9「最期の戦い」
やったー連続投稿だー! いつぶりでしょうね? これもミスのおかげ……いえ、お待たせした代償が二話だけってのはちょっとアレですよね……。ストックゼロなので頑張って書きます。ひまわり持ってる雫ちゃんほんとかわいい、かわいい……かわいい。
ともかく、どうぞ。
蝦蟹は、ゆっくりと崩れ落ちた。
光があればどうせ勝ってしまうのだ、という舐めた余裕が消えるくらいには恐ろしい相手だった――正体不明の手段によって光は防がれた。そして、空気弾によって彼女の腰はえぐり取られている。
ここにきて、彼女はようやく気がついた。
もはや「防御」という言葉はなくなっている。いかにして攻撃を押し通すかであり、いかにして殺すかという手段それのみがひたすらに尖りを増している。
『いま直すよ、待ってな』
「はい」
傷は癒えていくが、心は晴れない。
(あの蛟竜の戦いはよく見てなかったけど……タルクって人の言ってたことに間違いがないなら、自分を殺すためにいるような、相性最悪の敵に勝ったみたいだし……)
トカゲ殺しに特化した、しかも位階が上の相手を倒すことなどできるはずがない。代償に死にかけたといってもまだ軽いくらいだ。鉄の門を素手で打ち破ったというほうがまだ信じられるほどには無茶なことである。
恐ろしいことは、あれは文字通りすべての敵に勝ったということだった。
(本当なら負けているはずの勝負も、母様が勝ちにしてしまったから……)
見ている限り、母は三度か四度ほど全身を負傷して死亡寸前のモンスターを復活させた。あの藍色の蛟竜も、傷を癒す奇跡さえなければ死んでいたはずなのだ。しかしながら、何を支払ってでも勝ったという事実は同じ――おそらく、母は勝者ならば何でもいいと考えているのだろう。
数度見ていた戦いでの蛟竜は、全身を十全に使って比類なき力を発揮していた。前脚の爪や尾剣もそうだが、全身が武器であるといっても過言ではないほどに、その体はすさまじい力を持っている。桜玉牙が硬そうだと感じたり実際に硬いと感じたものをたやすく切り裂き、砕き、退けている――光でなくその尾剣で以て、である。
(私の攻撃は通じる、絶対に。切れないものはない、けど……)
魔力のかたまりでもある結晶生物である玉牙は、魔力量において同格の生物に比べても世界最高峰を誇る。魔力が尽きるということは考えにくく、攻撃手段がなくなることはあり得ないと言っていい。
しかし、彼女の懸念はより現実的なものだった。果たして、自分の体は相手と打ち合うことができるのかどうか――ということである。彼女は自分の体が鉱物としてそれなりに硬いことは理解している。しかし、それがあの尻尾に切れないほどに硬いのかということになると、途端に自信は消え失せる。それもこれも、あの蛟竜の異常な強さのせいだった。
(あれの切り札は、ひとつじゃない……? よね、たぶん)
思い込みかもしれないとは思っているが、彼女が考えていることは正しい。
(あの尻尾と、どうして持ってるのか分からないけど剣気――それに、爪もすごい。享華直後だから、もしかしたら「できるようになったこと」も増えてるかもしれない)
いまひとつ吹っ切れない彼女ではあるが、察しはよい。知識があれば答えにもたどり着くだろう――彼女は勝利「可能」である。
考えなければならないことはまだあった。
(あのザリガニが私の攻撃を防いだのって、どうやったんだろう)
彼女の放つ「光」が魔力を変換した光だということは、彼女自身が一番よく知っている。しかし、その詳しい理屈や防ぎ方はよく理解していない。あの蝦蟹は、こともあろうに彼女の領分を侵して光剣気を防いだ。本能的なものかもしれないが、それは理解のさらに先である。防御は攻撃よりも難しいものなのだ。
(もしも、魔力を固めるだけで防げるようなものなんだとしたら……)
自分は、本当はただの道化なのだとしたら。
すさまじい力を手に入れたつもりで、本当のところその力は相手にとってなんでもなかったのだとしたら、という疑念が湧いて出る。
(……違う。姉さんを殺したときも、ふつうのザリガニを殺したときも、私の光を剣気や風だけで防いでるようには見えなかった。じっさい、防げてなかった)
彼女の光を防げるものはいなかった――だからこその困惑だ。剣気を防ぐ仕組みとはいったいどのようなものなのか、彼女には想像もつかない。もっとも、目の前にあったとしても見えないのだろうが。
『さくら……ほんとに、よく勝ち残ったね』
「母様。わたし、がんばりましたよ」
何を積み重ねても、彼女は変わることができなかった。この言葉も嘘だ。それでも、母はそれを信じて『ああ、ほんとに強くなったね』としきりに感嘆している。
『あたしが積み上げてきたものを、あんたが受け継ぐ……。ほんの少しずつだろうけど、それでもいいんだよ。あたしの子供さ、誰にも文句は言わせない』
眠っている蛟竜を見て、玉牙はつくづく思う。
(誰の言葉ももらわず、まっすぐにいるあれに比べて……こんなによくしてもらっている私がぜんぜん迷いを吹っ切れない。やっぱり、私が勝つべきじゃなかったんだ)
時間は無為に過ぎ、太陽が垂れ流す魔力が次第に弱まっていくにつれて「金剛六角塔」の内部は月と星の魔力に満たされていく。生命を感じるにはやや弱い光だが、彼女はその方が好きだった。壁の穴や龍晶の隙間に巣食う生き物たちが寝ている間に魔力を定着させていくきらめきも、ここで過ごしたわずかな時間で美しいと思ったもののひとつだ。
(母様……やっぱり私は、静かなところでじっとしてたいよ)
戦いや幾千の命を背負うことは、大きすぎる重荷だ。
「もう少し時間があるなら、できるだけの修練はしておきます」
『いや、すぐ始めるよ』
休養の時間はじゅうぶんに取ったはずだという言い分だった。
『どうだい……起きてるかい?』
「ギュゥ、キュイ……?」
頭をぶるぶると振ってから「ルーゥ……」とやや不満げな声を漏らしたものの、戦いを始めることには文句がないらしい。
「母様、いいんですか?」
『あたしも「魔力眼」以外にあれこれ持ってるのさ。命力もじゅうぶんあるいまなら、戦うのに何の問題もないよ』
ありとあらゆる液能を簡単に模倣してしまうあの龍――「従魔将軍」ほどではないが、仕組みが分かれば真似られる液能はいくつかある。気配だけでなく命力を正確に察知する力は、あのタルク・ザーンから教わったものである。
『準備はいいかい?』
「キュウ」「はい」
それぞれの返事に、龍晶は満足そうに光を漏らした。そこかしこに生えた六角晶や、玉牙自身も光を放っているために暗闇とは程遠い場に、その光のかけらはほんのわずかの時間だけ漂って消えていく。
『――行くよ』
壁が、はらりと破れた。
光を腕剣に宿した桜玉牙は、それを一直線に撃ち出す。しかし――
(よ、避けた!?)
光は何よりも早いが、蛟竜にはその動きが分かる。何も光の速さで動けるというような馬鹿げた話ではなく、光もまた操られているという理屈に則ってのことだ。もちろん光は早い、素直に到達点にいればかわすことは不可能であるが――撃ち出す相手の動きを読めぬほど、蛟竜は鈍くない。
不可視の一撃すら連続で回避してみせ、対応が追い付かない速度の攻撃でも勘だけで半分以上をいなしてみせたその鋭さは十全に発揮されていた。あの異常能力を持つ転生者たちに比べれば、玉牙など鼻で笑えるほどである。
「なら、読めないように――」
桜色の薄片――といってもひとつ1ルーケ以上の大きさはあるが――を大量に展開し、おそるべき強敵であった竜虫を仕留めた光剣気の反射を狙う。
(心を読んでるみたいに、反射の到達地点にはぜったい近寄らない……おかしい)
魔力的な空間把握能力には、濃い魔力を持つもの、つまり魔術や液能の動きを詳細に察する力も含まれている。形や大きさ、向いている方向までを把握することができれば、どこに何をしたいのか分かる――いま、かれを狙うために動いた薄片の反射をシミュレートして、打ち砕くことも可能だ。
(……っ! なにか、何かおかしい!)
彼女はまだまだ積み重ねが足りないためにそう感じている、とする向きもあろう。そこには間違いはない。しかしながら、いくら蛟竜の感知能力が高いとはいっても限界はある。加えて、蛟竜の頭がどれほどの知能を持っているのか――光の反射を瞬時にシミュレートし、回避するための最適な動きを算出しうるものなのか、という疑問だけは正解だった。
「シュアッ!」
「くっ……」
薄片を砕き散らしながら突進してきた相手が、玉牙の体を直接殴りつける。土の魔術ほどには威力がなかったが、ただの生物の一発の殴打と考えれば、あまりにも重い攻撃だった。命力が揺れ、神経がずれたような感覚とひどい吐き気が込み上げる。
「う、えぷっ……」
すうっと切り込んできた自然な一撃を、彼女は腕剣で受けた。そうせざるを得なかった。
(――剣気で防御したのを斬ったうえで、この破壊力なんだ)
結節質アルエリウムの腕は、切断は免れた。砕けてもいない――が、まともに受ければどうなるかはその傷痕から察せられる。桜玉牙は尋常な刃物の切り傷というものを見たことはない。だが、周囲に亀裂を作りながら谷を無理やりに削り出したような……それでいて粗削りと言える程度にはなめらかな傷は、通るべき軌道を通ればこの体を斬ることができるだろう。
(私にはもう引き出しはない。光で殺すしかない)
こんなものと打ち合いを演じることはできない。そんなことをすれば、体がぼろぼろに崩れて終わりだ。素早く動くことのできない彼女は、防御を許さぬほどの蹴りを放つ。百ドン近い重量が乗った蹴りをそう簡単に殺せるはずもなく、尾剣でどうにか相殺しようとした蛟竜は後ろへ大きく吹き飛んだ。
「ギュゥオ……」
光を生み出し、狙いをつける。
(反射を狙っても、逃げられる。真正面から――倒す!!)
鋭く引き絞り、狙いを研ぎ澄ます。時間が引き延ばされたような感覚の中で、桜色の薄片がはらはらと揺れた。視界の中で、何かが起きた――
考えるより先に腕剣は動き、振盪を起こしたかひどくのろい動作で立ち上がった蛟竜を腕の先に捉える。一直線――これまで「光剣気」を使った中でも、会心と言えるほどに美しい一撃を見た彼女は、蛟竜の死を、自分の勝利を確信した。
耳を聾する恐るべき衝撃音が轟き、砂埃を切り裂いた光の残像が目を焼く。
「私、勝っ……、――え?」
薄片の色が違うような気がする。
わずかずつ動かしていて、パターンを読まれないようにしていた「光剣気」を反射する剣気片は、たしかに浮遊している。
数枚だけ、動いていない薄片があった。しかも、色は深紅――
「母様、私は」
『よく見な』
優しかった母の言葉は、少しだけ尖っていた。
『……終わってないよ』
「攻撃は光の速度だけど腕は光速じゃないし……」というデンドロ風の回避。まあコナンでも「銃口に注目していれば弾丸は避けられます」とか言ってたからセーフセーフ(震え声
ミズチくんとドルト・グリース王国将軍が共闘するお話が書きたい&発育のいいお姉ちゃんことクルナールが享華した姿も書いておきたいので、次の間章はそれにしようかなー……もうアウルムの続編書いてる時間ないやん! 彼氏気取りくんとかチートクソガキ、煌王龍のお話はまだまだまだ先になりますねー……エリカちゃんの能力とかアトリエのモンスターも考えておきたいし、更新は遅いです、すいません。




