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闇ニ玉散レ百剱  作者: 亜空間会話(以下略)
畏れ多き龍脈にて
23/61

2「規格外」

 いきなりヤバめの登場。


 どうぞ。

 道行きでミズチはいくつかおかしなものを見たが、意味が分からなかったために大きな感慨もなかった。ここにいるべきだが移動すべきではないと悟ったため、何か大きなきっかけがない以上はしばらく留まると決めている。


 ひとつは、茶色い錆に侵された岩だ。それはなくなったはずの新たなる破滅(・・・・・・)を意味し、この世に存在してはならないものがこの世にあることの証明である。ミズチはエサの金属光沢には目ざといが、錆は気にせず、避ける。それはかれの目に入っても注目すべきものとは映らなかった。


 もうひとつは、遠くで突如として崩壊する山々である。夜明けとともに、遥か遠くに見える山脈のようなものが同心円状に崩れ去り、直後に凄まじい大音響が轟いた。地震や大風のたぐいでなく、何かしら生物の鳴き声であろうことは察せられたが――あまりの大破壊に、ミズチは近付く気すら失せてすぐにでも逃げ出したい気分になった。安全地帯は完全に遮音できる場所しかないが、そういった結界を作り出せる生物もいない。出会い頭にあの大爆音をぶつけられたら即死、そういう未来しか見えなかった。


 とはいえ――それらは10ルケリクスよりもまだ先の出来事であり、かれの身近ではない。錆びた岩は身近なものであるが、その能力を扱うものに直接出会わなければ対処のしようもない。


 もと来た道のりをたどりながら、ミズチが巣穴に着くと――


「……」


 巣穴に何かが入った形跡がある。少しは小さく偽装しておいた入り口が、乱暴な斬撃でこじ開けられていた。痕から見るに切れ味はさほどないものの、恐るべき膂力でそれを振ったのだろうことが分かる。ミズチはそれを警戒しながら、巣穴の中にある気配を必死に感じ取る。魔力は薄いものの、発する迫力は「クルナール」と呼ばれていたいつかの同族並み――青等級程度だろうか。


 全力でかかれば勝てない相手でもないが、そもそもの力は相手のほうが上である。かれと同じように工夫をする相手であれば、かれに利点があっても覆されるおそれのほうが大きい。極力足音を消しながら近付いたつもりだったが、中にいる何かはすでにこちらに気付いているようだ。こちらをうかがっている――ことによると、その目で直接に見られているような感覚がある。


『ちぃーっすゥ! 気配がみんなここを避けてく中、悠々と出てくるんで驚いちゃったよ。察するにこの辺のボスなんだろ?』


 聞こえた声はオトコのようだったが、連なる足音はいつか聞いた金属的な虫のものだ。巣穴破りはカカトアルキ、しかもにっくきオンナと同じ「人語を話すモンスター」であるらしかった。シルエットは鉄色の虫と同じだったが――燃えるように赤と橙が入り混じる体色と発達した前足が、享華を遂げていることをはっきりと示している。


『この〈FULL鋸(フルのこ)〉が、モンスターの頂点に立つ! いかにも序盤の中ボスっぽい、ちょっくら凝ったデザインだね? 試し斬りにはちょうどよさそうだな……』


 ほとんどの生物は、成体になれない。十数年ものあいだ手厚い保護を受ける人間でさえそうなのだから、虫けらごときが簡単に成体になれるはずもなかった。しかし、彼はおそらく成体になることができる。


 節足動物、昆虫類・炎魔系統――滅燼類中位種「炎朧魔鎌」。ミズチが痕源野へと転移させられた初日に倒した「幻灯螂」の享華体である――否、肉体はそうだが、中身は違う。肉体から離れた魂が飛翔し、世界間移動を果たし、魂を損傷させることなく別の肉体へとなじむことのできた奇跡の権化、その一人。


 ――転生者、古橋颯太(ふるはしそうた)


『いやー、ボスに会えてよかったなぁ。スタート地点から難易度ディスペアーかよと思ったら、たまたまやってくる感じね。というかランダムエンカかな? 初めてのボスクエなのに数体モノとか言わないよね』


 ごちゃごちゃとしゃべりながら、古橋は巣穴の外へと出て、姿を光のもとにさらす。


 あのオンナとは違って、言っていることにさらに知らない言葉が大量に混じっている。トカゲだけが用いる技術があるように、ヒトには彼らだけが使う技術が伝わっているらしい。つまり、いま出てきた言葉はそれに関連するものなのだろう――と、ミズチは間違ってこそいないが買いかぶりすぎている推測をした。


『まあ、こういう技術こそモノを言う世界なわけだし……出会える運とかも必要なのかな? 条件はわからないけど進化したし――まぁいっか、ボスだよな。この日のために上げたスキル、見せてやるよ』


 奇跡の権化は、その身に与えられた祝福にふさわしいだけの、恐るべき一撃を放つ。ミズチはとっさに跳躍して、その攻撃をかわした。


『地の竜っぽいだけあって、そこそこやるな。これ、かわしたのは鳥くらいだよ……』


 瞬発力は小鳥に匹敵する、ということなのだろう。ばね仕掛けのように伸びた腕の鎌は、ミズチが立っていた地面に斬線を描く。ざあっと巻き上がった土ぼこりが、視界を遮った。不可視化の液能を持つ相手にとって絶好のチャンス、姿を隠して死角へ回り込むに違いない――というミズチの推測は、大外れに終わった。


 あの(・・)火球が、陽炎を揺らめかせながら進んでくる。


『並列起動ってだるいんだぜ?』


 明らかに見かけ上の軌道がずれていた。この前の「幻灯螂」の能力は不可視化でなく幻惑だったのだが、ミズチはまだそれに気が付いていない。この前に死んだかれの力の使い方が最大であったのなら、古橋の力はコントロールを強めて最小にまで縮小されていた。ほんのわずか――そう、相手を殺すために使う力は、大きければ強いというものではない。ほんのわずかな失敗が相手を殺すなら、逆にコストを大きくしてでも力を圧縮する必要がある。


 液能「虐炎」の内容はたいへんシンプルだ。それが説明文になっているとすれば「魔力を消費して幻の火球を作る。着弾した火球は相手が死ぬまで消えない」といったものになるだろう。


 どこに発展性があるのかといえば、「幻の火球」という部分――これは変更・削除可能な箇所である。削除するならば消費の削減、変更するなら消費の増加が起こるが、古橋はまだ削除ができるほどにこの液能を使いこなしていない。言うなれば、記述の一部を黒塗りにすることで効果を帳消しにはできたものの、インクの消費量は増えた、とでもなろうか。


「キシュウッ!!」


 ミズチは尻尾を振ることで、なんとかその炎が命を奪う速度を遅らせようとした。


 かれが「魔力眼」を使うことができたのなら、なんとお粗末な隠蔽だろうと嗤ったのに違いない。しかしながらかれは、魔力を操る際に魔力を感じる程度の――さらにお粗末な感知性能しか持っていなかった。


 実際のところ、火球はさほど軌道をずらしていない。顔面へまっすぐやってくるという威圧を期待したこともあるが、真の目的は背にある晶殻を破壊することだ。ユキノとは違って、彼はそれが魔力の貯蔵庫だと一瞬で見抜いた。溜め込んだ魔力を使う機会をなくせば、最後の切り札はなくなる。肉体だけで戦うならこちらに利があると考えたのだ。


「シィイイ……ッ!」


 ――尻尾の先端に、「虐炎」が着火した。


『本来ならこれもスキル進化してるみたいなんだけどなぁ……熟練度足りないっぽいんだよ。どっちかってと物理寄りらしい』


 液能「夢幻灯」、気能「瞬撃」をぞんぶんに活かしながら、その前足が岩を砕き低木を切り飛ばす。移動にかかる衝撃が少なくなる体構造へと変化することによって、より高速、高負担の移動をこなせるようになるという気能――虫にあるまじき、恐るべき力だ。


 ミズチも物理攻撃をおもにして戦ってきたため、こちらについては強化された幻惑を交えられても勘が働く。速度自体も申し分なく、かれは斬撃をするりするりとかわすことができた。


『なるほど、お相手さんも物理ってわけ。じゃあやることはひとつ、正面から勝てばいいんだよな?』


 狙い通りだ――と、古橋はほくそ笑む。


(やつはかなり高い魔力を持ってる。だが、見た目からして無属性……しかもこの死線で一度も魔力を使ってない。使えないという推測のほうが正しそうだ)


 見た目の色やデザイン性から属性を推測する、という技術は人間ならではのものだ。属性という概念はともかく、エネルギーの発生や物質の変形、操作などはミズチの力の範疇には入っていない。いわゆる「魔法」は、かれには使えない――そこまでは正しかった。


 そこからは、違う。


 古橋が前足を振り下ろす準備をした瞬間、その勘に反応するものがあった。


『――ッ、ぶねぇ』


 何が起きたのかは分からないが、何かが中足をかすめている。さいわい擦れたような傷もなかったが、今の気配は同族の刃以上に危険なものだ。


(……いや、まさかとは思うが。無属性魔法じゃなくて――そうか、物理魔法!? なんてむちゃくちゃな魔力の使い方だ……これはヤバい、見失ったら積みだ)


 ミズチは人間と戦ったことがあるが――人間に殺されそうになったことはない。そして、人間の知能とモンスターの能力を併せ持つ怪物が、本気で殺しにかかるという恐ろしさを知らなかった。


『評価修正だな……これはボスだ、中ボスじゃない』


 古橋は、それ(・・)を使う機会がようやく来たことを悟った。規格外の生物のみが為すことのできる液能――否、「華能」をいま発動する。


『〈()()――〉』


 全身の赤がその熱を増し、輝かんばかりにほとばしる。それこそは、彼が自らを修正しようとするほどに強力な、命を削ってでも使う必要があると決断した――


『〈()〉ぉおおアアアアア――――ッ!!!』


 ――決して使ってはならなかった、必殺。

 古橋君ゲームに毒されすぎなんだよなぁ……魔力使ってるから魔法ってわけではないです、いつかまた解説しますけど。人間は「魔法」を使ってるけど、モンスターは「魔力」というか、言葉通り「液能」を使っているので……。やっぱ解説は必要そうですかね? ここのこれに説明が欲しいって人は要求して、どうぞ。


 なので、古橋君が使っているのも厳密には魔法じゃなくって……ね? 理解してくれ転生者、ヒトとモンスターじゃ魔力量がぜんぜん違うんだよ。

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