10「夕龍晶」
ジオウ終わったなぁ……最終回が賛否両論だけど私は好きです。改めてやっぱしオーマジオウおかしい、純粋戦闘力もそうだけどサポート系が万全だから68歳が戦えるんですね。……と思ったけど、平成の68歳ってまだ元気だし、なんならキカイの時代にも戦える可能性が微レ存……?
章ボス戦これで終わりです、どうぞ。
にわかには信じがたい言葉とともに、蛟竜が完全に態勢を整えたのが見えた。
(ど、どうやって――推測はできたけど、どうして、なの?)
絶対無敵だというわけではなかった――それは知っている。空気を操る蝦蟹があれを回避したことも、むろん覚えている。しかし、蝦蟹のそれはどう見ても偶発的なもので、再現性のある事象ではなかったはずだ。意図的に起こしているのだとすれば、蛟竜はすでに玉牙自身の知らない光の弱点を知っていることになる。
(違う……たぶん、私と同じことをした)
光の弱点ではなく、利点を使ったのだとすれば合点がいく――蛟竜は、彼女の使う反射をそのままに模倣したのだ。
会心の一撃に慢心し、残心に心を囚われて相手の生死を確認していなかった。大いに反省すべき点を見つけ、彼女は警戒を改めた。
(全身が武器で、剣気も使える。光がないだけで、もしかしたら姉さんよりもはるかに強いのかもしれない……いや、強い)
彼女はたしかに蛟竜を蹴り飛ばした。百ドンの衝突にもダメージらしいものがなく、甲殻の一部がわずかに欠けただけのバケモノが弱いわけがない――もう少しで自分の腕を切り落とすところだった相手である。そして、光までも防いでみせた。
勝ち残ったのも納得できる、これまでで最強の相手だった。
「だったら、――」
剣気をより強固に纏って、どうにか戦えるようにするしかない。光は使えるタイミングを見つけたときに使えばいいのだ。
それが有効に思えないのは、どうしてだろうか――と、彼女は自問した。
否、答えは決まっている。それが妥協の末に導き出された案だからだ。
相手を仕留める一撃があった。完全に近い防御があった。いくつもの力を並行に使える天才があった。
それらは、順々に無為になっていった。
魔力を吸着して強化し続ける装甲は、あっさり破られた。もともと持久戦などという考えはなかったので、ともかく相手を倒せればいいと考え、見ないようにした。
最強の一撃は、防がれてしまった。それこそ母にさえ通じるような力であると考えていたものを、ただの蛟竜が防いだ。もうひとつ位階が上の偽竜ならばまだ説得力はあったが、あまりにも見た目と実力が乖離しすぎていて意味不明だ。
剣気を何種類も使えることは、彼女に仇為した。相手の予測の範囲外から攻撃するという手段を用いようとしたことが、逆に薄片を砕かれて攻撃を散らされる、偽物の薄片を混ぜて防御手段を作るといった悪用の温床となっている。
(誇りを全部なくしたら、私はどうなるの……?)
できる、できたと考えていた。
できない、できていないと考えたならば、それは――。
「シュゥ!」
蹴りに対して前脚での殴打を放った蛟竜は、腕をきしませながらも衝撃を殺して、後ろに逃れた。尻尾を利用して転がり、かれは素早く向き直る。
「はっ!」
「ギャゥオッ……!!」
こちらの方を見るかどうかというタイミングで光が直撃し、前脚の指が二本ほど消し飛ぶ。立ち止まる様子はなく、蛟竜の警戒はさらに強まった。前脚と腕剣では高さが違いすぎるため、尾剣を使うほかない。もしくは――
霞むほどの速度で、蛟竜が跳ねる。光を撃ち出しても軽々と避けられ、軌道を変更してもそれをずらされる。
剣気で強化した腕剣を、シャリンと音を立てて鋭くなった尾剣が受け止める。ギリリと動く音に危機を感じて力を込めたが、剣気に亀裂が入った時点で相手の力に乗る――弾かれたふりをして、上体をぐらつかせた。
(下、からッ!)
左の腕剣を、下から振り抜く。滑るように避けた蛟竜に、しかし手ごたえを感じる。姿勢を戻した瞬間に彼女が見たのは、切り落とされた蛟竜の腕だった。だが、肝心の本体がいない。滴り落ちた血の流れは、右に――否。
(――真正面!?)
吹き飛んで飛び散った血は右に広がっているが、落ちたものらしい丸い血痕は前にある。
「シュォウ!」
彼女の額に、刃気が深々と突き刺さった。一瞬、彼女の視界は色を失いかける。
「目なんて、いらない!!」
青藍等級の蛟竜をわざわざ目で見るというのも愚策だった。周囲から魔力を集めていた動きは停止されているが、物質と魔力の干渉による揺らぎは隠し切れない。どれほどのスピードであっても……否、速度があればあるほどに揺らぎは目立ち、隠しにくくなるのだ。
(目の前をいったん通り過ぎて後ろ、さらに右に移動して迂回しながら向かってきてる。視界を潰した気になってるけど、見えてるよ)
切り裂かれた魔力の隙間を埋めるためにじわじわと閉まっていく自然魔力を見ていれば、少なくとも移動した痕跡くらいはつかめる。
薄片を操り、桜玉牙は光を射出した。
(――え?)
彼女が致命的なミスに気付いた瞬間、それは起こった。
「あ……、」
ヅゥ、という聞いたことのない音が聞こえる。熱感が上げさせた苦鳴をできる限り絞りながら、彼女は失敗の原因を悟って――左の脚を失った。
(見えない……魔力の性質があんまり似てるから、紛れ込んでる蛟竜の剣気が見えなかったんだ……! 光の軌道をずらすだけじゃない、返されるなんて予想できたはずだったのに!)
いっそ不自然なほど、蛟竜の魔力は彼女のものと似ていた。
サソリにも蝦蟹にも、地虫や蛟にも、種族ごとに魔力の特徴がある。個体差を見分けることは難しいが、彼女の目も種族差を見分けられないような石ころではない。蛟竜の中でもとくに大きな魔力を保有していたあの「爪刃竜」は、彼女のものとはまったく違う魔力を持っていた。魔力量が多ければ多いほど見えやすく、固有波動も強くなる。
そんな事実は、もうどうでもよくなった。
蛟竜が飛びかかってくる――真正面から、愚直という言葉すら放り捨てたようなばかばかしさで。
「わかってる?」
玉牙は、あえて言葉を音にした。蛟竜が止まらないことなど知っている。だが、尾剣を受け止める腕剣に魔力が集中した気配を感じたか、速度がわずかに鈍る。
「どんな傷でも、治してもらえる」
だからね、と彼女はつぶやいた。
尾剣が切り付けた瞬間に、腕剣は爆発めいて見える乱射光を放った。蛟竜の尻尾が焼け、刃を形成する鱗に穴が開く。
(何を使ってもだいじょうぶ。腕を両方なくしたって、直る……だから、こうして使い捨てにもできる。――どうせ、道具だから)
彼女はどこを目指せばいいか分かっていなかった。しかし、アイデンティティーといえるものはある。病んだ心の生み出したそれは「道具」というものだった。人柱と言い換えてもいいかもしれない。龍晶となって世界を支える、そのために育つ――それ以外に選択肢のない、道筋がひとつに定まっている命。どのようにしても同じ結果になるというのなら、母に褒められたところで同じだ。
これならば確実に勝てるだろう、と確信できるだけの光を溜める。
(あれ? でも)
勝ってどうする、という思いが湧いた瞬間に、目に何かが映った。剣気で壊されたはずなのに、何かが見える。
(渦? いっぱい、何か)
中ほどから先までしか切断力がなくなってしまったそれが首に巻き付いたときには、もう遅かった。
「んぇ?」
空間に満ちる魔力が、ゆっくりと何かが通り過ぎた隙間を埋めていく。ゆっ、く――り、と顔は母の方へと向き直っていった。首から命力が噴出し、魔力もだんだん見えなくなっていく。
(そう、だよね。私が生きてても、やることなんて何もないもの)
輝く紫の魔力を持つ母が、大きな声を出したような気がした――
(私は、私はほんとは、……母様、私は)
その瞬間に、ひどく伝えたくなった彼女は言葉を発しようとした。しかし、命力を失いすぎた頭部が発することができたのは、ほんの小さなかすれ声だけだった。
――そうして、桜玉牙は息絶えた。
『フフ……勝ち残ったか、実験体9792号……「藍晶蛟竜」が。ここまで来ると、次の享華が待ち遠しいね』
『何年後のことになるやら……。あるいは来ないかもしれないよ』
『行く先は南だ、これまで以上に厳しい戦いになるということもないだろう』
『そりゃそうだけどね――あんた、分かってて言ってんだろう』
夕龍晶は何度も蟲毒を行った。しかし、タルクとは違って成功例を出していない。その理由は、誰の目に見ても明白である。自分の子である「玉牙」以外が勝ち残ったときには、それらを殺し尽くして次代の石晶子を生み出す糧に変えていたからだ。
平々凡々な玉牙しか生まれず、非凡な二体を殺し合わせてどうにか最強の娘を誕生させたつもりだった。寿命からして、石晶子を放出して蟲毒を行えるのはあと二回がいいところ、もしかすればもう二度とその機会はないかもしれない。玉牙がどれほど強いモンスターであっても、それを上回るものは必ず存在する――そして、蟲毒にとモンスターを集めた中にそれらが混じっているからだ。
『どうにか思いとどまってくれないものかな……私にとってもあなたにとっても、悪い選択ではないと思うんだが』
『はん、浅ましいことだけは言うじゃないか。あんたが直接来て止めでもしない限り、あたしゃ手を止めるつもりはないよ』
龍晶――多くの地域や国で「国神」と呼ばれる、世界の魔力の流れを左右するソリッド系最上位種のモンスターは、その真なる力の片鱗を見せる。
『住んでるやつも潜り込んでるやつも、あたしの子も。あたしに力を返しな』
その巨大な体には、数多くの生物が住んでいる。龍晶が枝など生やして成長すべきところから魔力を吸い取って寄生しているものや、母にそのまま根を張った六角晶もある。そういった要らぬものから、死をもたらすほどに――生命を保てぬほどに魔力を取り上げる。空いた穴に住まうものや、龍晶の一部になるほど成長した六角晶からは、少しばかりを吸い上げる。そうして彼女は、魔力をつなげて剣気を生成した。
――否、それはもはや剣であった。たしかな重量と物質的硬度を持つ、結節質アルエリウムに限りなく似た構造を持つ「龍牙剣気」、龍晶が力を振るう数少ないいくつかの事態において用いられる最強の剣気である。
『あたしの娘は強かった。あんたはもっと強かった……それだけのことさね』
龍牙を大きく振りかぶった龍晶の前で、蛟竜は自らの魔力を振り絞って刃気を作り出した。本来の容量をはるかに超えて蓄積された魔力をほとんど出し切ったそれは、半物質化するほどの密度を持っている。
『……いいよ、足掻いてみな』
スローモーションのようだった。
武骨な巨剣がゆっくりと振り下ろされていく。それをまっすぐに見据えている蛟竜は、刃気をすうっと動かして巨剣に当てがった。砕け散ることもなく通り過ぎた刃気がそこで停止すると、ピキン――と音を立てて折れた龍牙剣気が重量のまま地面に墜落する。
『呆れたねえ、あんたは』
『少しは落ち着いたかな? 耳……と、目を貸してほしいんだが』
何するつもりだいとぶっきらぼうに言った龍晶は、タルクがひっそりと告げた言葉にいぶかしげに反応した。しかし、実際に目の当たりにするとやはり思うところはあるのだろう、彼女はわずかにほほ笑む。そして、蛟竜の傷を治していった。
『なんだい、あんた……分かってたなら最初に言やいいじゃないか』
『魔力の流れが悪くてね。ジェカート夢幻創のような、規模の大きい魔力災害の前触れではないかと踏んでいる』
魔力災害についてはともかく、タルクは実際に戦った玉牙と同じような推測をしていた。どうにも、背中の晶殻はあまりにも後付けすぎる――というものである。アルエリウムを取り込んだ結果として作り出された甲殻というよりも、六角晶そのものであるような印象を受けたのだ。それにしては命力が薄すぎることから、彼は「おおかた刃気の制御用、加えて魔力貯蔵用に甲殻変性したものだろう」という考えを持っていた。
真相は違った。
大きな力を持った六角晶は食われることに抗い、命力も失わなかった。砕かれて瀕死に陥ったものの、トカゲの気能はそれを殺しきれなかったのだ。手始めに魔力を吸い、継承しきれなかった刃気の力を確立させ、トカゲが蛟になるに至ってかれは形を現した。
『ずっと洞窟の中にいるというのも困る、かれを出してやってくれるかな?』
『しょうがないねえ。ちょっとあんた、つまむよ』
「ルゥ? キュッ、ギュイ!?」
体が浮く感覚にはまだ慣れていなかったのか、蛟竜は慌てている。そして、夕龍晶の手によってかれはベディロンケール龍洞から出されていった。
『すまないね、こちらも忙しいんだ。そっちに出向いて回収してもよかったんだが……それはそれで、部屋を空けると途端に感づいて策謀を始める輩がいるものでね』
龍晶は、ゆっくりと眠りについていくようだった。
『……娘の行く末を見守ることにした、ということか。私もそうしたいところなんだが、あちこちで魔力の異常が起こっているのを見過ごすわけにもいかない……』
活発に動き回れるほどのエネルギーを持つ龍晶と、空間や精神を操る力を持つ恐るべき龍が争った結果、世界の一部を切り取り封印してしまった「ジェカート夢幻創」――それも一種の魔力災害である。内部は時空を攪拌したようなありさまになっており、外部からの観測がまるで意味をなさないほどには異常な場所だった。
かの悪夢が溜め込んだ魔力を解き放ったことで、グレベルス大陸や災濫大陸において魔力異常の気配が増している。
『そうそう、もの探しも結果を生みそうに思えてきたことだ……久しぶりに、双命核を自作してみるとしようか』
あらたに三人の転生者を確認しているタルクは、静かに立ち上がる。そして望遠の窓を消すと、金剛六角塔にはしずかに魔力だけが満ち満ちていた。
じつは取り込んだんじゃなくて共生だったんだよ! という着地のしかた。まあ、ヒントはアホほど出してたのでお気付きだったと思いますけどね。ちなみに「ジェカート夢幻創」は災濫大陸にある&対策なしで入ったらブラックホール状態なんで攻略予定ないです(断言)。大陸には行くんだけど、ミズチくんだって死亡確定の場所くらい見分けられるし……。「国神と龍が争ってる背中のイレズミ」はジェカート夢幻創のことですね、って言ってもたぶん誰も覚えてないな。
ビーム兵器ちゃんはテケリが言った通りの結末、ガリマ姐さん風「振り向け」……ひどい。龍晶の剣を壊した方法はまたいずれ、次の間章にでも。
残業時間増える&あれこれ書くので次回更新は遅く、投稿ペースも落ちます、すみません。




