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闇ニ玉散レ百剱  作者: 亜空間会話(以下略)
畏れ多き龍脈にて
26/61

5「完全無敵」

 第三の転生者、登場。


 どうぞ。

 乾いたものをたくさん食べてのどが渇いてしまったミズチは、水場を探していた。洞窟の中でまとまった水を探すこと自体はさほど難しくないはずなのだが、なぜか見つからない。近くにいる生物の気配はそれほど大きくないが、以前のコウモリと同じく、なぜか分散している。


 ちょろちょろと流れている水を見つけたミズチは、とたとたと歩み寄ってそれを口に含む。かれは不思議な味を感じたが――問題なかろうと判断して、ゆっくりとのどを潤した。こくり、こくりとのどが動くたびにかれは満足を覚え、飲み終わると同時にけふ、とげっぷをする。


 眠ろうとしたミズチだが、ここはダメだ、と歩き出す。


 生物の気配があの六角晶くらいの静かなところを見つけられればいいのだが、その点でここはあまりにもうるさすぎる――見えもしない何かが、異常に満ちている。害意を感じてはいないが、だからといって隙をさらすほどミズチも愚かではない。しかし洞窟をあちらこちらと巡っていても、体力を消耗するだけだ。気配の少ない方へと歩みを進めようにも、まんべんなく分散した気配が集中を途切れさせる。


 というのも――ここは、ごくわずかな体積しか持たない凝魔霊命体(イメラティナ)「スライム」が生まれては死んでいく場所だからである。


 ことわざとして「スライムは見つけたら殺せ」というものがあるが、これはまことに正しい。スライムは清浄な環境でしか生きられず、成長中にわずかでも不純物が混じればすぐに死ぬ、ひどく弱々しいゲル状モンスターだ。


 それが生きて外に出ているということはすなわち、不純物などものともしないほどに浄化能力を手に入れ、個々に合わせた享華を始めようとしている前段階――国ひとつを飲み込む厄災の前兆である。棒で叩いて倒すのではなく、屠殺用の破魂刺し針や炎魔法で焼き尽くして構造を完全に破壊することが望ましいとされている。




 かれは、生まれては消える気配がどういうものかはさておき、それが大した力を持たない赤等級以下のものであることに気が付いた。その程度なら、どれほど特化した攻撃であってもミズチには傷をつけられない。ならばここは安全であるようなもの。大きな気配が近寄ることや、同格の気配もない。ここで眠っても問題はなさそうだ、とミズチは尻尾を丸めた。


 洞窟の中は外敵が少なく気温も安定しており、エサが少ない点をのぞけば非常に過ごしやすい場所だ。体温を保つ必要があるため食事は多く取らなくてはならないという矛盾はあるものの、4ルーケになるかどうかというところまで成長してきたミズチは、エサにそれほど苦労しない。少なくとも一度の食事に命をかけるほど弱くはなかった。


 夢でも見ているのだろうか、尻尾がふにゃりふにゃりと左右に動いている。


 1ルーケ以上もある鉱蟹がゆったりと歩いて通り過ぎ、六角晶はまどろみながら魔力を吸い込んでは放出し、――以前破壊されたミズチの晶殻は、やや丸みを帯びながらも再生しつつあった。睡眠中は、目に見えるほどの速度ではないが、その再生が加速する時間だ。晶殻を形成する物質化魔力が安定し、脈動魔力を刃気として使わないために、体内で魔力の物質化が促進されて晶殻がより成長していくのである。いまのところは破壊されたぶんの修復が優先されているが、外側にいびつにならない程度に少しずつ物質化魔力が定着しており、成長が完全に止まっているわけではない。


 カルン位階5程度の硬度を誇る鱗は、地の竜たちに比べればまだまだ足りない。痕源野に送られてきたとき受けた炎の傷も、いまだに治っていなかった――あの「幻灯螂」の炎は影響汚染によるもので、耐熱性とはほぼ関係ないのだが。尻尾にも炎を受けてしまい、先端がでろりと歪んで切れ味をほとんど喪失していた。引っ掛けた勢いでちぎり切るくらいしか用途はないだろう。尾剣の中ほどは切れ味を残しているが、先端が欠けるのは刀剣にとって致命的である。


 時期からして起きてもいい頃なのだが、脱皮が起こらない――この事実は非常に重要である。生物の殻や骨、鱗を形成する「ロクテノ」、そして血液に含まれる鉄分、鱗に取り込まれた「キロント」、晶殻の梁として魔力を支える骨格になっている「結節質アルエリウム」。もう少しばかりあるが、その内訳はキロントを除いておおむね人間と同じである。しかしミズチの体に含まれる金属は、今日この日、一種類だけ増えていた。


 単体では紫の金属「レウジェギート」が、かれの知らぬ間にその体内に入り込んでいる。見た目に知る手段もなく、無味無臭の成分として入り込んだそれは――生物の体を崩壊させるとうたわれるほどの猛毒である。自然には排出されづらく、中毒が起きた段階ではすでに手遅れだとされているが、かれはそれに気付いていない。


 かれが体内にてその可能性を模索する――よりも前に、かれは目を覚ました。


「――!」




 強力な気配が、ほんのすぐ近くまで迫っている。ごく遠くに存在する、まったく動かない気配を警戒しすぎ、近くの強力な反応を見逃していたらしい。いまさらながら失敗に気付いても、手遅れというほかなかった。


「初めまして……? じゃ、ないな。せんせーに見せてもらったときとそんなに変わんない感じか。ひと月も経ってないし、そりゃそうなんだろうけど。ちょっと焼け焦げとかあるけど、大丈夫か?」


 大丈夫かとはいいながら、心配している声のトーンではない。


「いやぁ、驚いたぜ? 転生者を倒すなんてのはなかなか……まあ、あいつはルート選択間違ってた気がするけど。地の賢さが違うから、見ることもできない工夫なんてし出したりな……。それに、せんせーが言うには全員すっげー必殺技持ってるらしいし? 龍崎なんて影響汚染までやったらしいじゃん」


 その姿は、享華することで「オトコ」になる「オトコノコ」というニンゲンに似ていた。声は高く可愛らしいため、オンナノコの出すものにも似ている。両方の特徴を併せ持っている、もしかするとキメラのようなものかもしれない。ミズチはとりあえず自分の知識にある中でそれっぽいことを考えた。


 銀髪碧眼のごく幼い少年が、なめらかに切断された岩に座っていた。距離にして十ルーケはあろうと思われるが、逃げられる気がしない。


「修行してて、ようやく攻撃のほうができるようになった。熟練度が数字になってないってすげー大変なんだな、よくわかったよ。……どうよ、これ?」


 ミズチが足を踏ん張って、跳躍することで相手から大きく離れようとした瞬間に――


「聞けよ。耳の穴開いてるよな?」

「ギュウッ!?」


 ミズチの鼻先に、小さくやわらかな手が触れた。まっすぐにかれを見据える少年の目は、年齢とはまったく無関係な蓄積を経た無間の闇を宿している。


「この岩をさ、きれいに切断したんだよ……もンっのすごく大変だった。こいつをもうちょっと修行しなくちゃならないんだよな。それに、俺ってチート持ってるじゃん? こいつをせんせーに見せなきゃいけなくってさぁ。つーわけでよ、……な?」


 古橋のこともあるしな、と少年は不釣り合いに皮肉めいた笑みを浮かべる。


「べっつに復讐しようってんじゃぁないぜ? ゲーオタのくせに彼女いるのがウザいっつか、なぁ。友達でもなんでもないのが死んだところで、だよ。お迎えが来たらしいし? どこまでだよっつー話だろ? ただなぁ……そのせいで俺まで実験台になったってところがムカつく。チート持ちが双命核もらってみ、どうなるよ」


 洞窟に、それなりに通る声が響いている。少しばかりモンスターが近寄ってきてもおかしくはないはずなのだが、おそらく何も寄ってこないだろう。


「――こうなるんだよ」


 敏傷蟷螂(シフィラグルム)陰鋭灯螂(レェゼグルム)の息子として生まれた、次の刺客。魔王領内エトルヴリス領第一王子、フレグィリエ・メーニス・エトルヴリス――「完全無敵」と謳われる液能を持つ、タルク・ザーンの実験体でも攻防両方において最上位に位置する無欠の怪物。


 ――転生者、細川仁志。

 シフィラグルム(現地語)≒「カマキリ」

足が速い方。すばやく攻撃に出て、相手を一瞬で仕留める。真空の斬撃を繰り出したり、その速度で鎧や岩塊さえ両断する。


 レェゼグルム(現地語)≒「カマキリもしくはカカトアルキ」

足が遅い方。レェゼ(ゴ)は「遅い」という意味。擬態したりゆったり歩く術者タイプ。古橋君は素早いけど、見た目的にこっち。遅さを補う強さはある。


 要するに「物理+魔法+転生特典の華能=無敵」。これまで出てきた転生者の中では最強ですね。ぶっちぎりにもほどがあるというか、ふざけんなてめーというか。




 紫色の金属「レウジェギート」のモデルはカドミウム……みなさん「イタイイタイ病」ってご存知で? あれが分かれば何が起こるか分かるはず。


 にしても、チート得てイキるガキとか最低だわー。しかも王子? これもうなろうだろ(自己矛盾)。繰り返すが「チートクソガキ」ではないです……チートでクソガキだけど、こいつは違う。そのときまでネタバレしないつもりなんでアレですが、三種類のヤバい能力を全部きちんと使えるから古橋君より百倍くらい強い。魔将軍候補なのかも?

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