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闇ニ玉散レ百剱  作者: 亜空間会話(以下略)
畏れ多き龍脈にて
31/61

間章 「断たれた剱・2」

 Dの前振り。


 どうぞ。

 とっさに防いだ爪が、切削痕のような瑕を刻み込まれていた。


「ジュうぅアァア、アあ……」


 木に叩きつけられて骨が少し折れたが、それは(・・・)あまり影響がない。死へ引きずり込むための序章として、まずはあの尻尾を何とかする必要がある。


「ウゥ、あ」


 死力の管が損傷している――もとある肉体を使用している分、それは再生のしようもない。大規模な内出血に匹敵するダメージだ。しかし、外部のどこからか伝わった指令はそれに着目した。


 折れたのは腕――ぐちゃりと曲がって、少しでも動かしてはならない状態だ。


(……**、****、*)


 衝動に指令が加わり、最適化はより強化された。跳躍してトカゲの一撃を避け、後退して準備を整える。トカゲはこちらへと走ってきているが、二足歩行かつ足の長さもまったく違う骸には追い付けようはずもない。


 トカゲが振るう刃は確かに危険だが――当たらなければ問題ない。そもそも仰角には限界があり、高さにしても安定して1ルーケに届くかどうかというところ。武器は尻尾であり、その耐えうる強度や角度でしか戦えないのだ。入力された情報によって、骸は的確な闘争を続ける。低木ならば両断してしまうような尻尾にも、だからこその弱点があった。


 伝わってくる指令は、ただの「殺せ」ではない。仕留めるための作戦が含まれており、走っていることにも理由がある。


(***! **)


 ちょうど大木の間をくぐり抜けたタイミングで、骸は自分の腕に食らいついた。


(*******!!)


 プシュウ――と噴き出した死力が、ゆらりと集まる。骸がボロボロと灰に変わっていくなか、抜け出た死力だけは不気味に漂う。そして、球状に固まって射出されようとした。


「シュゥアッ!!」


 トカゲは跳躍し、前方に回転してその尻尾を死の球体に向けて叩きつける――しかし、当たる寸前に球体はぼうん、と弾けてひどく臭いにおいを撒き散らした。


「ギュウ、ギュゥ!」


 尻尾をビュンビュンと振り回して風を払おうとするが、大した効果はない。


「ギュウゥ、ギュッ」


 むかつく! といったようなうなりをあげながら、しかし、したたかなトカゲは獲物を持って帰ることにした。






「やあ、やぁ……ロコゾブットじゃないか。久しぶりだねえ」

「な、なぜ貴様がここにっ!?」


 時が経つのは早いものだね、と「従魔将軍」は笑う。


「私の実験体確保を邪魔しているものがいるようだから、魔力が糸になっているところを辿ってみたのさ。死霊術が専門でなかったといっても、あまりにお粗末だね、これは」


 なかなか楽しい実験をしているようじゃないか、と彼は刃のような声で言う。


 森の中にある小屋のような工場のような建物の中で、金色のローブの男は異彩を放っていた。対する男の、薄汚れた麻の色をした、ぞろりとしたローブはいかにもみすぼらしい。金色は悪趣味だが、麻色は汚れすぎている。


「昔を思い出すなぁ……君は何と言ったかな? そうそう研究タイトル……「セラクネギュラの思考端末・詠唱端末の組み換え試行」。あれほど悪夢的なものは、まあ後にも先にもなかったね」

「悪夢的だと? 自家移植によるキメラのどこがおかしい」


「いや、いや……? 君は確かに大天才だ、享華前の段階で術式を施すことで、享華したときの姿を変えることに成功したんだからね。私も「成功だ」と聞いていっときは感動したものさ」

「失礼なことを言うな、俺はあの成果に満足している。実際「あれ」はきちんと違う場所に付いた口から発声したのだからな」


――コロシテ。

――コロシテ、スグ。


「君はあれを成功だというつもりかい……自ら死を望むセルフキメラを」

「ああ、成功だとも。感情について斟酌すべきではあったが、実験自体は成功だ」


「やはり君とは考えが合わないね」

「俺からすれば、貴様のように命の尊厳にこだわるものこそ理解不能だがな」


 乳房に眼球があり、両手に口が開き、下半身に蜘蛛の足が四本――背中から残りの四本が生え、蜘蛛の腹の部分に巨大な女陰のような模様がグロテスクに開き――さやさやと美しい髪をなびかせる女性らしき顔には穴ぼこが三つ、目と口があったのだろうその場所からもどろどろと滝のような黒髪が溢れていた。黒髪の表面を水滴が伝い、手を前に突き出して、彼女は懇願した。


 見ていられなくなったタルクは、強大な熱量を持つ光でセラクネギュラ……のようなものを瞬時に消滅した。ロコゾブットは怒り狂ったが、生命を冒涜したかどで追放され、ついに研究に戻れることはなかった。


「命というのはね、たいへん美しいものなんだよ。生きて死ぬ、それだけで輝く。命をねじ曲げるようなことをする君は、君の嫌う害虫程度の価値もないのだということに気付きたまえ」

「言わせておけば貴様……死なせては蘇らせ、アンデッドになってさえ手放さず手元に置き続けるモンスターどもが哀れだとは思わんのか?」


 まあ君のいう通り、程度問題ではあるんだが――と、タルクはにこやかに言った。


「ここは場所が悪いんだ、退いてくれ」

「断る。アンデッドのキメラという可能性を模索するに、これほど優れた場所はない」


「君が見たもの(・・)は私も知っている。君がなんとかそれを受け止めようとした心の反応も分かるとも。だが違う……君の判断は間違いなんだ」

「ならば貴様の考えを正すのみ――」


 ロコゾブットが手をかざすと、タルク・ザーンの首がゴキンと横に折れた。


「書き換えを開始す――」

「ダメだよ、その程度の力では」


 タルクが何事かをつぶやいた瞬間に、汚れた男は光の柱に変わる。


「オォォオオッッ!?!」

「まったく、一秒以上持つとは……しぶといね」


 命をモノに変える絶技を受けても、彼は数秒生きていた。


「――まあ、それも命というものだろう」


 ロコゾブットが見たもの。


 キメラ――無数の腕や足が生えた、たくさんの目や耳を持つキメラ。


 災害によって空間が揺さぶられ、彼が愛していた人々や治療しようとしていた人々、街の建物や木々や動物たちまでもが混ざり合ってしまった、悪夢そのもの。彼の心から離れなくなってしまい、あれが起きても討伐されないようにと、意思伝達手段を持とうと熱心な(・・・)研究を始めさせてしまったもの。


「ロコゾブット、君の間違いというのはね……。あれは災害であっても命ではないということなんだ。すべてが混ざり合った絵の具のように、ひとつを取り出すことはできないものなんだよ」


 魂の形を見ることができるものなら、それを見ることができるだろう。黒を基調にして虹の色彩がぐちゃりぐちゃりと波のように寄せては返すありさま――眩暈蛋白石(ブラックオパール)のように、ひとつの安定した色を見出すことができない魂である。


「さて、終わったところで……これはどうするべきなのかな」


 残ったのは、小さな石ころだった。




『なるほど。不安を取り除いていただいて、申し訳ない』

「いやいや、私も君たちに死なれては困るからね」


 蟲毒に下級モンスターを使うのは、上位存在をいくらでも知っているからだ。このように群れを作り、自分より明らかに上位の生物とつねに関わっているものもたいへん都合がよい。


「それでは……頼むよ」

『承知した』


 剣王竜は、子供たちに「この人についていくように」と指示を出した。道行きがどこへとつながっているのか、彼は知らない。


(はい、おやつだよ)


 約束通り、剣王竜はふたつの果物を一番になった子供に渡す。受け取ったトカゲは、嬉しそうに尻尾を振っていた。


(……しかしこの子供、タルクどのから聞かされてはいるが……いったいどれほど)


 呑獣大蛇に喰竜骸、どちらも子供たちにはたやすい敵ではない。蛇については持ってきただけだとかれから尻尾で説明されたが、骸の倒し方はわかった、とも言っている。


(いっておいで。いいこだ、きっといきのこる)

(いってくるね、おじちゃん!)


 蟲毒には凶暴なモンスターを多数放り込む。この子供が生き残る保証などどこにもない、まだしも死ぬ保証をした方が賭けには勝ちやすかろう。


(――なにか、空恐ろしいものを感じるな)


 タルクの、満面の笑み。彼には、それが何か恐ろしいことが起きる前兆だとしか思えなかった。


「――じゃないのかい、――――?」

『いかがなされた?』


「む、失敬。こちらの話さ」

『そうか。――息災で、タルクどの』


 問題ないさと笑って、男は歩き去っていった。






「彼に死霊術を教えたのは君じゃないのかい、ゾンバァロ?」

『違いますよ……いまひとつ食指が動かなかったのでねぇ。キメラのコントロールかと思ってみればアレでしょう、つまらないにもほどがある』


「それならば安心だ。ところでだ、少し面白い研究材料が手に入ってね。こいつを活かす方法を考えてくれないか」

『ほう? あなたが面白いというほどのものですか、楽しみにしていますよ』


 通信の魔法をぷつりと切断し、タルク・ザーンは手にしたものをためつすがめつ、どうしたものかと考える。


「以前からの構想にあったものを作れるかもしれないな……」


 小石のようだが、秘めるエネルギーは双命核に匹敵する。


「ゾンバァロの協力もあれば――「死」が誕生する」

 次章でアホほど大量のモンスターを出さなきゃならないのと、仕事が忙しいのと、Cを挟まなくてはいけないので投稿がものすごく遅くなります。もう寝る時間だし……。明日また設定その他をこのあとがきに書き加えておくので、それでも読んでしばらく耐えていただければと思います、すいません。今出せる情報はこれだけかな?


セラクネギュラ=

「セラ」テイド+アラ「クネ」+カロテナ「ギュラ」


 足が速いハエトリグモのような「セラテイド」、わなを張ることを得意とする「カロテナギュラ」の特徴を併せ持つクモのモンスターが享華し、女性の上半身を持つ「アラクネ」になった姿。それぞれの成分の多さから名前の順番が決まっているので、「スピードタイプ、申し訳程度にわなも使うアラクネ」といったところだろうか。女性の上半身がまるごとあるため、アラクネ成分は真ん中あたりに来やすい。某蜘蛛子さんはかなり糸を使っているので、当てはめるならばセラテナクネあたりだろう。


 蜘蛛のモンスターについては単語が多く「カロテナギュラ」「セラテイド」「タランテラ」「アリデュロギア」「アラクネ」とじつに五種類もの分類があり、この世界において蜘蛛の魔物が多彩、かつ住人たちの関心も強いことが見て取れる。カマキリが早い・遅いでしか分けられていないことに対して、大きさや行動、狩りのしかたや変種についても網羅されている。




本編に登場した「セラクネギュラの思考端末・詠唱端末の組み換え試行」について


 脳を「思考端末」、口や手など魔脈が集中し魔力を行使する場所を「詠唱端末」ととらえ、それらの位置を移動・接近したり、または遠く離したりするなどの実験から、もっとも効率的な魔力の行使にアプローチしようとした研究。通常の生物については自家移植によるキメラ(セルフキメラ)がすぐに死亡することははやく確認されていたため、通常の生物の造形から明らかにかけ離れたアラクネ類が選ばれた。


 享華する際に術式を注入しておおまかな形を決定、そのまま享華終了を待って、完成した形が生存に耐えうるか・魔法詠唱を行えるか・その場合の魔力消費効率の上昇または下降について調査する。成功した場合その増産に取りかかり、魔王軍の戦力増強に寄与することが期待されていたが、意識ある種族の尊厳にかかわるとして「従魔将軍」タルク・ザーンが一号実験を強制的に中止。計画は頓挫した。


 実験記録が経過を含めいっさい残されておらず、注入した術式についても個人で合成されたものとみられ、研究自体の正当性が問われている。証言したタルク魔将軍によると「ひどくおぞましいものを見た。意識があるのに殺してくれというモンスターを二度と作ってはいけない」とのこと。

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