒に来た家族に、ルケアは二言三言交わしただけですぐに、離れて待っているローラたちの所へ来た。


「良かったの?」

「何がですか?」

「……ううん。これからもよろしくね」

「どうしたんですか? 改まって。何だか恥ずかしくて変な感じです」


 あっさりしたルケアの態度が痩せ我慢なのか、この世界では当たり前なのか。

 はっきり分からないことだったが、ローラたちは掘り下げずに次の目的地のことを考えることにした。

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