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序2「ある転生者のはなし」

 そういえば鎧武が配信してますね。インベスが一般怪人にしてはやたら強かったイメージがある……セイリュウインベスとかクソ固かったし、ほとんどのやつが強化フォームのきっかけになっていたように思うんですよね。ジンバーレモン前のライオンインベスとかアホほど強かったし、戦隊コラボで巨大化するしやりたい放題してたような。ちなみにカミキリインベスが一番好き、異論は認めない。


 連日投稿できるうちに、どうぞ。

 至極ぼんやりとした感覚の幼少期を経て、四歳ごろ――エリザ・フラウネはそのぼんやりした感覚を失ってはじめて、「自分」を思い出した。



 ――私って、高校生やってたよね……?



 油なんてひとかけらも入れていない粥からバターのような香りがした。人よりもはるかに大きなトカゲや、牙が悪魔のようにねじれて前を向いたイノシシ、樹木めいた複雑な角からつねに放電する鹿がおもな肉類だった。肌着はスポーツ用のそれらしい見た目で「ペレイクト」などと呼ばれており、防虫やらさまざまの害を防ぐものであった。


 米を炊いた香りやパンを焼く香りもなければ、放牧されている牛や豚、鶏もいない――卵というものを食べる習慣がないことにいちばん驚いた。鳥はそれなりに強いため、卵を取りに行くのは命がけなのだそうだ。パステルカラーで、胸を下から支える形をしていて、レースの飾りがついたブラなんてどこにもなかった。


 野菜の味やクセの強さはものすごくて、どうしても二度と口に入れたくないものもあった。かと思えば村の名産である「ラエネ」という果物は、桜色の西洋ナシのような見た目と食感で、味はほどよい酸味のあるモモのようだった。苦い豆腐とアボカドとパイナップルを合わせたような味の「ザス」は、味の微妙な混ざり具合が絶妙にマズい――精がつくと言われても、薬用以外で食べるのはごめんだ。


 いちばん驚いたのは、言語のことだった。生まれ変わる前とはまったく違う単語が聞こえていて、自分の口からも聞いた覚えのない単語が飛び出ている。しかし意味は理解できていて、言葉選びに戸惑ったりスラングの意味が分からないということもなかった。それが自然であると言わんばかりに、彼女はネイティブスピーカーとしてその世界にいた。



 ――死後の世界なのかな。



 では、なかった。


 村民――「アーラック村」の人々は精一杯に生きていたし、そうでない人もいた。鍛冶屋を名乗っているのに賭け事以外に楽しみがないオヤジ。料理はうまいのに戦いが大好きで、けっきょくトカゲが「キョウカ」して強くなったとかいう「コーリンミズチ」とかいうモンスターに殺されたおばさん。


 ヘクスという少年は、肉よりも解体する前の獲物に興味がある変わった子だった。エリザが思わず吐いてしまった解体の光景も、彼はじっと見てどこがどうなっているのかを確かめているくらいである。あまりに変わっているその子に話しかけてから、関係が始まったのだったか――。


 十にもなれば家事の手伝いを始めて、繕い物や炊事に洗濯、一通りのことは仕込まれた。いざというとき戦えるようにと戦技を習ったが、刃物の類はまるでダメ、棒術がなんとかさまになったかと思うとヘクスに負けた。ひとつ年下だと聞いて、戦いの才はないのだと気付いた。少しはふてくされたが、いずれ王国で研修兵役に就くための腕前だ、と言われると「志が違うからかな」とあきらめもついた。



 ――私の記憶って、何の意味があるのかなぁ。



 友達の顔を思い出すことも、元の世界を懐かしく思うこともあった。しかし、日常に追われたりこちらでの思い出が積み重なっていくほどに、それはどうでもよくなっていった。生まれ変わりというのはこういうものなのだろう、と受け入れることができた辺りで、幼馴染みのヘクスが研修兵役に出た。


 行ってほしくない――という気持ちが、なぜだか湧き出てきた。


 その前日の夕方は、軒先に積んだ石に並んで座って語らった。アルナテラ王国の兵士はさまざまな知識や技術を仕込まれ、戦にも出る。危険なモンスターと戦うこともあり、危険性も高い。魔王軍の繰り出すモンスターは強力で、吹き散らすように殺されていく兵士も少ないはないそうだ――と、いつもと違ってヘクスはひどく饒舌だった。


 どうしてなのかを理解するのは、そう難しいことではない。彼女もそう(・・)だった思いが、より強くなったからだ。口づけをして、約束をした。絶対に帰ってきてね、という約束はきちんと果たされた。



 ――こんなにしっかりしてる人なんて、見たことなかった。



 狂おしいほどに待ち続けて、帰ってきたそのときは感極まって飛びついてしまった。もとの世界なら高校生になるかどうかという年齢の少年が、兵役を終えて帰ってきた――かねてより村の皆が知るところであった二人の関係は、一気に進んだ。




 彼女は、この世界について詳しくはない。宇宙における位置や信仰の違い、そんなものを気にするような余裕もなかったからである。辛うじていくつか分かったのは、魔力というものがあるだとか、超常の存在がいくつも知られていることだった。


 結婚式に現れた「婚霊」もそうだ。真に愛し合う夫婦の結婚式に現れ、女の頭を撫でて去っていくというなにものか。色という色の中でももっとも美しいとされる「婚霊紫」のドレスを身につけ、ほんの一瞬だけ現れて消える――そのうえ、ほとんどの夫婦がこの祝福を受けることができないため、一生に一度見ることができない者も多いというもの。


 魔王というものがどういうものかは気になったが、ここが魔王領にも進んだ王国の開拓地で、開拓すること自体は歓迎している魔王領からは放置されている状態――などという政治的な事情しか分からなかった。聞くところによると「最強を示したモンスター」であるらしいが、それだと王様として領地をまとめられない人もいるんじゃないかな、とエリザは思った。


 だが――興味から聞いた情報も、今となってはどうでもよかった。毛布で胸を隠しながら、ゆっくりと起き上がる。夫は、いつか見たのと同じ顔で寝息を立てていた。


(……大好き)


 じんわりとしたしびれが、ほんの少しだけ残っていた。ヘクスの汗の匂いと絡み合ったキスを思い出して、子供のようなヘクスの寝顔をつんつんと突っつく。


「ヘクス、私ね。あなたと幸せに生きられたら、なんでもいいの」


 まだ空も藍色、黎明のことである。早起きしすぎてしまったらしい。あれこれと考えるのをやめたエリザは、裸の胸にヘクスの肩をぎゅっとくっつけて、二度寝することにした。唯一の気がかりが、二人の幸せのうちに終わっていたことも知らずに。



 ◇



「ちぇっ、あのババアこんなに張り飛ばしやがって……」


 ボウム少年――転生者である彼は、実の母親でもない女性にひどい悪態をついた。月も高い夜に家から叩き出されて、行く当てがあるでもなく森の中を彷徨っている。


「ち、あっちの世界だったら児童虐待だぜクソババア。オレは優しいから許してやんよ、村でこれ以上騒ぎは起こせねーや」


 にしてもよう、と少年は木の根っこを蹴飛ばす。


「オレの言葉が分かったあいつ……エリザとかいうねーちゃん、どうにかして手に入れたかったんだけどなァ。同じ国のヤツ同士がくっつくのがフツーだろうよ」


 もとの世界とは違う場所にいると分かって、ボウムはいろいろなところで自分が昔使っていた言語である「日本語」を使ってみた。


 なにをわけわからねぇこと言ってやがる、手伝いが先だろがと拳骨を食らうのが当たり前だったのだが、意味を理解して同じ言語で話をし「どこから来たの?」とまで聞いたのはあの女だけだった。だが、肝心のところで困ったことが起きた――


 ――彼の記憶は、なかった。


「だーよ、なぁ……」


 輪廻というシステムにおいて、魂はある程度の摩耗を許容して扱われる。記憶のリセットのためには合理的な仕組みであり、意思の介在しないシステムに文句をつけても始まらない。たまたま摩耗が少なかった魂は記憶を残すことになる。


 そして、一番の問題――もとあった魂が、輪廻によって移動した世界の標準的な規格と合致しなかった場合、それは重篤な異常となって表れる。過剰なエネルギーはなんとか消費されようと動き出し、それを消費するための仕組みを作り出す。転生者にありがちな異常能力の正体は、このような過剰エネルギーなのである。


 それを考慮したうえでエリザとボウムという二人について考えると、これらはじつに簡単に納得のいく説明ができることになる――つまり、二人は正常に転生しただけのこと。ボウムはいずれこの記憶を失い、無辜の民に紛れて暮らすようになることだろう。


 エリザはというと例外中の例外で、もともと別世界にあるべき魂を持っていた、という逆の異常事態だ。だからこそ異常能力などなく、記憶が残ってはいてもそれが人生に影響することはあまりない。非常に稀有な事態ではあるが、だから何が起こるというものでもなかった。


「細工までしてやったってのにさー……クソが。あのクソ女、かわしてんじゃねーよ」


 彼女と結ばれるには年齢が違いすぎる。そして、幼馴染みもすでにいた。


「何この……「ナヤの外」ってんだっけ? カヤだっけ? オレの手に入らないもんなんてなかったんだよ、教師もオレに媚び媚びだったんだからな……! 女一人が……年上のババアごときがオレを無視してよぉ!」


 記憶がほとんどないのに、都合よく残っている部分だけはあった。教師が自分に優しく話しかけているところ、そしてなんでも買ってもらえたこと――おそらくかなり幼い時代のものなのだが、時系列はきれいに無視されている。それしかないためにそれにすがるしかない、ということかもしれない。


「リスク犯して秘密兵器まで作ってよ……結果がこれか」


 ちょうどむしゃくしゃしていたところに、村の特産品であるラエネの樹に「殺意ある果実」が実った。栄養のあるところではめったに起こらないことだが、ないことではない。いち早く見つけてもぎ取り、種を取り出して、ボウムは特別製の泥だんごを作った。あらかじめ固めた外側を貼り合わせ、内側に何かを入れられるようにしてある、なにかしらの液体を入れられそうなしろものだ。そこらの悪ガキでは思いつきもしない、かなり凶悪なものであった。


 彼はこの中にラエネの種のかけらと乳液を入れた。そして、思い通りにならない女に向かってそれを投げた。確信した成功は、手に入らなかった――エリザは腕を吊っていただけで、顔がただれてボウムだけが嫁に取ってくれる状態になどなっていなかった。そして、村の誰もに好かれている彼女にかような仕打ちをした犯人を捜すピリピリした空気が満ちていた。


「くそっ……あのババアに投げつけてやりてぇな」


 秘密兵器をさらに用意すべく畑に侵入し、樹に登ってまで「殺意ある果実」を探していたボウムは、まず見つかってどやされた。何をしようとしていたのか頑として言わなかったのに、大人たちは理由をすぐに察した。


 まず、あれは通常よりも大きな樹になる種で、見つけたらすぐにでも植えて大事に育てるのだ、と言われた。そして一発頬を張られ、こんなたちの悪いもの作る子なんてうちの子じゃない、出て行きなと叱られた。果実のことを教えてくれたヅクタというオヤジでさえ、ばくち狂いの自分を棚に上げて「人でなし」とさんざんに罵倒した。


 ――大人たちは、秘密兵器がまだ残っていることを知らない。


「はっ、クソどもなんてどうにでもなンだよ……これさえあればな。まずババアをめちゃくちゃにしてやる……次にヅクタのクソオヤジだ」


 運よく見つかったものがいくつもあるとは限らない。頭が回らなかったボウム少年は、歩き続けるうちに不思議な音を聞いた。


「いびき……寝息か?」


 もさりと生えたやぶの奥から、細い寝息のようなものが響いてきている。その声から、彼はかわいい生き物を想像したのだが――


「真っ黒の、しかもトカゲかよ……かわいい寝息立ててんじゃねーよ」


 のぞきこんだ洞穴の少し奥まったところに、大きなトカゲのような生き物が寝ていた。位階としては蛟竜、一般に「綾錦竜」と呼ばれるものなのだが、彼が見たことのあるトカゲはこんなに黒くはなく、これよりも小さいものだ。


「家畜ふぜいがマイホームか、よこせよクソカス」


 トカゲとは解体され、肉になって供されるもの。ボウム少年は「トカゲ」――剱蜥蜴しか知らなかった。大きさこそ三倍程度しかないが、かれは少年の知るトカゲとは一線を画す強さを持つ。素直に横にいるだけならば、邪魔者として尻尾でぺんぺん叩かれて追い出される程度で済んだのかもしれない。


「おらっ! どーだ、毒入りだぞ!?」


 毒入り――間違いなく、効果は発揮されるだろう。粘膜から吸収されれば、ほとんど即死にも近いほど迅速に効果を表すに違いない。


 投げた泥だんごが、綾錦竜の脇腹に命中した瞬間。


「シュォァアッ!!」


 カッと目を見開いて飛び起きた蛟竜が、ボウム少年を殴り飛ばした。あまりの衝撃に、彼の体は洞穴からはじき出されてごろごろと転がり、大木にぶつかる。


「げ、ぉぼっ……」

「シュウウウ……!」


 胸がすでに血まみれで、左腕は肉だけでつながっている状態だった。最後の精神力で立ち上がったボウム少年は、まだ一矢を報いようと蛟竜を睨みつけたが――弱点に未知の攻撃を受けて命の危機を強く感じている蛟竜は、明確な殺意を以て恐ろしい勢いで近付き、刃気で敵を木に縫い留めてから尾剣をさっと振り下ろした。


 ドォウン――という腹の底まで響く重低音が、鈍くこだまする。


「ギュゥウ……」


 大木の六割ほどまで切り込んだ傷痕は、そのまま抜けていた。ふたつに分かたれ、命を失った体はべちゃりと転げ落ちる。そしてバリバリときしむ樹は倒れ、少年は肉塊以下に成り果てた。




 後日、アーラック村では「剣竜の怒りを買った」としてこの遺骸をその場に晒し続けることが決まった。しかしながら剣竜らしいものは二度と現れず、ある夫婦はそれをしきりに悲しんでいたという。

 エリザちゃん、地味に地球の感覚で異世界紹介をしてくれるのでめちゃくちゃ便利なキャラだったりする。通常の異世界転生だと主人公になるべきキャラだとは思うんですが、村でいちばんの美人くらいの特徴しかないのと夫がまあまあ強い騎士候補、けっきょく本人は一般人なんで平均よりちょっと笑顔の多い人生を生きて、どうぞ。


 最後のパートは蛇足かとも思ったんですが、居着くときはけっこう長いらしいミズチくんがなぜ出てきてしまったのかという説明にもなっていますので、入れておくことにしました。

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