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4「それさえひとしずく」

 今章はいろいろ用語が多くて理解できない部分も多いだろうと思いますので、いちばん最後に用語集&所感を付けておきますね。


 どうぞ。

 魔王国メレニゲス領、牧竜都市ギエラ防壁拠点の魔力観測所にて――魔力式望遠筒が異常を吐き出した。


「おいおい、ひと月前に替えたばっかりじゃないか……」


 門番たちのような近い距離しか見えぬものではなく、たいへんな距離――二から三ルケリクス程度の距離ならばレンズのみで等級の割り出しまでも行える、値が張る以外の欠点も見当たらぬ優れものである。


「なになに……なにッ」



【警告:超強度死力反応有リ

魔力密度測定結果:紫等級

竜災警報発令ヲ推奨ス】



 有り得べからざるものが、ギエラから二.六ルケリクスの地点にいた。


「ザキラ長官、これを!!」

「なんだ? ――なにっ、紫等級!?」


 魔力密度による等級測定は赤橙黄緑青藍紫の順に強くなっていく、ということは広く知られた一般常識だが、青等級以上のモンスターが人里に現れることは少ない。人の住む近くには小型モンスターが居着きにくく、したがってそれらを捕食する大型モンスターもよりエサの多い地域を目指して移動するからである。享華直後の腹を空かせて理性を失ったものであればいざ知れず、それでも藍色等級以上はそう簡単に現れない――それよりはるかに低い等級のものでも、空腹の中で何ルケリクスも移動するほど愚かなものはない。


 要するに、ありえないことが起きているのだ。


「二年前の、山賊が壊滅した件を覚えているか?」

「あれは賊が罪状をごまかすために行った細工だという結論が出たはずですが……」


「……そうでなかった、とすれば」

「本当に……?」


 観測技官が、望遠筒をのぞき込む――


「ぃいいっ!? 目が、目がぁあああ!?!」


 レンズが砕け、技官の目にどす黒い紫の針が刺さっていた。


「逃げ、……?」


 長官は、ふいに自分の体が倒れ込んだことに気が付いた。


「いったい……?」


 そして、どさりと何者かの下半身が彼に向かって倒れてくる。


「おい、何が起きてる!」


 手を伸ばそうとしたそのとき、肘が地面に触れる。そして、長官は自分の体に起きていることに気付いた。


「うわああああああッ!!」


 血と肉と臓物と骨と髪と漿液が、空間の密度を上げた。そしてそれらはふうわりと足元を覆い隠し、吐き気をもよおす色彩を命の限り塗りたくったような地獄絵図を描き出す。もはや警報を出せるものなど、だれひとり、なにひとつなかった。


 そうして一夜がはじまった。






 夕暮れが、山肌に沈んだ。たらりとにじむ血のように空の赤みが消えず、断末魔が地獄へ引きずり込む手に圧されて失せるがごとく、ようやく踏み潰された果実のような紫が藍色へと変わらんとしたそのとき、魔力圧が街を突き抜けた。嘔吐するもの、意識を失うもの、喀血するもの、反応はさまざまだったが、快を示すものはない。


「なんだよ……なんだよ!?」


 ざらざらとおぞましいさざ波のような音が流れ、ねっとりと黒い血液を塗りこめたがごとき紫の刃が檻のように街を取り囲んだ。みしり、みしりとそれらは組み合わさり、ひと一人逃さぬ密度の殺意をそのままに表す。


「逃げっ」


 射かけられた矢のごとく、あるいは絶対の重圧を持つ万力のごとく、互い違いの速度で刃が解き放たれた。瞬時に通り抜けて建物を爆発的に損壊するもの、逃げ惑う人々をからかうように地面を割り砕いてゆくもの。過大な魔力量から生み出された液能「滅刃気」は、けして赦すことなく、余さず人を殺し尽くさんと迫る。


 血が噴き上がり肉が飛び散り、臓物がぶち撒かれ骨が転がり、指が、眼球が、髪ひと房が、血濡れた靴が、中身のある兜が、べちゃりくちゃりさらりごろりがらんと地面に投げ出された。弄ばれる人体が同じ形をしていないおもちゃであっても悪趣味だと感じるであろう虐殺は、街ひとつを酸鼻極まる地獄へと塗り替えてゆく。




 それは、同じ場所で同じように死したものたちが凝り凝って形を成した怨念塊「斗怨邑火(とむらい)」の性質であった。偶然近くを通りがかったものに憑依し、そのものの性質を用いて恨みの対象へと害をなすそれは、最良の手駒を引き当てた――尋常ならぬ強靭な五体、そして短時間での大量殺戮を可能とする「刃気」という異常能力を兼ね備えた剣竜。この豪運というほかにないまぐれ当たりは、天変地異にも等しい災厄を引き起こした。


 竜の術理に含まれぬ刃気は消費が大きい。しかし、そもそもが死力と魔力の塊であるトムライは怨念(じぶん)を消費し尽くすまで止まらない。無限の力を得たに等しい刃気は消費を度外視して放たれ、そうして街を破壊し尽くしていく。そして、その矛先はかれが暴れだした原因であるかの救難信号にも向けられることと相成った。




 鋭い目をした壮年の男が、食器を巧みに操って食事をしている。落ち着いた店の内装には似つかわしくない目であるが、かといって下品さや野卑な印象があるわけではない……食事という行為に違和感を与えているのは、その男の纏うどこか道具めいた印象のせいだった。ベッドがくつろぎ、椅子が風を楽しみ、コップが小躍りするかのような、どうしても日常という言葉と相容れぬズレを引きずっている、そんな男である。


 傍らに寄り添う料理人の顔色もどこか優れず、ここはほんとうに人の世なのかと疑いを持つものが出るかどうかという折に、ふいに料理人は言った。


「お客様は、以前は魔将軍であったとか」

「ああ。しかし賭けに負けて力を差し出してしまってな……きゃつは「ベルネグリア」をうまく使っているのかどうか。剣を抜く機会がないのであれば、それもまた良いことだとは思うが」


 ある島で生まれ、しかし土地を滅ぼして大陸へ飛んだ彼は化身として生きていた。そこでかの従魔将軍タルク・ザーンに誘われ、いっとき魔王国に「双魔将軍」として仕えていたこともある。三度目に王国に攻め入ったとき……オルミドス領が港を獲得しようとした際に、ある若造が勝負を持ちかけてきた。



――対等な勝負に興味はないか? いい加減に飽きただろう、眠るにも足りないくらいにわずかに疲れて、使う魔力もわずかの、手を振り回すだけの遊びなんて。



 あまりにも傲岸不遜な物言いに、ローゲルは興味を持った。



――遊びでばらばら殺されちゃたまらないが、そちらがその気ならこっちも遊ばせてもらう。どうだい、遊んでみる気はないか?


――見え透いたくだらん挑発だ。……あえて乗ろう、貴様らの遊びとやらに国の行方を委ねるのもまた一興ではあろうよ。



 定石も知らぬ盤上遊戯で、ローゲルは負けた。聞けばあちらもこういった遊戯はやったためしがなく、ルールを覚える時間は同じであったらしい。彼は確かな負けを認め、賭けの通りに自らの半身であり戦力である剣を若造に渡した。港を獲得できなかったオルミドス領は丸損に終わるかと思われたが、領王の息女たちが新たな食糧を開発し、他領との取引が活発化したことで争いとはまた違った成果を得た。


「きみは逃げんのかね、ギフス」

「……お客様がお食事中でございますので」


 音からして、二階は消し飛んでいる。ここから逃げないこと自体が気がふれているとしか思えぬ異常事態なのだが、その理由もどこか言い訳めいていた。


「どうした。死に未練がなくなるようなことでもあったのかね」

「夜光病、と言えば分かっていただけますか」


 ローゲルは、顔を上げた。


「……聞いたことはあったがね。かの「剣魔将軍」が滅ぼしたそうだが?」

「あの事件の少し前に街を出てしまったのです。持っている(・・・・・)、とは思いもよらず――もしやと思ったときには、すでに遅かった」


 亡国の王子たる「剣魔将軍」がはじめてその存在を世に知らしめた「翠晶血界事件」。ある邪悪な龍晶が石晶子を人に植え付けて育てることを企み、イオローペ領の半分が壊滅的な打撃を受けたという――そして、その被害者たちはすべてが「剣魔将軍」に爆殺され、原型を留めぬ死骸を全身に浴びた彼を見たものが「血界の王子」という異名を付けたと伝わっている。魔王候補が頭角を現した最初の物語として、魔王領で知らぬものはない有名な実話であった。


「私もな、化身とは思えんほどに年を取っているだろう。タルクの言うには、依り代から離れ過ぎたのだと……しかしな。こうなってみて、原因も分からんというのに、終わりを迎えることが恐ろしくもない」

「なぜなのです? 魔将軍にまで上り詰めたお方が……」


 何もないからな、と男は笑う。


「依り代と密接に結びつき、それなくしては存在できんものが遠くへと来すぎたのだ。私を支え、私が守っていた何かがあるのかもしれん……死ぬときになって暇乞いの懺悔など、醜くてな。とてもできやせんよ」

「命がどうこうおっしゃっていたころとは、ずいぶんと変わられましたね」


 そして、ローゲルは遠く、遠く――街からまだ1ルケリクス以上も離れた敵を見た。


「ずうっとな……思っていたよ。戦が少なくなってから、めっきり蜥蜴はまずくなった」


 野営地で食った肉が美味かった、という思い出を語るでなく、化身として彼は言う。


「食うことも、食われることも、命の流れのひとつであろうよ。人が死ぬことを嘆きはすれども、恨みはせん。それも流れだ。殺し、喰らうこと……そこに思いを委ねても、貴様すら流れに過ぎん。存分に、虚しさを食らうがよかろう」


 建物が崩れてゆく。


「気付いているか、トムライよ……利用しているつもりであろうが、」


 続きを口にする前に、彼らはがれきに圧し潰された。

「スペースジョーズ ザキラ」

『ウルトラマン80』二十八話「渡り鳥怪獣の子守歌」に登場した肉食……というか、大怪獣のくくりに入れたほうがいいような気がするほど危険な「怪獣を食う怪獣」。ギエラ防壁拠点長官の名前の元ネタ。「食う側」の名前としてかなりヤバそう、かつ名前かぶりがいくつかあってカモフラージュがしやすそうなものを選んだ。グリーザ、マガタノオロチ、ルーゴサイト、ウーラー(2010年代以降ウルトラの食う系ラスボスたち)、どれも分解・改変しにくいのが痛い……。


 地球へ怪獣の肉片が落下するという怪事件を追うUGMの調査により、宇宙空間で「渡り鳥怪獣 バル」を大量に捕食しているコイツの存在が判明。偵察隊の目の前で瞬く間に八匹ものバルを食い殺し、そのエネルギーを恐ろしいほど(台風の五倍から十倍とのこと)に高めていく。地球に落下した卵から孵化したバルの子供は矢的猛=ウルトラマン80によくなついていたものの、ついに地球へ飛来したザキラは80を圧倒、なんとノックアウトして気絶させてしまう。これをかばうためバルは果敢にもザキラに立ち向かうが、さんざんに攻撃されたすえ首根っこを噛まれて死亡。怒りに燃える80によって猛攻撃からの必殺コンボを受け爆散した。


 強さ的にはピンキリである80登場怪獣の中でもすさまじい強豪かつ最強候補で、ギマイラ・オコリンボール・ガモスとともに「80四大鬼畜怪獣」として数えられている。




 書き溜めがなくなっちゃいました。ストレスが自傷がって言ってられないので、急いで書かなくては。しかしこれ三つくらい並行でやりつつこのペースはキツいなぁ……。やりたいことに向けての軌道修正はそれなりにできていると思うので、一話完結スタイルでどう畳むか、これだけですね。

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