間章 「紅は踊る・3」
おせち食べる?(吐血)
書けた……がんばった。書きながら読んでた『地獄に祈れ。天に堕ちろ。』という電撃のラノベが大変良かったです。作者の九岡望さん、前作『ニアデッドNo.7』でも思ったけど血みどろ好きすぎやろ……私も大好きですけど。やっぱ、作品から作者の持つ世界が見えてくるラノベっていいよね、好き。私もこんなふうに作者が見える作品を書いていきたいなと思った新年一発目のラノベでした。
どうぞ。
デクティンドが放った一言から、トラブルが起こった。ごく簡単に言い切るならば、そうなるだろう。意味するところによれば、かれは「強そうな子が入ってきたね、騎士団長はこの子に乗るのかな?」という……プライドと気持ちを傷つける、あまりにも配慮に欠けたことを言ってしまったのだ。
(そうなの? 私、がんばる!)
(ちょっとアンタ何言ってんのよ!? 二人ともだけど!)
ボディーランゲージ多めのトカゲことばは、瞬時に肉体言語へと飛躍する。鼻先をくっつけてにらみ合い、お互いに尻尾をぶんぶんと振って不愉快な気持ちをあらわにしていた。
(なんでダメなの?)
(ずっと私だったんだから私に決まってるじゃない!)
クルナールには自負がある。剱蜥蜴から「剱大蜥蜴」に享華し、二十年もの間をドルト将軍と過ごしてきた。小さな頃から面倒を見てもらい、騎竜として選ばれた日には嬉しさのあまりくっついて離れなかったほどである。騎士団の面々とも仲が良く、稽古に付き合ったり操竜術の基礎を教えたりといった、面倒見のよいお姉さん的立ち位置を確保している。
(あの、冗談……)
(だまってて)(うるさい)
きっかけが冗談であれ、当人たちの気持ちが絡んでいれば冗談にならないこともある。正直なところ、蛟竜は騎士を背中に乗せることにあこがれていた。あるとき女性を背に乗せた体験はとても楽しいもので、もう一度やってみたい気持ちがあったのだ。ともに戦った仲間を乗せるのは、それは素晴らしい心地であろう。
二体が争う中、走ってくる影がある。
引退も近付き、髪にも白いものが混じり始めたとはいえ衰えを感じさせないたくましい肉体。かつて危機を救ったゴルティノス島の水龍人の乙女から施されたという、鎧の中心に刻まれた呪術刻印。騎士剣よりもさらに強大な力を持つとされ、刀身に文章が彫り込まれた「守護鉄璧剣」を佩く偉容。
千人が見て同じ名前を挙げるであろう王国将軍、ドルト・グリースである。
彼が走ってくるのを見ても、二体は鼻先をぶつけ合ったままだった。
「どうしたクルナール、それに竜よ」
「キュギュィ、ルゥ」
「リューイ、キュゥルィ」
「ふむ、ふむ」
クルナールが人を背に乗せたがるときの雰囲気を両方から感じる――そして、それが自分に向けられていることから、ドルトはおおよそのあたりを付けた。
「クルナール。今回、トゥロスがお前に乗ることになっている……私もそろそろ引退でな、将軍の座を譲るかもしれんのだ」
「リュウ……」
「あいつに教えるだけのことを教えてやってくれ。そして、あいつから引き出せるだけの力をすべて引き出してやってくれ。頼めるか?」
「キュゥイ」
任せといて、とばかりにかれは長年連れ添った男の頭にあごをぽんと置いた。
「そして、竜よ。人を乗せながら戦ったことはなかろう? これからもその機会は少ないだろう、教育するわけではないが……熟達して引退しておらんのは私だけなのでな、お前に乗るのは私だ」
「ルーゥ!」
完全に理解しているわけではないが、ともに何かを為す提案であるということはわかったらしい。ドルトは満足げにうなずきながら、もめ事の解決を確信した。
朝になって、ドルト、トゥロス、ガームスの三人は昨日の夜に起きたことについて話し合っていた。昨日の作戦会議は滞りなく終了したが、野営地の近くまで三頭偽竜が接近していたという情報は聞き逃せるものではない。
「……では、夜間にも複数の襲撃が予定されていたと?」
「俺はそう考えているが。実際に来ていたんだろう」
「ああ、クルナールと新入りがどうにかしてくれた」
「ほう? ヒドラ一体ならあれだけで始末できたと思うがな」
クルナールの実力は、文官であるガームスもよく知るところである。
「レギロ領壊滅から逃げ出したときに、あの竜と出会ってな。ザスの実を取ってきて寄越してくれた。タルクの実験台らしいが、生き残っているんだぞ」
「なるほどな。トゥロスもうなずいているが、見たのか?」
「ええ、将軍を連れ帰るときに。利発そうな目でしたよ」
ずいぶんと前のことではあるが、当時は青等級の「剱大蜥蜴」であったクルナールのことを――同族であるとはいえ――怖れる様子もなく、ただ仲良くしていた変わり者のことはよく覚えている。ふつうの個体であれば少しは怯えや警戒も見せるのだが、かれはまったくそういった不安を見せなかった。
「先に戦力を減らしてしまうとは、相手方もわけのわからんことをする。進軍の予定は、昨日の軍議通りでいいんだな?」
「王国軍と騎士団それぞれ、五分割はすでに終わっています。ドルト将軍」
「――ああ。行こう」
テントを出て、伝令や高所監視係に連絡を取るが、今のところ相手に変化はないということだった。であれば、と男はすでに用意を整えた第一軍を見据える。
「王国軍、騎士団、そして傭兵たちよ。よくぞ集った――幾度と知れぬ国の危機に立ち上がる、その義勇に感謝する」
有史以来幾百度と起こってきた魔王国の侵攻、藍色等級を超えるモンスターの出現や盗賊による略奪、有力者の謀反などなど、王国はさまざまな火種を抱えてきた。大陸の半分以上を占めるかの「グレベルス痕源野」の中部から北部がもう少し住みやすい土地であればまだ違ったのかもしれないが、気候が穏やかな南部ですら恐るべきモンスターの巣窟である。ともにグレベルス痕源野を開拓しようということにもならず、互いに命と国力を削り合うだけにとどまっている。
「魔王軍に比べれば、此度の敵は大したことがないといえるだろう。観測されている最大の敵手は、藍色等級の飛竜だけだ……」
ドルトは守護鉄璧剣を輝きとともに抜き放ち、敵に向けて振り下ろした。
「行け、義勇の兵士たちよ! 国に仇為す愚か者どもを血の海に沈めろ!!」
「「「「オオオオッッ!!!」」」」
かの怪物ども――魔将軍が指揮を執っているでもなく、飛竜を落とす術をすでにいくつも用意している。容易とは言えずとも、損失の少ない戦いになるはずだった。
「第一軍、進軍を開始する!」
騎竜に乗った若い騎士「ペルテナ・テニント」が勇ましく号令をかける。
「おうおう、若ぇのにがんばるな。落っこちんなよ!?」
「当たり前だ、行くぞ!」
第一軍が前進を開始し、どうやら赤目の方にも動きがあったようだった。
「将軍。あの赤目なのですが……その」
「どうした? おかしなことでもあるのか」
奇妙な点がありまして、と珍しくヤブ呼ばわりされない軍医が言う。
「あの、非常におかしなことなんですが。傷痕やらホクロの位置が同じ死体がいくつか転がっていまして」
「は?」
「骨折の跡や虫刺されの跡も同じです」
「何が言いたいのだ」
あ、いえ、と萎縮しつつも軍医は言い切る。
「赤目の何割かは、魔術で作り出された肉を持つ偽物ではないかと」
◇
『あーくそ、ほんッと使えないよね君たちは』
ヒステリックな甲高い声が、きんきん響く。空洞の内部にいる中でも、人に似た矮躯の生物から発されたものではない――それは、さらに巨大な影から発された人の声だ。
『守護者さまーとか言って慕ってくれるから、わざわざスキルまで使って君たちを援護してるのにさぁ? コピー元の性能がダメだからいくら軍勢作っても無駄なんだよきっと』
心底から嫌そうな早口で、影は赤目たちを罵倒する。
(それはそうですが、守護者さま。あなた様が我らの安全を保障すると言っていただけるからこそ、我らはあなた様にお仕えし――)
影は、刺青と数珠で飾り立てた赤目の老人を地面のしみに変えた。
『無能村長がなんか言った? うるさいよいい加減に』
(お、おやめください守護者さま……!)
『はいはい、わかってるから。てか、不死身の体を与えてるも同然なのに、どうしてだか作戦が成功しない……ってなったら、無能以外にあり得ないんじゃないの?』
言い返すことができないのは事実だ。しかし、それにも理由がある。
この赤目たちは、森の奥で魔物自在操術を頼りに生きてきた農耕民族であった。言いがかりをつけて元の守護者であった竜蛇を殺し、育てていた三頭偽竜をも自分の支配下に置いてしまったのはこの怪物なのだ。
『なに? また俺たちは平和に生きてきたからとか言うわけ?』
(恐れながら、それが事実かと存じます)
あーあーマジうッざいわ、と吐き捨てながら影は言う。
『加害者になれば被害者にならなくて済む、それが世の中の倫理なわけ。力あるものが奪うんだってば、アホどもさんおわかり? 村長が言ってたよね、この村を発展させたいって。そこんとこの街をぶっ壊してフロンティアにしちゃえばいいだろ、なんでわかんないの?』
考えなしというにも愚に過ぎる、お粗末というもばかばかしい――略奪者でなければ思いつきもしないような論理である。逆に、略奪者であれば誰もがそうしたであろう結論でもあり、民を生かさないという点を除けば国家間の争いそのものである。力に押しつぶされていなければ、どちらかというと真理を突いているのかもしれぬ。
(いくさには不慣れなものばかりで、守護者さまのお力を借りねばどうにもならぬのが現状です)
(どうか、どうかお守りください!)
ちっ、と影は風をひとつ起こす。怒りを買ったか、と震える赤目たちを睨み下ろしながら、彼はその身に宿した冒涜の力を行使する。
『美少女のお願いもね、聞ける回数には限度があるんだよね。失敗したら、今度こそマジで知らないよ……ほら、追加。多めにしといたから』
40ルーケ近い巨体から放出された魔力、そして赤目にとっていまだに理解できぬ力が満ち満ちて、あらかじめ不可思議な診察を受けた戦士が立っていた。
――しかし、よく観察すればおかしな点がいくつか見つかることだろう。その場に召喚された彼らは、三つほどのまとまりに分かれている。そのまとまりごとに、先頭に立つものが身に着ける装備がまるで同じなのだ。
炉のせいか質の低いロクテノの棒剣、蛇やトカゲの鱗を接ぎ合わせて作られた鎧に、勇気あるものの証として使われる「三剣交差」の形に貼り合わせられた剱蜥蜴の剣鱗。族長はそのような、最高級とは言えないまでも地位にふさわしいだけの装備を整えている。
その傍らに立つ、幾度も死線をくぐり抜けたものの証「双蛇相剋」の印を兜に意匠として組み込んだ戦士がある。正統天竜の呪眼をはめ込んだ打穿鎌を構え、やや仕立ての悪い雷角鹿の革鎧をそれでも着こなし、目を爛々と輝かせている。
二人は、あと二組いた。
『コピペだけで強化は別枠だから、勝手にやってね。そういうお手軽魔法あればいいんだけど、持ってないし』
あっけらかんと言い切る彼こそは、尋常の生物には行使し得ない「華能」をいともたやすく、日常的に使うことができる怪物。心に宿す冒涜をそのままに実現する力を得てしまった、ある意味では被害者ともいえる最大の加害者。そして、恐るべき才能を宿して生まれた麒麟児であり、恵まれた環境で力を育んだからか、成長の余地をまだまだ残している災害的秀才。
――転生者、三月博史。
将軍マジイケメン……になってるのかどうか、これからの活躍に期待しよう。年齢的に考えてもう出番ほぼないけど。
予定を見ると、これからはかなりのペースで転生者が出てきてますね。というか章ごと一人出てきてないかこれ……? ■■■■ちゃん(ネタバレにつき伏字)にエリカちゃん、誕生罪判例その2(時系列的に本編ではすでに死んでる)、チートクソガキか。多いな。
「ウォーピック」は実在する武器で、片方だけ付いてるピッケルを叩きつけるみたいな使い方をする刺突武器の一種です。先端に重量が偏り、なおかつ長い柄が付いているので単純に突き込むより威力が高い……のかな? マイナーなので、鎧相手には先端が欠けやすいなど、やや使いにくかったのかもしれませんね。「ザグナル」って名前のがかっこよかったからそっちを使いたかったんですが、独自語と勘違いされると先達の発明者にたいへん失礼なのでこちらにしておきました。いちおうハルバードの斧の反対側についてる「フルーケ」とか「鎌槍」の鎌部分とかも横に叩きつけて使えると思うので、仲間かも。
たぶん春先か初夏まで更新できないので、すいません、しばらくお待ちを……。




