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闇ニ玉散レ百剱  作者: 亜空間会話(以下略)
集えよ光、束ね束ねて華となれ
42/61

6「享華:藍晶蛟竜」

(2020/12/29 表現を修正)


 読みは「きょうか:アオノミズチ」。


 情報量ふだんの倍以上、超盛り沢山でお届けします。どうぞ。

 装甲のあちこちにすさまじい傷を負い、一部が欠損して血を流し、口には自分や相手の血をこびりつかせている――まさしく修羅と呼ぶべきものどもが、向かい合っている。息は荒く、その生命力も激しく損耗していた。


 ミズチが尾剣を振り降ろし、蛟竜はそれを避ける。辛うじて残る爪刃の欠片で切り付けようとしたが、尾剣はさっと跳ね上がり攻撃を許さない。枝から順々に飛び降り地面で向かい合った二体は、激しくにらみ合う。


 あとほんの数回打ち合えば勝敗は決まるだろう。必要以上の警戒もあり、かれらはなかなか動き出さない。しかし、限界は迫るばかりであった――このままどちらも仕掛けずに戦いが続けば、ミズチの出血が多くなって負けになるだろう。しかし、戦力が多く残っているのもまたミズチであり、爪刃竜は攻め手をほとんど失っていた。


「ロォウ!!」


 挑発するように引っ掻きにかかっても、フェイントとして反対の手で殴りにかかっても、鋼鱗蛟はすべてを防ぎ、隙あらば攻撃に転じようとわずかな間隙をうかがっている。蛟竜の予想以上にミズチの尾剣のコントロールは精密だった。損耗がまったくなく、再生が終わったのがごく最近であることもあって、勘を完全に取り戻していたからである。


『あんたら、ちんたらやってるけどね……ひとつ言っとくよ』

「ルゥ?」


『返事はいいよ返事は。回復はできないって言ったろ……あんたらの傷は戦いが終わるまで治らないし、魔力だって補充できない。どういうことか分かってんだろうね』


 人語を解するとはいえ、察するというところに関してはまだまだ弱いミズチはその意味が分からない。


『あんたらが使えると思ってる魔力も、補充できない分はもう使えないんだよ。尻尾にあるはずの分と、背中に貯まってるはずの分はね』


 いくら回復しないとはいえ、自信のある液能を使わないはずはない。そこで立ちはだかったのは壁――コストが足りないという、どうしようもない制約である。


『とっとと決着を付けな……みっともない終わりになる前にね』


 両者は奮起した――正確には、明らかに気合いが入ったミズチを見て蛟竜が警戒を強くした、というべきなのだが、蛟竜は再びミズチに飛びかかった。先端だけを選んで最大切断形態に整えたかれは、縮めて接合しなかった分の射程を伸ばし、勢いを乗せて蛟竜を斬らんとする。


 それは成功した――指の引きちぎれた方の左手は、さらに二本の指と掌の半分を失った。その痛みに耐えながら、蛟竜は尾剣を押しのける。


「ガァアアアアッ!!」


 右手には残骸が残っている。そして、指が残っている。


 だが、関係ない(・・・・)


 それはもはや、蛟竜の怒りを鎮めるには足りなかった。ぶち殺してやる、という自らの冴えた刃とは正反対ともいえる、暴力的なまでに熱く激しい衝動は、より確実で苛立ちをぶつけるのに最適な手段を実行させていた。


 飛びかかり殴りつけ、体をひっくり返して上に乗る。尻尾でミズチの尾剣をどうにか押さえ込み、胸元を、喉元を、好き放題に殴りまくる。肩口の装甲はあまりにも硬く、まともに攻撃は通らなかったが、甲殻でなく鱗にしか覆われていない腹側は衝撃が徹る。


「ルグゥ、ゴロゥオ」


 愉悦(たのしい)――蛟竜はそう思いながらも冷静さを取り戻しつつあった。怒りを発散しすぎて冷えてきた頭には、実にいい名案が浮かんでいた。これ(・・)を実行できれば、相手は確実に死ぬ。自分だけが逃げおおせて、次の戦いに行ける。


「ギュルゥオオ!!」


 ミズチが、恐ろしいほどに強烈な声を発した。抵抗するつもりなのか、眼前にすさまじい量の魔力が集まる。


 しかし、それは無意味だった。


 爪刃竜の液能「空跳脚」が、これまでにない――それこそ、ミズチの半身を覆い尽くすほどの規模で発動したからである。そして、蛟竜は跳ねた。


「グルゥオ、ルッ……」


 かれは嗤った――ドッ、という衝撃とともに……もとからミズチを圧迫していた足場がわずかに下がったことで、ミズチの腹が完全に潰れたからだ。かれの口から血と何やら分からぬ液体が噴き出て、手足がほんの一瞬だけ痙攣する。足場には恐ろしい量の血液が噴きつけられ、数瞬でミズチの頭部が見えなくなった。


「――、――!?」


 勝ち誇ろうとしたのに――声が出ない。


 足場に、大量の血液が上から(・・・)ぶちまけられていく。そしてかれは、そこにあったものに気付いた。小さくて薄い、研ぎ澄まされた刃の切っ先というにはあまりにも矮小なもの。どう表現すべきものであるのか――それは、刃の糸だった。


 罠だったのだ。


 ミズチは、相手の能力の使い方をその発展性まで考えていた。こういうこともできるかもしれない、と思っていたことを相手はそのまま行った――だから、対抗手段を使った。鋭変された尾剣と同じ切れ味を持つ刃気に、無警戒で急所からぶち当たった生物がいったいどうなるのか――答えは簡単だ。


 死、あるのみ。


 傷はあまりに大きかったが、間違いなく、鋼鱗蛟の勝利であった。




『ひっどいもんだね、まったく……ちゃんと治すから安心するんだよ』


 右目を引っかかれて失明し、左手を食いちぎられ、胸と喉元をさんざんに殴られ、腹を圧し潰されて内臓をいくつも破裂させ、致死量に近いほど出血し――指一本すら動かすことができなかったが、ミズチは死んでいなかった。死んでいても治療可能ではあるが、生命が戻る保証はない。できるだけ、命がある方がよい。


「キュウ……」


 傷は治り血は戻り、痛みが消えて、ミズチは万全の体調に戻った。


『魔力量にものを言わせるのでなく、構造に働きかける治療……いつ見ても見事だね』

『あんたが気味の悪いもんをいくつも見せるから、覚えちまったんじゃないか』


『必要だと思ったからだが』

『あんたの趣味じゃないか、まったく……』


 タルク・ザーンはにこにこと笑っており、悪びれる様子もない。


『さ、魔力を分けてあげる…‥そいつを食って次に備えるといいよ』


 それは優しさではない。タルクも、それに気付いているからこそ『なんだ、妙に甘い言い方をするね』などとからかいはしなかった。


『あれの蓄積していた魔力など、ほんのひとしずくなのだろうね。これまでに蓄積しているものからすると、かなり少ない』

『トカゲにゃ魔力適性はない、あんたも言ってたじゃないか。それともなにかい、あたしがいつもより少なく渡したなんて言ってんじゃないだろうね?』


 死体から魔力を吸い取って渡す役目を一手に担っているのは彼女だ。やろうと思えばできることではある――彼女ほど不正を嫌うものがいなければの話だが。


『いや……自分の言ったことに疑わしさが生じたとき、まず疑うべきは自分だ。そこから周囲へと広げるものだよ。どうにもあの体構造に納得がいかない……』

『ま、なんでもいいけどね』


 腐食性のある酵素が入っている内臓をなんとか避けてすっ飛ばし、ミズチはさっきまで敵だったものをゴリ、ボリと音を立てながら食っている。まず切り飛ばした尻尾をかじって美味そうにキュウキュウ鳴きながら、なくなったと見るや肝を食いに移った。そして手足をかじり、肉という肉を食らい尽くす。そのあたりでミズチは疲れと満腹で眠くなってしまい、くてりと眠りに落ちた。






「姫……かわいらしい姫」


 ぴたりと腹をくっつけ、それはミズチ――もとミズチを起こそうとした。


「源が違うというのにこれほどまでに似た色……キミからは運命めいたものを感じる。ぜひ、この僕と契りを結んでくれないか」


 その長い首でのどをするりと撫で、見れば確かに同じような色の双頭(・・)の竜は、頭の上にあごをぽんと乗せて尻尾同士を絡める。優美な尾と尾剣が絡み合い、先の方をとんとんと叩く調子で、享華したミズチは夢うつつにいた。


「キュルィ……」


 ぴたりとくっつく温度はひんやりとして、甲殻の固さもカルン位階7を超えている。このままくっついていても気持ちがよさそうだと思ったかれの鼻腔に、異様なものが迷い込む――かれは飛び起きた。


「どうしたんだい、姫? そんなに怖い顔をして」

「シャァア……!」


 隣にいたものは――死力に満ちた何かだった。


 無理やりにつなげた二つの首を持ち、全身の様相はほとんど海竜のようにも思われるのに――匂い立つほどの死力は隠しようもない。


「名乗っておくよ、姫……私は「双竜死」。かの「従魔将軍」タルク・ザーンにより蘇生した、南海の王子さ。この姿は……閨事のときにでも、語ろうかな。さ――」


 尾を切り落とされ、双竜死は不思議そうな顔をした。


「ああ――私はそういうの(・・・・・)をいっさい無効化できる力を持っているんだ。とはいえ、そうか……受け入れてはもらえないらしいね」


 かれの敵意を前にして、竜死は逃げる――あるいは身を引くことを選んだ。




『ふむ、享華したか……おぼろげに思い描いていたものの少し上、といったところかな』


 洞窟内で結節質アルエリウムを多量に摂取したこと、自慢の装甲が役に立たなかったという経験、魔力や機動力の不足――それらをすべて解決せんと望んだのだろう、細身、流線型の甲殻に包まれている。


 甲殻の色は、わずかに透き通る藍紫。ほんのりと光る青の晶殻ともよく合う、実に美しい色だ。金銀が散らばった悪趣味な姿よりもずっといい。肩や腕、脚に刃のような装甲が追加され、それらも魔力を帯びている。そして何よりタルクが注視したのは――


『剣冠角の萌芽……なのかな? その突起は』


 彼が懇意にしている「剣王竜」の頭にある、四本の角――かれらの間では王位を表すとされており、じっさい強力な個体しか持たない「剣冠角」のような、ごくわずかな、とても小さな突起があった。


『君の選択はよく分かった、そしておめでとう――このような竜は見たことがない』


 生きてきた年月の中で、タルクはさまざまな竜を見てきた。他の雲海に住まう正統天竜、恋を叶えるため空に上がった海竜、砂漠に沈み流砂の支配者となった地竜。竜に似た姿になったほかの生き物や、魔力をほとんど含まない「恐竜」と呼ばれる生物も多く目にしている。


 竜には系統があり、享華にもパターンがある。ミズチ――否、剣竜種の蛟竜「藍晶蛟竜」の享華も彼が知っているものに当てはまる。しかし、タルクの干渉があったとはいえこのような道を選べたものはいなかった。


 「爪刃竜」に享華したものはだいたい天竜や龍にけんかを売って凄惨な死を遂げ、剣竜はといえばせいぜいが「剣王竜」程度の力で満足してしまう。蟲毒をくぐり抜けられた地竜種はほとんどいない――剣竜や地竜の強力な個体は、発生し得なかったのだ。


『君の前途を祝福しよう、蛟竜よ。だが忘れないことだ――』


 実験体の中では、かれはもっとも劣っている。


『いずれ12号や864号と相まみえる日も来るだろう。王子も君と戦いたがっているし、あれが君の戦った通りの強さというわけでもない。まだまだ君の苦難は続く』


 まだ、蟲毒は終わっていない。


『フフフ……炎を見せてくれてありがとう。そして、これからも楽しみにしているよ。目を見張るような活躍を……そして、その命の輝きを』


 竜死が逃げた方向を見るのをやめて尻尾をくるりと丸め、腹を地面につけて落ち着いた蛟竜は、また眠りについた。

閨事 (けいじ・ねやごと)……

 男女がおなじ寝床に入ってすること。愛を確かめ合ったり、子孫繁栄についてやるべきことを実行するらしい。変態が多い海竜種はナチュラルにこういうこと言う、しゃーない。ミズチくん基準だとこいつは男としておっけーらしい。幼女のくせにこういうとこしっかりしてるな……。




 あー、領王とかこの世界の仕組みぜんぜん説明してなかったなぁ……。竜死のことはDのラストまで延期、竜たち三種の恋愛観についてもDの途中に入れようか……今回は気になる実験体たちのことをごくごくわずかに。


 蟲毒は魔王主導で行われた生物兵器化実験の一環で、成功例自体はけっこういるんですが……理性がぶっ飛んでたり制御が難しかったり、野良で災厄起こしまくるなんてことも多いため、現在は禁止されていたりします。現在……物語中においての年号についてはいずれまた。それはともかく「蟲毒なんてくぐり抜けなくても、古代に影響汚染までしでかしてた連中のがヤバいんじゃね?」「龍晶と連携しとけよ」などなどの批判も多く、実験施設を貸していた領王が実験体の暴走で死ぬ事故が起こってから、経過中のものが終結するのを待って全面禁止になっています。


 ちなみに。


12号

 レギロ領壊滅&蟲毒禁止の原因。劇中で起きたさまざまな事件の遠因になっていたり、いろいろな人物の過去に強く関わっている。紫等級をはるかに超越しており、タルク・ザーンですら手を焼くほどの生命力を持つ模様。これがいるから「タルクさまだいたい自業自得じゃね?」と思われてしまうが、タルクさまの歪んだ原因は龍崎。転生者が悪いんだよ!!(突然のけおり


77号 (シフィラグルム・カルジスティローソ)

 エトルヴリス領第一王子フレグィリエ・メーニス・エトルヴリス。異世界からの転生者「細川仁志」の魂によりこの世界には存在しなかった「亜攻撃」「亜防御」の液能を持つ。実験体の中でも、特異性においては最強格……と言いたいところだが、タネが割れている時点で大したことはない。転生者だが、ほかの転生者に思い入れはないらしい。


864号

 本編に一回も登場していないうえどこにいるかもまったく不明の実験体。いちおうそれらしき姿はタルクの見ている画面に映っている。テケリによれば「すでに紫等級を超えている」とのこと。作者の考えている能力はかなりシンプルだがそれゆえ強力なものなので、無双していたようだ。


1016号

 あれ。タルクが言うには「ルールが分からないのはともかく責任は果たしてほしい」とのこと。各方面から文句を言われどおしだが、本人の耳にいっさい入っていないあたり徹底している。


9792号 (エピロシディルザ・ピュエルクティラ)

 つい最近また享華した鋼鱗蛟のミズチくん、改め藍晶蛟竜のミズチくん(蛟竜もミズチ=蛟と同じ意味なので呼び名はとくに変わらない)。相当な重傷を負ったけど治ったみたいで何よりです、まだまだいっぱいいじめる予定があるからズタ息ボロ災で元気に過ごしてね。




 故・魔王はこいつらを魔将軍クラスまで育ててほしかったみたいですが、うん……「化身できる藍色等級以上のモンスター」っていう条件を満たしてないんでダメ。「政治能力ないやつはこれだから」とか「ボクらがいるんだからもっと頼って!」とか「みっちり教えたのにまるで分かってない、研究に戻りたい」とかさんざん言われる始末。


 12号は魔王領に入った王国軍を恐慌状態に追い込み完全に撤退させたので「やるじゃないか!」と言ったものの、流れで周辺都市三つオワタのを聞いてさすがに開いた口が塞がらなかったみたいですね。あんたなら命と引き換えでギリ倒せただろ、なんでやらなかった……。

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